第二十七話 君を一人にしたら、二度と会えなくなる。呪縛を解くための深夜の訪問
いつもお読みいただきありがとうございます!
前回の甘いお風呂ハプニングから一転、暁子に最大のピンチが到来!?
鳴り響く母親からの着信。ごまかしきれない嘘と、ついに明かされる暁子の「家庭の事情」。狂信的な母親の存在に震える彼女を前に、目を覚ました悟が下した決断とは……。
悟の男気が光る、緊迫の第二十七話です!
「はい」
「はい、じゃないわよ。あなた、今どこにいるの?」
「今日はお友達の家に泊まるって話したでしょう?」
「私は聞いてないわ! なんていう友達なの? 今電話を代わりなさい!」
まず母の聞き漏らしを狙ったが、無駄だった。
「そんな大きな声を出さないで。安原 南ちゃんの所よ。お母さんも知ってる」
次に私は嘘をついた。
安原 南という女の子は慶法大時代からの友達で、何度かうちに遊びにきた事があった。
南ちゃんには、今日のことは、さっき手短に電話で話してあるから口裏は合わせてくれる。
しかし、今電話を代われと言うのは想定外だった。
「安原さんに迷惑じゃない? お母さんからも謝っておくから代わってちょうだい」
南ちゃんは寝ていることにするか、お風呂に入っていることにするか。
でもこの選択肢は問題の先送りになるだけだ。
買い物に行ったことにする?
いや、これもやっぱり同じ事だな。
時間稼ぎでお風呂に入っていることにして、かけ直すときに三者通話で南ちゃんとお母さんに話してもらおう。
「南ちゃん今お風呂に入ってるから、出てきたらかけ直す」
と言ってお母さんとの通話を切った。
すかさず南ちゃんに電話を掛けた。
呼び出し音はしているけど繋がらない。
LINEも送ってみたけど既読が付かない。
どうしよう?
母は厳しい上に、猜疑心が強い。
生半可な説明では納得しない。
母の望む決定的な証拠があらば良いのだけれど……
気だけが焦る。
南ちゃんに電話を何度もかけ直す。
やっぱりダメだ。
「暁子……さん? どうしたの?」
悟さん、起きたんだ!
私はハッとして、自分が下着の上にバスタオルを巻いただけの格好であることに気づいた。
慌てて側にあった自分の服を抱え込む私を見て、悟さんはすぐに状況を察してくれた。
「……何か、困ったことになってる? 服を着てからでいいから、話を聞かせてくれないか」
「あ、あ、あのっ! 母に外泊のことまだ伝えてなくて」
悟さんは私に憐憫の眼差しを向けてくる。
悟さん、私をそんな目で見ないで……
「お母さんがダメだというなら、ダメなんじゃない?」
え? なんで? 私こんなに一大決心してきたのに!
「悟さん、私と一緒に居てくれるんじゃないですか?」
「もちろんそうだよ。僕はずっと暁子さんと一緒に居たいよ。でも、お母さんがそれを望んでない」
「母のことは関係ないです!」
つい、叫んでしまった。
そうは言ったけど、実際私は束縛されていて、キャバクラで働いている事もお母さんのせいなのに、納得してもらえてない。
それどころか、
「お前のために私は毎日徳を積んで、教会にもお布施をしているの。そんな所で働かなくても直ぐにウチは豊かになれるのよ?」
なんて半分頭の狂ったような繰り言をしている。
もう、あの優しかったお母さんはどこにも居ない。
今こそお母さんと決別する時なのでは?
そんな気持ちにさえなってくる。
でも、悟さんはお母さんが納得していない限りここに居てはいけないという。
もう、悟さんの頑固頭!
「悟さん、私を、私を母から救ってください!」
「ど、どうしたの? 何があったのか聞かせてくれないか?」
私の焦燥しきった訴えで、悟さんも只事でない事が分かってくれたみたい。
でも、お母さんが宗教にハマっている地獄を悟さんに知られたら……
「暁子さんが悩んでいる事があるなら、なんでも話して欲しい。僕では物足りないですか?」
「そんな事ないです。でも、私が母の事を話すと、悟さんにも迷惑がかかったりしたらイヤだし」
「暁子さん」
私、悟さんの切れ長の優しい眼で見つめられてる。
「僕にとって、曉子さんは一番大切な人になんですから。迷惑もがっかりもないです。」
そんなに……そんな価値、私にはないよ……悟さん……なんでそんなに優しいの?
私は悟さんにお母さんの事について話した。
話しながら私は泣いていた。
あんな事言ってくれたけど、悟さんに全部話したら、こんな地雷女と付き合いたいなんて思わないよね……
でも悟さんとお付き合いを続けるためにはこの話は避けて通れない。
「話してくれてありがとう。お母さん、何か心の拠り所がないと心が持たないんだね。きっとそれは暁子さんのことなんだろうと思う」
私が? 母は宗教が心の拠り所だとばかり……
「その宗教じゃなくて、私が依存の対象なんですか?」
「僕は心理学を学んでいたわけでもないけど、話を聞く限りそう思ったんだ」
「暁子さんのお母さんは、きっと美しくて聡明な暁子さんの事を誇りに思っているんだと思う」
「そ、そんな事ないですよ。いつも頭ごなしに『これはだめ、あの人と付き合ってはダメ、あなたには判断力がないから』って、ダメ出しと束縛しかされてこなかったですから」
「暁子さんのお母さんのことだからあまり悪くは言いたくないんだけど」
「いいですよ、言ってください」
「誇りに思うが故に、自分の思うような生き方をしてくれないと気が済まないような、視野狭窄になってるんじゃないかな」
思い当たる節はいくらでもある。
「それは……そうかもしれません」
「お母さんの指図する事に、結構反発したりしたの?」
悟さん、心理学は学んでないって言っていたけど、鋭いし私の内面を抉るような質問をしてくる。
「反発……しますよ。そりゃ。私だって好きな友達と好きなことしてみたかったですもん」
「だから暁子さんの反発は『私の心が弱いから』とか、『信仰心が足りないから』とか、その宗教にとって格好の餌食になっちゃったのかもしれないね」
要するに悟さんの言いたい事はこういう事かもしれない。
お母さんは、私を正しく導くために厳しい事をたくさんいうけど、それは自分の精神をギリギリに削って言っている。
でも私が反発するから自分が至らないと教会に教えられる。
もしそうだとしたら、私はここ数年のお母さんへの付き合い方を間違えてきたのかもしれない。
「暁子さん、ぼくはちゃんと暁子さんのお母さんに任せても大丈夫、って言われるようにするから」
「悟さん……母に何と言って話すんですか?」
「正直分からない。でも、礼は尽くして本音で話し合えたらいいなって思う」
「じゃあ、今日私はどうしたら」
「一緒にお母さんのところに行こう」
「それは……止めた方が」
「これから先、お母さんにウソをついたり、自分を誤魔化したり、そうやって過ごしていくつもりじゃないでしょ?」
「でも、母はそんな簡単な相手じゃないですよ?」
「ぼくもそんな簡単に行くなんて思ってない。でもいつか通る道なら今通りたい。だって、暁子さんは現実にこうやって途方に暮れているじゃないか」
真正直に生きてきた男の人って、融通が効かないけど真正面から問題にあたろうとするんだ。
お父さんは、お母さんから逃げた。
お父さんの一件もあってお母さんは更に人間不信になったのかも。
「私、悟さんが母を助けてくれたら本当に嬉しい。私は、何をすればいいですか?」
「お母さんの味方だって事をちゃんと伝えよう」
私の眼からは止めどなく涙が出てきた。
お風呂に入ってスッピンだったからマスカラが落ちなくていいけど、こんなカッコ悪いところ悟さんに見られちゃって恥ずかしい。
「悟さんを信じます」
「ありがとう。じゃあ支度して一緒に行こう」
「はい」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
僕と曉子さんは、曉子さんの自宅の前に立っていた。
時刻はもう、深夜の一時を回っている。
こんな時間に男が娘を送り届けて、しかも家に上がり込もうとするなんて、常識的に考えれば狂気の沙汰だ。
なんだか身震いがする。どんな話になるのか全く想像がつかないけど、曉子さんのお母さんが僕を拒絶する事くらいは分かる。
きっと持久戦になるだろう。
今晩で決着する事はきっとない。
ぼくが下手を打てば最悪曉子さんは幽閉されかねない。
これはぼくの未来のことでもあるけど、それより曉子さんの未来の話でもある。
お母さんの呪縛から逃れて、自分らしく生きてもらわなきゃ。
その時の相手がぼくであれば最高だけどな。
お母さんを悪者にしたりはできない。とにかく物事を客観的に見てもらう必要が、あると思う。
「悟さん、私が先に家に入って母に事情を話すから」
「いや、一緒に入ろう。そうしないと、もう二度と会えなくなるかもしれない」
「えっ?」
「ぼくの邪推なら良いけど、今暁子さんを一人にしたらいけない気がするんだ」
最後までご愛読ありがとうございます。
宗教にのめり込む母親という重いテーマに対し、小手先の誤魔化しではなく「真っ向から向き合う」ことを選んだ悟。彼の優しさと強さが際立つ素晴らしい回でしたね。「一人にしたら二度と会えなくなる」という悟の直感、当たっていそうでハラハラします……。
深夜の実家訪問という最大の修羅場で、一体何が起こるのか!?
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