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第二十五話 暴走する黒い感情と、少し気まずい帰り道。仲直りした僕を待っていたのは、半透明のドア越しの甘すぎる不意打ちでした

いつもお読みいただきありがとうございます!


「もう悟さんに電話しないでください!」

優柔不断な悟に代わり、過去の亡霊をバシッと一刀両断してくれた暁子さん。頼もしすぎる彼女の姿に惚れ直すこと間違いなしです。

しかし、涼子のダークサイドはこれで終わるはずもなく……。不穏な空気を残しつつも、場面はいよいよ二人きりのお家デートへ。ラストの一行まで絶対にお見逃しなく!

 えっ? どうして?


 涼子はなんでまた僕に電話なんて寄越してくるんだろう?


 仕方なくぼくは通話のボタンを押した。 


「もしもし」


「あー、ごめんねー。悟」


「どうかしたの?」


「うーん、どうもしない」


「じゃあなんで。切っていいかな」


「そんなに冷たくしないでよ。今日久々に悟を見かけてちょっと話したくなっただけよ」


「なんで涼子はそんなに自由なんだよ。あの時ぼくがどんな気持ちだったか……」


「ごめんごめん、私、悟を結果として傷つけたよね。本当に悪かったと思ってる」


「もういいよ。そういうのは」


「そんなこと言わないで。私も本当に申し訳ないなってずっと思ってた。償いを……させて欲しい」


「もういいって言ってるだろ? ぼくはもう君のことは忘れることにしてたのに。この番号を消さなかったことを本当に後悔してるよ」


 僕の心はいきなりの電話でささくれ立った。


 もう、やめてくれ。ぼくには大切な人ができたんだ。


「申し訳ないけど、もう電話してこないでくれ」


「あの子と……一緒なのね?」


「どうだっていいだろ?」


「あの子に悟はもったいないわ」


 なんで涼子の奴、そんな勝手なことをいうんだろう。


「そんなこと言うなら、あの時僕のことをもっと大事にしてくれれば良かったんじゃないの?」


 少し声が大きくなった。


 気が付くと、曉子さんが紙袋を携えて僕の前に立っていた。

「曉子……さん?」


 いつの間に!


 多分電話の相手が涼子だと云う事も、会話の内容も曉子さんは大体把握しているのではないかと思われた。

 

 その証拠に曉子さんの表情はものすごく固かった。


 ぼくが考える暇もなく、曉子さんはいきなり僕のスマートフォンを奪った。


「もう悟さんに電話しないでください!」


 そう叫んで、電話を切った。


 そして僕を見て言った。


「こうやるんですよ。しつこい人には」


 曉子さんのこういった予想外の行動には驚かされる。


 会議に遅れてきて突然号泣したり、勘違いして僕が「堕天使」を飛び出した時追って来てくれたこと。

 

 そして今朝の突然のキス。


「曉子さん、ごめん。電話に出なければ……」


「悟さんはいろんな人に優しすぎます」


 いろいろな人に優しいという言葉に、褒めている意味合いはおそらくないだろう。


 ぼくには抗弁する言葉がないまま、二人は無言で歩き続けた。


 隣を歩く曉子さんの横顔を見ると、すこし困惑したような表情だった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 えっ‼


 何この子?


 何勝手なことを言って勝手に電話切るのよ!


 何が「もう悟さんに電話しないでください」よ!


 ふざけないでよ!


 誰があんたの指示なんて!……


 そうは言ってもあの子の言っていることの方が、私がやった事の何倍も正しい。


 悟に危害が及ばないようにと身を引いたことが、未練になっているのかもしれない。

 

 私は悟のために悟のアパートを後にしたんだ。

 

 それが悟の幸せになると思っていたし、このまま私も悟を忘れられると思っていたのに。


 それなのに、今になって何で悟は私の前に現れるの?


 あんな若くてかわいい子と一緒に。


 よりによってウチのお店のお客さんだったなんて。


 我慢できなくなって電話したらこの仕打ち。自業自得とは言えあまりじゃない?


 ちくしょう、ちくしょう。


 許せない!


 やっぱりあの子を絶対に許せない。


 この心の底から湧き出す黒い気持ちはもう止められないわ。


 どうしてやろうかしら?


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なんか、ケンカしているみたいですね。私たち」


 ぼくの家までもう少しというところで、ようやく曉子さんが口を開いてくれた。


 こんな時に何の言葉もかけられなかったぼくは自分自身が情けないと思った。


「ケンカだなんて。ちょっと情けないところを見せちゃったね」


「悟さんがパーフェクトな人だったら、私が釣り合わなくて劣等感持っちゃうし。それにそんな情けないってことはないですよ。元カノさんが強引に電話してきたんですよね?」


「うん、まあそうなんだけど。電話に出てしまったのは僕の間違いだったと思う」


「でも結果的に良かったじゃないですか? 私、『もう電話しないで』って言っちゃいましたし」


「あれには……ちょっと驚いた。でも、とてもうれしかったよ」


「これで電話が来なくなるといいんですけどね」


 家に着いた僕たちは、玄関のカギを開けて中に入った。


「悟さん、買い物に付き合ってくれてありがとうございました」


「ああ、いや、そりゃ一緒に行くよ。一人でなんか行かせられない」


「そんなこと言ったら、一日中私について回らないとだめになりますよ?」


 そう言って曉子さんはクスっと笑ってくれた。


「でも私はずっと悟さんのそばに居られたらいいな」


 なんて嬉しいことを言ってくれるんだ!


 ぼくだってそうだよ。


 顔から火が出るほど恥ずかしかったので、


「じゃ、じゃあ、ぼく先にお風呂に入るから。すぐに出るからちょっとテレビでも見て待ってね」


「はい。ゆっくりでいいですよ。悟さん、今日は私がたくさん歩かせてしまって疲れたでしょう?」


「まあほどほどにするよ」


 そう言って脱衣所に行き、着ていた服を脱いで無造作にドラム式の洗濯機に放り込むと、髪の毛を洗い始めた。


(今日は、いろいろなことがあったなあ……)


 ぼくは仲直りできてちょっとホッとしていた。


 すると突然曉子さんの声が!


「あの、一緒に入ってもいいですか?」


 シャンプーを洗い流してあまり周囲の音が聞こえないうちに、風呂場の半透明のドアの前に立っていたのだった。

最後までご愛読ありがとうございます。

トラウマの元凶との決別、そして涼子の恐ろしい独白。涼子の「あの子を絶対に許せない」という執着は、今後の大きな波乱を予感させますね。

しかし、そんな不穏な空気を一瞬で塗り替える暁子さんの破壊力たるや……! 半透明のドアの前に立つ彼女の姿を想像するだけで、こちらまで動悸がしてきそうです。


果たして悟はどう答えるのか!? 最高に気になる続きは次回にて!


本作を楽しんでくださっている方は、ぜひ下のボタンから【作品のフォロー(ブックマーク)】や【評価(★)】をいただけますと大変励みになります。皆様からの「ドキドキした!」「涼子こわい」などの一言ご感想も大歓迎です。引き続き、よろしくお願いいたします。




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