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第二十八話 拒絶の平手打ちと奪われたスマホ。狂信的な母親から彼女を救うため、僕はかつての同級生にSOSを出す

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


「話し合いでどうにかなる」——そんな甘い考えは、お母さんの狂気的な束縛の前に無惨にも打ち砕かれます。

圧倒的な絶望の中、大切な人を取り戻すために悟はついに「禁じ手(?)」を使います。かつての同級生であり、頼れる夜の街の住人・姉小路雪子。二人の共闘の始まりをお見逃しなく!

「お母さん、ただいま帰りました」


 曉子さんが玄関口でそう言うと、廊下の奥から曉子さんのお母さんの返事が聞こえる


「あら、曉子なの?」


 するとすぐにお母さんは姿を現し、ぼくを見るなり表情が固まった。


「曉子。これはどういうことなのか説明して頂戴」


「お母さん、お願いだから怒らないで話を聞いてほしいの」


「怒るかどうかは話し次第よ。あなた、名前はなんて言うの? どこの何者かしら」


「お母さん!」


「まさかウチの娘に……!」


「僕は、尾上 悟と言います。吉永部長にお世話になっているサプライヤーの営業マンです」


 吉永部長、ごめんなさい。


 部長が曉子さんの叔父さんであることを申し訳ないですが利用させてください!


「あら、そうなの。それで、曉子とはどんな」


「はい、曉子さんのお母様のお許しを得て、きちんと付き合いたいと思っています」


「そんなバカな話!」


「お母さん! 悟さんになんでそんなこと」


「曉子は黙っていらっしゃい! まもる叔父さんにゴマを擦っているようなサプライヤーの営業マンと曉子が? 冗談は顔だけにしなさいよ!」


「お母さん、衛叔父さんは悟さんなら私を任せられるって」


「知らないわよ。あなたは私の娘でしょう? なんで衛叔父さんがあなたの相手を決める権利があるの!」


「お母さんこそ、私の相手を決める権利なんてないんだから!」


 鬼の形相でぼくや曉子さんに迫るお母さんには、一筋縄ではいかない覚悟が見える。


 でも、僕だってここは一歩も引いてはならない。

 

 しかし、お母さんに拒絶されたらおしまいだ。


「曉子さんに相応しい相手の、具体像があればおっしゃってください」


「あなたでない事は確かね。まず頭がいいこと。誠実なこと。曉子を一生愛することができること。そして、私とうまくやっていけること。あなたは全部当てはまらないわ」


「お母さん! 悟さんは国立大出身だし、英語だって話せるんだから。誠実さなら私が保証する。ここに来て、ちゃんと話そうと言ってくれたのは悟さんなの。わたし、ウソをついて悟さんの家に泊まろうとしていたのよ!」

 

「このケダモノが!」 

 

 いきなりお母さんは僕の頬を打った。


 力はなかったが、心はものすごく痛かった。


「そのことについては、僕が悪いんです。僕は曉子さんをちゃんとここまで最初からお送りするべきだった」


「ほら見なさい。こんな男、あなたは騙されているのよ! さあ、帰って頂戴。そして金輪際曉子には近づかないで」


「いえ、それだけは従えません」


「聞こえなかったの? 帰りなさい」


 曉子さんは僕とお母さんの間で困り果てた顔をしていた。


「僕は、何度でもここに曉子さんとお付き合いさせていただけるようにお願いに来ます。そしてぼくが曉子さんに相応しい男だとわかっていただけるまで何度でも」


「警察を呼びますよ?」


「もう、やめて! お母さんがそこまでいうなら、私出ていくから!」


「曉子! なんでわかってくれないの? 母さん、あなたの幸せだけが母さんの希望なのよ」


「私の幸せってなんなの? お母さんが決めた教会の人と結婚することが私の幸せ? そんなの嫌だわ。お母さん、教会に騙されているってなんで気が付かないの? お金もたくさん使って。お父さんまでいなくなって。私、一つも幸せなんかじゃないわ!」


 唇を震わせて、涙を流しながらお母さんに抗議する曉子さん。


 僕が本当ならばお母さんを説得しなければならないのに。


 いや、その考え方自体がおこがましいのかもしれない。


 これは母娘の問題でもあり、僕が容易く考えて介入すべき問題ではなかったのかもしれない。


 でもだ。僕はこのままだと、一生お母さんには認めてもらえないだろう。


 一体どうしたらいいんだ。


 結局、ぼくは曉子さんの家から閉め出された。


 考えうる最悪の結果だった。


「母は一筋縄ではいかないわ」


 という曉子さんのセリフを頭の中で反芻していた。


(あのお母さんと上手くやっていくなんて、本当にできるんだろうか)


 トボトボと歩く道すがら、曉子さんからショートメールが届いた。


「今日は本当にごめんなさい。母に会ったら、こうなることは分かってたんです。でも、悟さんならもしかしてって」


「僕の方こそ役立たずで本当に申し訳ない。まさか、家に軟禁されたりとか……そういうのはないよね?」


「そのまさかなんですけど、母に携帯電話を奪われそうになりました。明日から会社に行かなくてよいと言っています」


「でも、そんなことしたらお母さんは働いていないし、二人の生活が立ち行かなくなるよね? それにもし携帯電話を取り上げられたら、僕たち完全に会えなくなるかも」


「わたし、もう家を絶対に出ます。悟さん、こんな家庭の女なんて本当は嫌じゃないですか?」


「ぼくは曉子さんに言いましたよね? ぼくは君の全部を受け入れるつもりだよ」


「そんなこと……悟さんに迷惑ばかりかけて」


「大丈夫だよ。でも、今の状況を何とかしないとね」


 ぼくが送ったショートメールを最後に返信が途絶えた。


 5分くらいたって、ようやく戻ってきた返信に書かれていた言葉に、ぼくは絶句した。


「このストーカー男! 警察に告発してやるからそのつもりでいなさい」


 結局お母さんに携帯電話、奪われたみたいだ。


 僕はストーカー男になってしまった。


 本当に警察はやってくるのだろうか。


 いや、心配はそこじゃない。


「家を出る」とは言っていたが、曉子さんは結局はお母さんに強く出ることはできないだろう。


 家を出たら出たでそれは大騒動になるのは目に見えている。


 どうやって曉子さんを取り戻せばいいか。


 考えるんだ!

 

 何故だか咄嗟に姉小路の顔が浮かんだ。


 直感を信じて電話をかけてみる。


「姉小路、すまない、こんな時間に」


「尾上? どうしたの。びっくりするじゃない」

 

「姉小路に相談する話でもないけど、ほかに適切な人が思い浮かばなかった。すまない」


「ねえ、りおんがどうかしたの?」


「りおんちゃんの家庭の話は知っているか?」


「いや、よくは。プライベートはなるべくお互いに話さないようにしてるから」


「そっか。姉小路を女と見込んで話すから、僕と姉小路だけの秘密にしてくれるか?」


 僕は過去に起こった東堂家の話を曉子さんから聞いたとおりに伝え、曉子さんのお母さんと対峙したさっきの話と、今の状況を整理しながら伝えた。



「尾上、結構ヤバい状況だな。だが、それで私に助けを求めてくるとはなかなか筋がいいぞ。お前」


「何か、手立てを一緒に考えてくれないか?」


「そうだな、私の言うことを聞いてくれたらいいぞ」


「なんでもする。この通りだ。情けない話だけど、りおんちゃんのお母さんに会うまでは僕は何とかなると思ってた。ビジネスの商談と同じだとか単なる自惚れだった。完全に状況を見誤ったよ」


「自己批判もいいけど、まずは会おうよ。私今完全にリラックスモードだったから小一時間くれる? 待ち合わせは堕天使《お店》で」


「えっ! なぜそこ」


 電話は切れた。


 贅沢は言えない。


 それにしても姉小路、「私に助けを求めるとはなかなか筋がいい」とは。


 兎にも角にも、僕は「堕天使」に向かった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「いらっしゃいませ! って、悟さんじゃないですか」


 堕天使のボーイさんにも完全に顔と名前を憶えられている。


 そりゃいろいろやらかしてるから覚えない方が変だ。


「どうしたんです? りおんちゃんなら今日は休みですよ」


「うん、知ってる。あと30分もすればクレアが来るはずだからちょっとここで待たせてもらってもいいかな?」


「まあ本当はダメですけど、そこの椅子にでも座っててくださいよ。どうしたんです? クレアさんとなにか」


「本当にごめん、今は言えない。別にやましいことではないから安心してください」


 ボーイさんは、「はーい」と短く返事をしてフロアに戻って行った。


最後までお読みいただきありがとうございました!

お母さんの拒絶、凄まじかったですね……。ロジカルなビジネスの交渉とは次元が違う「毒親の壁」にぶつかり、自分の甘さを痛感する悟の姿がリアルで胸が痛くなりました。奪われたスマホから送られてきた「このストーカー男!」のメッセージにはゾッとします(泣)。

しかし、ここで姉小路クレアに助けを求める展開が激アツです! 「私に助けを求めるとはなかなか筋がいいぞ」と笑う彼女の頼もしさたるや! 果たしてクレアにはどんな秘策があるのか!?


「クレア頼む!」「悟、絶対に暁子さんを取り戻せ!」とテンションが上がった方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 皆様の応援が執筆の最大の原動力です。反撃の次回もお楽しみに!



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