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第二十二話 可愛い彼女との初デートで幸せの絶頂にいたはずが、トラウマの元凶である『5年前に僕を裏切った元カノ』に声をかけられました

いつもお読みいただきありがとうございます!


始発電車での甘い不意打ちキスから数時間。

自宅で興奮冷めやらぬ悟の元に、真島課長からエスパーすぎる(?)LINEが届きます。

気を取り直し、待ちに待った新宿での初デートへ! 暁子の可愛さと吉永部長からのまさかの後押しに有頂天になる悟でしたが……。天国から地獄への急転直下、波乱の第二十二話です!

 曉子さんに去り際にキスをされ、動悸が収まらないまま家に着いた。


 まだ6時を少し回ったところだ。

 

 新宿南口に10時か。


 まだまだ時間には余裕があるな。


 9時に出るとして、少し仮眠をとっておいた方がいいかもしれない。


 おっと、その前にまずシャワーだな。


 僕は一晩中着ていたスーツを脱いで無造作にリビングのソファーに投げ捨てた。


 そのまま脱衣所に行ってワイシャツを脱いだ。


 鏡に少し弛んだ自分の上半身が映っている。

 

 僕も、もう三十路なんだ。


 暁子さんは、たしか今年で23歳になるはずだ。7つも下の子から見れば、僕は完全に「オジさん」の類だろう。本当に僕なんかでいいのだろうか。


 シャワーから出た。


 頭をドライヤーで乾かして、ひと眠りしようとベッドに横たわってみたけど、さっきの……電車でのあのシーンが何度も頭の中によぎって眠ることができなかった。


 今のぼくはまるで中学生みたいじゃないか。ただ悶々として、もどかしい気持ちをどうすることもできない。


 勿論、過去に恋愛をした事がないわけではない。

 

 高校生の文化祭の打ち上げの時、部活の後輩の女の子から告白されて、打ちあがる花火を見ながらキスをしたのが初めてだった。

 

 思えば実に幼い恋だったと思う。結局その子とは残念ながら大学受験を機に別れた。


 僕が名古屋から横浜に戻ることになり、その子が遠距離恋愛を拒んだからだ。

 

 その後、大学生時代にも付き合った彼女はいた。

 

 そして5年前の時だって。


 キスは何度かしたけど、こんな感覚は初めてだった。


 いつも控えめで奥ゆかしくて、僕が家に誘ってしまったら怖がったり、でも不意討ちでキスしてきたり。


 本当に僕でいいの?


 僕に、どんな取り柄があるっていうんだろうか。


 だめだ、またネガティブなことを!


 いろいろ考ええ居るうちに、眠ることなく8時になってしまった。


 (♪~)


 メールの着信音がした。会社の携帯だ。


 「メッセージ 真島課長」と表示がある。


 まさかとは思うけど……岩田電産の件で今日出社して来い、とか書いてあるんじゃないだろうな?


 恐る恐る片目を瞑りながら携帯のロックを解除してショートメールを読んだ。


「5年童貞卒業おめでとう! がんばれよ!」


 ぼくは思わず枕をめがけてスマートフォンを投げつけた。


「5年童貞ってなんだよ! っていうか、なんで昨日の夜、僕が手を出さなかったことまで察してるんだよ! あの人、エスパーか!?」


 思わず叫んでしまったが、まあ、課長の定義で言えば僕はまだ5年童貞なわけで。



 僕はさっき無理やり映画を選択してしまった。


 あんなことを言ってくれたのだから、曉子さんなりに決心してくれていたんだろう。泣きそうな顔をしたあの時の曉子さんに、今更ながら心の中で詫びた。


 大切にしたいという気持ちに嘘はない。


 でも、三十路で、とりえのない僕には、あなたと一晩をここで過ごす勇気がなかったんだ。


 気を取り直して冷蔵庫からトマトジュースを取り出して、飾り気のないデザインのデュラレックスのコップに注いで一気飲みした。


 弱いトマトの酸味のおかげか少し目が覚めた気がした。


 ぼくは青いトマトなんかじゃない。


 完熟のトマトなんかでもない。


 彼女に、三十路のカッコいいところを見せてやろうじゃないか。


 あんなに素敵な女の子が僕のことを5年間も前から思いを寄せてくれていたなんて 自信を持たなきゃ。


 軽くトーストをかじって歯を磨き、OCIVALの青と白のボーダーのカットソーを着て、ジーンズを履くと、ぼくは家を出て駅に向かった。


 駅に着き、ホームに上がると、僕は、


「さあ、今日は昨晩の敗者復活戦だ」


 ひとり呟いて、ひとまず東京方面の電車に乗り込んだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ごめんなさい! 待ちましたよね?」


 5分遅れて待ち合わせの新宿駅南口の改札に現れた曉子さんは、濃紺のワンピースを纏っていた。


 会社でのシンプルな服装でもなく、「堕天使」で見る勝負服の煌びやかさでもなく、素材の良さがにじみ出るような素敵な出立だ。


「待ったって言っても、たった5分だよ」


「でも……ごめんなさい」


 しおらしく謝っている曉子さんと、ついさっき僕に大胆にキスをして去っていった曉子さんは、どちらが本当の彼女なんだろう。


「あ、あの、今日の服装、とても似合っていますよ」


「えっ、本当ですか? ちょっと幼いかなって思ったりしたので。褒めてくださって、嬉しいです!」


 ぱっと花が咲いたように曉子さんは笑った。


「何を着ても似合う人っているんだよな。」


「そんな。言いすぎですよ」


「そうかな? 曉子さんは何着ても似合ってると思うよ?」


「嬉しい!」


 そう言って腕を組んできた。


「私、悟さんの私服初めて見ました」


 至近距離で僕の顔を見上げ曉子さん。

 コンタクトレンズ越しの瞳はブラウンがかっていて、とてもきれいだった。


 何度見ても神様が作った造形だよな……曉子さんって。


「そうだよね。いままでスーツ姿しか見せたことなかったし」


「そのボーダーのカットソー、とても爽やかで、カッコいいです」


「本当? 服装で褒められたことなんてあまりないから照れるな」


「自信持ってください! 私結構面食いでセンスがいい男の人がこの好みなんですよ?」


 へええ、そ、そうなんだ。


 この僕がその面食いの曉子さんの眼鏡に適ったなんて。


 曉子さんの叔父さんである、吉永部長の誕生日プレゼントの買い物には、南口からほど近い新宿高島屋に行くことになっていた。


 岩田電産ほどの大企業の購買部長だ。


 身に着けるものならばそれなりのものを差し上げないといけないと思っているのだろうな。


「部長は、どんなものが欲しいのかな。何か事前に聞いているの?」


「いいえ。でも、叔父の好みは大体把握しているつもり」


「そうだよね。ご親戚だもんね」


「伯父は結構強面で、すごく厳しい人のように見えるかもしれませんけど、本当は気さくで優しい人なんです」


「あー、僕はそれは見抜いているよ。部長には本当にいろいろとお世話になっちゃってるからなぁ」


 少し僕はそこで不安になった。


「あの……さ。 もしかして、部長は僕たちが付き合っていることを知ってたりするのかな?」

 また眼を大きく見開いて僕を見つめる曉子さん。


「い、い、言ってないです! まだ! だって、何時間か前に好きって言ってもらったばかりだし!」

 

「そんなにびっくりしなくても。部長は僕なんかが曉子さんと付き合っていることを知ったらどう思うんだろう。もし『こんな奴と付き合っているのか!』とか言われたら嫌だなあ。取引まで停止されたらどうしよう!」


「ふふふ。悟さん、心配性ですね。 伯父はとても悟さんを買っているんですよ?」


「本当? でも仕事上で信頼してもらってても、その……姪っ子が付き合っている相手と知ったら」


「あの……叔父からつい昨日、「尾上君なんてお前の相手にいいんじゃないか?」なんてけしかけられました」


 まじですか。


 ぼくは、吉永部長の親戚にこのままなっても構わないです!


 僕はそんな話を聞いて有頂天になりかけていた。


 部長へのプレゼントを選ぶ前に、いつも使っている化粧品が切れているものがあるからと言って一緒に化粧品売り場のフロアに先に行った。


 暁子さんは、「クリスティーヌ・ニューヨーク」というブランドのショップに入っていった。


 あ……ヤバい。


 ここは、5年前に僕を裏切って出て行った『涼子』が美容部員として勤めているブランドだ。


 でも、彼女は日本橋の店舗で働いていたはずだから大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせた、その時だった。


「悟? 悟じゃない!」


 背後から聞こえたその声に、全身の血の気が一気に引いていくのが分かった。


 間違いない。あの声だ。

 

 僕は、振り向くことができなかった。


 さっきまでの幸福な時間は終わりを告げ、新宿のデパートは一瞬にして地獄へと変わった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

「5年童貞」を見抜く真島課長、相変わらず良いキャラしていますね(笑)。そして待ち合わせでの暁子さんの可愛さ! 吉永部長からの「尾上君なんていいんじゃないか?」というアシストも発覚し、悟と一緒に読者も有頂天になっていたのですが……。

ここで涼子(トラウマの元凶)登場はエグすぎます!!(泣)

一瞬で地獄と化した化粧品売り場。果たして悟はこの修羅場をどう切り抜けるのか!?


「涼子ここで来るか!」「悟逃げて!」と思った方は、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】や【★(星)でのご評価】、【応援コメント】をお願いいたします! 読者の皆様の反応が、何よりの執筆の原動力です。次回、恐怖の修羅場編もお楽しみに!


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