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第二十四話 彼女が手料理を振る舞ってくれて最高のお泊まりデートになるはずが、ヤバすぎる本性を現した元カノから電話が来ました

いつもお読みいただきありがとうございます!


初デートは順調に進み、ついに暁子が悟の家へ!

手料理を振る舞ってくれたり、お泊まりの準備に行ったりと、幸せすぎる時間が流れます。

しかし、物語の後半では視点が切り替わり……化粧品売り場で遭遇した「あの女」、井上涼子の5年前の真実と「現在の黒い本音」が語られます。天国から地獄への急転直下、恐怖の第二十四話です!

 ハバネロの肉詰めにはさんざんな目にあったけど、ほかの料理はとても美味しくてまた今度夜に来ようか? なんて話をするほどに東堂さんはメキシカンを気に入ってくれた。


 その後、ちょっとウインドーショッピングをして、東口の大きな書店に入ってぼくは新刊の小説を2冊選んだ。

 

 会計を済ますと、東堂さんが


「よく本は買うんですか?」


 と聞くので、


「ぼくはこれと言って趣味があるわけでもないから、本ばかり読んでるんだよ」


「関東テクノスの若手のエースの趣味が本なんて。ギャップ萌えしますね」


「ちょ、ちょっと曉子さん? エースだなんてそんな恥ずかしいこと言わないでくださいよ!」


「ごめんなさい、これは真島さんの受け売りなんですよ」


 ちぇっ、あの人、ぼくのデートの邪魔までするのか。


「どれくらい家に本があるんですか?」


「数えたことないな……でも軽く400冊くらいはあると思うんだ」


「400! そんなにあるんですか。その……私も読ませてもらってもいいですか?」


「もちろん。どんな本がいいか言ってくれれば今度会ったときに持ってくるよ」


「そうじゃなくて」


「えっ?」


 あっ、この顔は……また何か思い切ったことを言おうとしているのでは……


「悟さんの家で選んでも……いいですよね?」


 ぼくと東堂さんは、新南口近くの「Suicaのペンギン広場」でフリーズしていた。


「こ、これから、ウチに来ますか?」


 僕も腹を括ってそう訊いた。

 

 黙って頷く東堂さん。


 黙っているのが居たたまれなくなってぼくは口を開いた。


「土日は、仕事ないんですよね?」


「はい。専ら身体のメインテナンスのために夜の仕事はしません。でないと次の週、働けなくなってしまいますから」 


「いいんですか、その貴重な時間を」


「悟さんだからいいんです。私のわがままですけど」


「わがままなんてとんでもない! こう見えて、なんていうか嬉しいというか、嬉しすぎて何言っていいかわからないほどなんです」


 すると東堂さんはクスっと笑った。


「なんで悟さんはそんなに私のことになるとそんなに慎重になるんですか?」


 思いもかけない質問だ。


「曉子さんのような 向日葵みたいに明るい女性ひとが、ぼくなんかと付き合ってくれるなんて本当に夢のようで、それで……」


 と言いかけると東堂さんは僕の口に人差し指を押し当てて、


「『ぼくなんか』なんてことを、悟さんが言わないで」


 と言った。


「私の王子様なんですよ、悟さんは」


「エースの次は王子ですか! ちょっと買いかぶりすぎです!」


「じゃあ悟さんは私のことをどう思っているんですか?」


 ぼくはまた虚を突かれた。


「そ、そうだなぁ。曉子さんは女神様ですよ!」


「やめてください! 恥ずかしいです!」


 ぼくたち、単なるバカップルみたいだな。


 お互いを今は過大評価しすぎているのかもしれないけど、ぼくは東堂さんを大切にしたいし、失いたくない。だから慎重になっているんだ、と伝えた。


 ぼくたちは、電車に乗って、僕の住む町で降りて、駅前のスーパーで買い物をした。


「今晩は、台所をお借りして私が腕を振るいますよ?」


 本当に幸せだ。

 両親も兄もいないこの家に人を入れたのは初めてだった。


 東堂さんの手料理を食べて、それで……いかんいかん!


 変な妄想はやめよう!


 東堂さんは料理をお母さんに習ったという。


「庶民的な料理ばかりでごめんなさい。でも悟さんの食生活ってきっと不規則だし栄養も偏ってるんじゃないかって思っていたんですよ」


 その通り。


 ぼくは自分で食事を作る方だけど、面倒くさくなるとすぐ外食に頼るし、どうしても外食はバランスが良くない食事になりがちだ。


 小松菜の煮びたし、メバルの煮つけ、冷奴、レンコンのキンピラを手早く作ってくれて、二人で一緒に食べた。

 素朴だけど、とても美味しかった。


 だからこんな生活が毎日続いたら、なんて考えてしまったけど早すぎるよね。


 その後、風呂場の掃除を僕がして、東堂さんには食事の後片付けをしてもらい、風呂を沸かした。


「悟さん、わたし、その……下着を買ってきます」


「あ、あ、あああ、そうだね。そうだよね」


 何うろたえてんだ、ぼく。


「一緒に、行こう。ぼくは店の前で待っているから」


 東堂さんははにかんで頷いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「つくづく思うんですよ」


 駅近くにあるファストファッションのお店に二人で歩いて向かっている途中で、東堂さんは僕に問いかけるように言った。


「どんな事?」


「タイミングって大事だなって」


「どうしてそんな風に思うの?」


「私、ずっと悟さんが好きだったって言ったじゃないですか」


「うん。正直びっくりしたよ」


「叔父の会社に採用されれば、きっと悟さんに会えるんじゃないかとは期待してたんですけど、私の一方的な想いだったし、会えたとして悟さんにはきっと素敵な相手が居たって不思議はないわけで……」


「涼子に棄てられてからずっとぼくは一人だったけどね」


「でも、昨日お会いした結衣香さんでしたっけ? 結衣香さんにもずっと想われてたんですよね。結衣香さんが先に悟さんに告白していたとしたら、こんな風に私は悟さんの隣を歩いていなかったかも」

 

「結衣香のことは、恥ずかしながら全く気が付いてなくてさ。どうしても結衣香が新人のころから面倒を見てきたからそういう風に思われてたなんて思いもしなかったんだよ」


「そういう鈍感なところは嫌いじゃないですけど……私が結衣香さんだったら、悲しいと思います」


 本当にその通りだ。


 ぼくは鈍感で、人の気持ちの機微をちゃんとキャッチできない。


 結衣香を傷つけることになってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


「でも、私は悟さんに選んでもらったんですよね?」


 東堂さん、いつになく真剣なまなざしでぼくを見つめている。


「選んだなんて。ぼくが曉子さんを好きになったんだ」


「うれしい。これもタイミングですよね」


 ぼくは頷いた。


 ファストファッションの店に着いた東堂さんは、「恥ずかしいから待っててください」と言って僕を店の外に待たせて中に入っていった。


(曉子さん、今夜泊まる気満々ってことだよな……?)


 夜風は少し冷たいはずなのに、顔が熱くて仕方がない。手持ち無沙汰を紛らわせるために、スマートフォンを取り出してプロ野球のストリーミングを開いた。


 贔屓のチームは残念ながら大差で負けていたから一気に見る気が失せてしまった。


 まあいいか、と思いながらスマートフォンを再びポケットにしまおうとした刹那、着信があった。


《井上涼子》


 の表示があった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 私——井上 涼子——が悟と出会ったのは、5年前の4対4の合コンだった。


 その時私にはカレがいたから気乗りしなかったけど、彼氏いない歴が1年になろうとしていた優羽ゆうがセットしてきた合コンに、私は数合わせで参加させられたわけ。


 相手は関東テクノスというちょっとお堅そうな半導体の会社。


 「マジマ主任」と呼ばれてたいい歳したオッサンがやたらテンション高くて、後はブサイクな男と、ブサイクな男2号と、そして初々しい感じの悟の4人だった。


 私は当時「クリスティーヌ・ニューヨーク」というコスメブランドの美容員をやっていた。優羽も同じ日本橋店の同僚。残りの2人もね。


 私、悟の若いけど落ち着いた感じと、ちょっとミステリアスな雰囲気に興味が出てしまって……本当は優羽も狙ってたみたいなんだけど、なんだかこのまま放ったらかしにしたら一生後悔するんじゃないかって思うくらい悟のことが欲しくなった。


 悟の隣に行って、悟と話しているうちに自分でもどんどん引き込まれてしまって。


 優羽には何回も、


「ねえ涼子。私が狙ってるんだから遠慮してくれない?」


 って凄まれたけど、お構いなしにアプローチかけちゃって。


 悟は全然面白い話をするわけでもなく、ずっと私の愚痴みたいな話を聞いてくれるし、どんな質問にも真剣に答えてくれたり、いままで付き合ったことのある男とは全く違ったんだ。


 バカな私は、カレがいるのを悟に言えなかった。

 

 目一杯自分を盛って、清楚そうな、純真そうな感じを出して悟を誘惑したの。


 付き合っていたカレは私よりも6歳上で、チャラい日サロ焼けしているヒモみたいな男だった。


 ホスト崩れで生活力ゼロ、

 

 でもルックスもスタイルもモデルみたいで、一緒に居ると優越感に浸れるっていうか、自分が特別な人間になったかのように錯覚できた。


 そう。

 

 私って、今もそうだけど、どうしようもない見栄っ張りだった。


 私、その合コンから悟を連れ出して二人でフケて、悟のアパートに無理やり押し掛けた。優羽から悟を完全に奪ってやった。

 

 次の日にはカレの家から荷物を全部引き払って、悟の迷惑も顧みないで住みついたの。


 私、意外と家庭的なところもあって料理はそこそこ腕はあるし、悟の身の回りの世話を甲斐甲斐しくやってあげたんだ。


 結構毎日楽しくて、どんどん悟のことが好きになっていった。


 あの頃の私は本当に幸せだった。


 でも、4か月たったころ、職場では完全にお互い無視しあっていた優羽が私のカレに悟のことをチクって、職場の通用口で待ち伏せされて、脅された。


「その尾上って奴の事、どうなっても知らねえぞ。俺のバックに誰が付いてるかわかってんのか? このアマ!」


 私はそこまで脅されたら身を引くしかなかった。


 悟はこんな見栄っ張りのろくでもない私を精いっぱい愛してくれていたのに、私が中途半端なことをしたから危険にさらしてしまったんだ。


 私は、カレの家に戻ることにして、悟には黙って悟のアパートを引き払った。


 そして嫌な女を演じて、


「ごめんね、私もう一人好きな人がいたの」


 と、書置きをして、一方的に関係を断ったんだ。


 カレは、その1年後、何かヘタを打ったらしく私の前から突然消えて、晴れてカレの奴隷から解放された。


 でも、私の自業自得でもう私には悟も、優羽も、誰もいなくなった。


 そして今日、あの優しかった悟が……可愛い彼女を連れて私の前に現れた。


 どうしてもあの女の子から悟を奪ってやりたい。


 私のダークサイドがいきなり出てきて、私はそれに支配されたように悟への謝罪の気持ちなどどこかへ行ってしまったの。


 でも、あの女の子、私に怯むことなくものすごく強かった。

 

 私はこれで引き下がるべき。悟の幸せを考えれば。


 分かっている。分かっているのに。


 私のせいで深く傷ついたはずの悟が、あの強くて可愛い女の子の隣で、5年前と同じ優しい顔をして笑っていた。


 それを見た瞬間、私の中で、ドロドロとした黒い感情が溢れ出してしまった。


 どうしても、あの女の子から悟を取り戻したい。私が手放してしまった、私の居場所を。


 私は衝動に支配されるまま、スマートフォンを手に取り、5年間一度もかけることのなかった番号を発信してしまったの。

最後までお読みいただきありがとうございました!

前半の「私の王子様」発言や手料理のくだりでニヤニヤが止まらなかったのに、後半の涼子視点で一気に血の気が引きました……! 脅されて身を引いたという事情はあったにせよ、「どうしてもあの女の子から悟を奪ってやりたい」って、自己中心的なダークサイド全開で怖すぎます(泣)。


幸せなお泊まりデートの直前に鳴り響く、元カノからの着信。果たして悟は電話に出てしまうのか!?

「涼子ヤバすぎる!」「悟、電話に出ちゃダメだ!」と思った方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 読者の皆様の反応が執筆の最大の原動力です。修羅場必至の次回もお楽しみに!




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