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第二十三話 トラウマの元カノを一刀両断する頼もしい彼女。そして初デートは、激辛ハバネロと涙の絶叫へ

いつもお読みいただき、ありがとうございます!


トラウマの元カノ登場という大ピンチ。しかし、今の悟の隣には「最強の彼女」がいました。

涼子に見せつけるように(?)絆を深める二人。過去の恋愛の失敗から「エスコートの正解」に縛られていた悟ですが、暁子の優しさに触れ、等身大の自分を取り戻していきます。最高に笑えるデートの結末をお楽しみください!

「悟さん、どうしたんですか?」


 僕の不審な挙動を察知して、曉子さんが振り返った。


 さてと。


 こういう場合、順番を間違えたら大変だ。


 僕は、背後からの声に金縛りにあったように動けなくなった。


 どうする? 振り向くか? いや、ダメだ。今の僕は曉子さんと一緒にいる。


 ここで過去の亡霊に関わってはいけない。


 気づかないふりをして、このまま店を出よう。


 「悟さん、どうかしたんですか?」


 僕の不審な挙動を察知して、曉子さんが心配そうに顔を覗き込んできた。


「なにが?」


 ぼくはすっとぼけて曉子さんに反応することにした。


「え、なんか悟さんの様子がちょっと」

 

 しかしそれほど涼子は甘くなかった。


「ええ、そうよ。悟を私が呼び止めたから」


 そういいながら涼子は何の遠慮もなく僕たちの会話に入り込んできた。


 ぼくはゆっくりと涼子の方に向きを変えた。


無視(シカト)するなんてずいぶんなご挨拶ね」


「り、涼子」


 なんだか勝ち誇ったような顔でこちらを見ている涼子。


「悟さん、この方は?」


 曉子さんになんと説明しようか、わずかな時間だが頭の中で逡巡していると、


「なんて言えばいいかしら? 五年前に少しの間同棲していたのよ。私たち」


 と、涼子はあっけらかんと言った。


 曉子さんは、いつもの柔和な表情を崩さず、一言言い放った。


「ああ、あなたが悟さんが今でも引きずっているトラウマの元凶さんですね」


 不意を突かれて驚いたのは、涼子だけではなく僕もそうだった。 


 涼子の話は具体的にしていなかったが、曉子さんは涼子が僕の5年前のトラウマの元凶だとピンと来たようだった。


「ふーん」


 涼子は苦笑いをして一言そう言って僕たちから去っていった。


「曉子……さん」


「なんですか? 悟さん」


「買い物はもういいの?」


「ええ、大丈夫ですよ。もうこのブランドは卒業でいいかな」

 

「そ、そんな。本当にいいんですか? なにか怒ってますよね?」


「怒ってないですよ」


 そういう曉子さんは僕に視線を合わせない。


 涼子に目を遣ると、彼女は店を出ていこうとする僕たちを遠巻きに睨んでいた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「さ、さっきは本当にごめん」


「何がですか?」


 僕たちは吉永部長への誕生日プレゼントを選びに男性ファッションのフロアに移動していた。


「その、元カノにいきなり遭遇して、パニクってしまったから」

 

 ぺちん!


 と小気味のよい音があたりに響いた。


 僕が勘違いして財布を持たずに「堕天使」から飛び出したあの夜のように、曉子さんはまた両手で僕の頬を挟んでいる。


「悟さん。何を怖がっているんですか? 私のこと、もっと信じてください。元彼女さんに出会ったからといって、悟さんの()()()()の私は動揺なんていちいちしていられません!」


 その通りだ。よくわからない僕の深層心理に黒歴史を隠してなかったことにしたいという気持ちがあることには抗えなかった、それだけなんだ。


「悟さんがそういう風に動揺していると、まだ何か未練があるように思えてしまって……そっちの方が心配ですよ」


 ぼくは、曉子さんの手をとって、ぼくの頬からゆっくりと離した。


「未練なんてないよ。ただ単に僕の中で彼女は『恐怖』なんだ。まさかこんなところでかち合うなんて思いもしなかった。それで曉子さんと一緒に居るところを見られて悪いことがなければいいなと思ってしまったんだ」


「そんなこと」


「いや、涼子はそういうタイプの女性なんだ。自我が強くて独占欲も強いし、ちょっと予想外の行動に出てきてもおかしくはないんだ」


 曉子さんは僕のその話を聞いてまさかそんな、という顔をした。


 そして、いつもの笑顔に戻って言った。


「その時は悟さん、私も一緒です。一緒にやっつけましょうね!」


 ぼくはなんだか情けないなと思いながらも、


「ぼくが曉子さんを守ります。ぼくはあなたに出会って自分でそう誓ったんです」


 一瞬で曉子さんの顔が赤くなった。


「はい。周りの人が聞いていて恥ずかしいですけど、信じてます」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 吉永部長へのプレゼントは案外すんなりと決まった。

 

 長年使い込んだ長財布がくたびれていて、「そろそろ変えないといけないな」と部長が独り言を言っていたのを曉子さんが聞いていたそうだ。


「叔父はあまりブランドロゴが目立つようなものを好まないから」


 と曉子さんが言うので、モノがしっかりしていて尚且つシンプルなあつらえのMontbranc(モンブラン)の革財布を選んだ。


「結構な値段だね。でも、これ、僕にも半分出させてくれないかな」


「えっ、そんなの悪いです。それに、悟さんは取引先なんですから、伯父が知ったら気を遣わせたと怒りますよ」


「吉永部長には内緒でいいから。でもこれは、曉子さんの大切な家族への、僕の気持ちなんだ」


「わかりました。叔父はきっと喜ぶと思います」


「そうだといいな」


 涼子とかち合ってしまって、今日はどうなることかと心配したけど、なんとかいい感じになってきたかな。


 曉子さんが夏物の服を少し見たいというので、その後婦人服フロアへ行って買い物に付き合った。


「ここでは会社に来ていく服と、その……」


「えっ、その……何?」


「悟さんとお出かけする時の服を選びたいので、手伝ってくださいね」


 ぼくのために服を選びたいなんて、もう嬉しすぎてどうにかなりそうだ。


「ごめんね、一生懸命曉子さんに似合う服をぼくも選ぶけど、いまいちファッションセンスには自信がないんだ」


「そんなことありませんよ。悟さんの今日の私服のチョイスも素敵だけど、いつも着ているスーツとシャツとネクタイの組み合わせなんてセンスいいなって思っていたんです」


「ぼくも曉子さんのセンスは素敵だと思うよ。この間着ていたピンクの千鳥格子のセットアップ、とても似合っていた。あれは曉子さんだからこそ似合っていたのかもしれないけど」


「そんなに褒めてくれても、何も出ませんよ?」


 頬を赤らめて俯き気味になった曉子さんを見ていると、あまりに可愛すぎてぼくの彼女になってくれたことがまだ夢のように思えた。


「あの、変なことを聞くけど、『堕天使』で着ているような服は、お店から支給されるの?」


「まさか! 服は全部自前ですよ。キャバドレス、ってみんな呼んでますけど、私は通販とかでなるべく安く買ってます。 あすかさんは出勤日が少ないのでレンタルドレスだって言ってました」


「へええ、そうなんだ。そうすると結構経費もばかにならないよね?」


「同じ服ばかり着ているとお客様にも見透かされちゃうし、同僚の女の子からはバカにされるし。だからみんな頭が痛いと思います」

 

 いくつかのお店を回って二人で曉子さんの服を選んだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 吉永部長への贈り物と、曉子さんの夏服の買い物に付き合って気が付くともう2時くらいになっていた。

 

「そろそろお腹が空きましたよね?」


 と曉子さんから聞かれたのだが、正直新宿でどんなところでランチをしたらいいのかわからない。


 つい何時間か前まで一緒にファミレスに居たけど、飲み物だけしか頼まなかったから、結局曉子さんがどんな食事を好むのかがわからなかった。


 ついさっき、元カノの涼子に出くわしたからか、涼子に何度かダメ出しされたことを思い出した。


「女の子に決定を委ねるようなことはしない方がいい」


 涼子は「食事はどうする?」と尋ねる僕に対して、そんな言い方で何度かたしなめた。


「なんでだよ。女の子だって食べたいものくらい決まっているんじゃないの?」


 涼子は決まって「好きな男の子に提案されたものはそれに従うものなの」と僕をたしなめた。


 彼女の言う『正解』を探すのが、いつしか息苦しくなっていたことを思い出す。


 でも、今の僕の隣にいるのは涼子じゃない。曉子さんだ。

 

 思い切って、僕が一番一緒に行きたい店を提案してみよう。

 

 そのことを咄嗟に思い出して、ぼくはリサーチすることにした。


「曉子さん、食事の前にお手洗いに行ってもいいかな?」


「わかりました。私、ここで待っていればいいですか?」


「うん、ごめんね。すぐに戻るから」


 そう言ってぼくはトイレのサインを見つけてトイレにたどり着きスマートフォンでどこかいいところがないか検索をした。


 自分一人なら好きなものを探すのは簡単だ。


 でも、曉子さんに気に入ってもらえるようなところを探さないと。


(曉子さん、イタリアンとかフレンチとか好きかな? それとも和風の方がいいな。中華はちょっと遠慮しておくかな?)


 などと検索結果の画面を見ながら選ぼうとしたけどどれも決め手に欠くというか、コレジャナイ感があって決めかねていた。


(あまり遅いとお腹が痛かったのかとか心配させてしまうかもしれないな)

 と思って、思い切って自分が行ってみたい店に決めた。


「ごめんね、待たせちゃって」


「大丈夫ですか?」


「うん、大丈夫だよ。お腹空いたね。ちょっと行ってみたいと思っていたメキシカンがあるんだけどどうだろう?」


 断られたら元の木阿弥だ。


「メキシカンって、辛いんじゃないですか?」

 

「ううん、そういうイメージは確かにあるよね。でもメキシカンは決して辛いというのが特徴ではないよ。もちろん辛い料理もあるけどさ」


「へえー。ちょっと興味があります」


「そこでいいかな?」


「はい!」

 

 僕らは手をつないで――なんか、自然に手をつなぐことができるようになっていた――都立新宿高校の近くにある、「エル・メヒカーナ」という小さなメキシカンに歩いて行った。


 二人は並んで歩いていたが時折僕が曉子さんの方を見ると、キラキラした瞳で僕を見つめ返してくる。


 夜とは違って、お日様の下でみる曉子さんは、瞳だけじゃなくて全部が眩しいくらいに愛おしい。


 店に着くと、僕たちはちょっとした背徳感を感じながらメキシコのビール、TECATE(テカテ)を頼んだ。


「いいんですかぁ? こんな昼間から」


「いいんですよ。今日はお休みじゃないですか」


「そうですね。こういうことがあってもいいですよね!」


 曉子さんもこんなことは初めてみたいだ。ちょっとドキドキするけど楽しんでくれているみたい。


「お決まりのころに参ります」


 と言ったホールスタッフの男の人がTECATE(テカテ)を2本と、ライムを持ってと戻ってきた。

 

「ワカモーレと、タコスのソフトシェルを2つずつ、後は……」


「何か変わったものをお好みですか?」


 ホールスタッフの人がオーダーを決めかねている僕にそう尋ねたので、


「そうですね。何かこのお店のおすすめがあればぜひ」


「では、ハバネロの肉詰めなんていかがでしょうか?」


「ハバネロって……あのハバネロ?」


「はい。あのハバネロです。意外とすんなり食べられて、おいしいですよ?」


「じゃあそれを2つ」


「悟さん、わたしそれはちょっと……」


「ここの名物だってさ。駄目だったら次のものを頼めばいいよ。


 何とか納得した曉子さん。


 運ばれてきたハバネロの肉詰めを口にした二人は、異口同音に


「辛ーい!!」


 と人目も憚らず絶叫してビールを流し込むように飲んで、口に残る辛さに耐えるためにそれっきり口をきけなくなってしまったんだ。

最後までお読みいただきありがとうございました!

「トラウマの元凶さんですね」と笑顔で言い放つ暁子さん、最高にカッコよかったですね!涼子の毒牙から解放され、自分らしいお店選びができた悟の成長にも胸が熱くなりました。そしてラストのハバネロのオチ(笑)。シリアスからの落差が最高の、可愛すぎるカップルです!

これから二人がどんな素敵な関係を築いていくのか、ますます楽しみになりますね。

「暁子さんカッコいい!」「ハバネロで笑った」と思っていただけましたら、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【ご感想コメント】をお願いいたします!皆様の応援が執筆の最大の原動力です。次回もお楽しみに!


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