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第二十一話 『ウチ、きます……?』からの軌道修正。朝まで語り明かした後の、甘すぎる途中下車

いつもお読みいたとありがとうございます!


晴れて恋人同士となった悟と暁子。タクシーを降りた二人が向かったのは、深夜のレイトショーでした。

しかし、映画の感想から思わぬ方向へ話が転がり……なんと悟の「ある秘密」が暁子にクリティカルヒット!? ニヤニヤとドキドキが止まらない朝帰りエピソード、お楽しみください!

「ちょっ、運転手さん(笑)」


「へへへ。すいませんねえ。お客さんがちょっと煮え切らないみたいに思えたんで」


 その通りなので仕方ない。


 ここは運転手さんのアドバイスに従ってみよう。 


「あの……ウチに、きます……?」


 勇気を持って恐る恐る聞いてみた。


「ちょっと、恥ずかしいです」


 ああ。 やってしまった。


 そりゃあそうだ。運転手さんに促されるままにそんなことを言ったら……まったく思慮が足りなかった。

 

 正直欲望に負けそうになって言ってしまった。


 何が「ウチに来る?」だよ。


 もっと東堂さんを大切にしないとな。


 気を取り直してもう一度提案。


「今日は金曜日ですし、まだやってる映画のレイトショーとか、どうですか?」


「いいですね」


 わあ!!! これが正解だったか!


 僕はほっと胸を撫で下ろし、「ちょっと調べてみるね」とスマートフォンを取り出した。


 上目遣いでそっと暁子さんの表情を窺うと、彼女はホッとしたような、それでいて少し泣きそうな顔で微笑んでいた。 


 それでもぼくは検索を続け、近くのシネコンの上映スケジュールを見ると、1:05開始の「マッドサイエンティスト~ブラウン・コーエン」がこの近くのショッピングモールのシネコンで上映されるらしいことが分かった。


 じつはこの映画、すごく見てみたかった。


 東堂さんにこの映画でいいか聞くこともなくとにかく運転手に行き先の変更を告げて、ショッピングモールの入り口で降りた。


シネコンはあるとはいえ、深夜のショッピングモールの入り口辺りは人も疎らだ。


僕は思い切って言った。


「本当は、僕は僕の家で曉子さんと今夜は過ごしたいと思ったんだ」


「悟さん……わたし、恥ずかしかったけど、それでもいいなって」

 

 だからちょっと泣きそうな顔をしていたのか。


 ひょっとすると、女の子に恥をかかせてしまったのかもしれない。


 でも、僕は曉子さんを大切にしたい気持ちをちゃんと伝えたいと心の底から思ったんだ。


「でも、正直な話、僕は5年前、すごく酷い経験をして、まだそれが原因の恋愛のイップスから立ち直れていない。だから、僕は曉子さんとゆっくり、関係を深めていきたいです。5年ぶりに本当に好きな人ができたんだから」

 

 曉子さんは、黙って頷いて、僕の手を取って言った。


「私を、私を信用してください。悟さんを絶対に裏切ったりしないですから」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 見ようとしている映画は、反重力装置を作り出した科学者、コーエン博士が、自らの発明が戦争に利用されることで良心の呵責に苛まれる、と言ったSFヒューマンドラマだった。原作は同じタイトルのライトノベルだった。

 

 映画は、VFXも巧かったし、良くここまで邦画も来たものだと感慨しきりの大当たりだった。


 僕は大満足だったけど、この映画で良かったのかな、って映画が始まる前に東堂さんに聞いたら、そっけなく一言、


「うん、大丈夫」


 と。


 無理しているんじゃないかと不安になったのだが、感動的なシーンでは涙をハンカチで拭い、ハラハラするシーンでは僕の腕に捕まったり。


 エンディングを迎える頃には満足そうな笑顔で満たされていた。


 そして映画が終わって劇場から出てくるといきなり、

 

「私、これWEB小説で読んでて、書籍化されたらすぐ買ったくらい好きなんですよ!」

 

「えっ、暁子さんってラノベとか読むの?」


「はい、結構好きですよ。いえ、読み専なんですけど」


 よ、読み専?


「そうなんだ。僕も作者の一之江小松川先生のファンなんだ」


「悟さん、ひょっとして小説書いていたりしますか?」


 ギクッ!


 書いている。


 書いてはエタり、エタっては書きの底辺作家なんだけど。


 あすかさんみたいに「私R-18ですけど書いています」みたいに言えたらどんなにいいことか。


 照れ隠しで「読み専」っていっているけど、曉子さん、実は小説書いていたりして。確か慶法大では文学部だったよな。


 もし僕が「書いている」と言ったらきっと「実は……」なんて事にならないだろうか?


「うん、昔ちょっとね。今は仕事が忙しくて全然書けないよ」


 曉子さんの顔が、ぱぁああっと明るくなった。


「本当ですか⁉ 今度読ませてもらってもいいですか?」


「ひ、一つも完結させた小説がないんだ……ちょっと恥ずかしくて、暁子さんには読ませられないよ」


 予想は外れた。


 彼女は単なる読み専だった。


 しまった、自爆したじゃないか。


「えー、そんなの気にしませんよ」


 とにかく話題を逸らさないと。


「一之江先生の他には、どんな作家さんの小説を?」


「私結構色々読んでるんですよ? ええとね、まだ書籍化してないんだけど、推しは鴨下(すずり)さんかな。どの話もものすごく面白いの。でもいつもだんだん書けなくなって、そのまま放置されたりしてる。それでも鴨下硯さん本当に面白いんだから!」


(ええええええええっ!?)


 鴨下硯とは、他でもない僕のペンネームだった。


「ちょうどこのショッピングモールにも24時間営業しているファミレスが入っているみたいだから、そこで朝まで小説の話、しませんか?」


「う、うん。そうだね。そうしようか」


 まさかの展開で少しドギマギしてしまった。


 心の中で盛大なツッコミを入れたが、声には出せない。まさか、目の前の大好きな女性が、僕の書いた――かも更新が止まっている――小説の熱狂的ファンだなんて。


ちょっと妙なことになってきたけど……


 ともかく、金曜日の夜に、僕は曉子さんと一緒に一晩を明かすことになってなんだかとても嬉しかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 二人で淀みなく小説の話をし続けていると、やがて夜が明けてきた。


 「鴨下硯」について熱っぽく語る東堂さん。

 

 曉子さん、ものすごく早口だ。淀みなく推しを語る東堂さんはなんだか新鮮だった。


 それが僕なんだ、と何度か口に出かかったけど、何故か言う事ができなかった。


 Webの小説投稿サイトでは、選んだジャンルが文芸なのもあってあまりPVもつかないし、ましてや応援のコメントなどほとんどもらったことがない。


 ただ、明治時代の北海道開拓史を描いた、僕の処女作「雪の下の戯れ」の10話目に「日出天子」ってペンネームの人から熱心なコメントをいただいたことを思い出した。


 ひょっとして東堂さんだったりして。聞けないけど……


 コーヒーを何杯お代わりしたことだろう。


 東堂さんは自分が好きなだけ話し切ったようだった。

 

 楽しい時間もそろそろ終わりなのかな。


 短い沈黙の後、


「今日は、デートですよね?」


 東堂さんが何気なく聞いた。


 改めてデート、と言われると何だかフワフワした気分になる。


 僕はちょっとふざけてみた。

 

「あれ、明日の分が、今晩に早まったんじゃなかったの?」


 曉子さんは膨れっ面になった。


「私、土曜日デートしたいっていったでししょう? あれはもう無効ですか?」


「冗談だよ。今晩ずっといて、また昼にも一緒に居られるなんて、ちょっと贅沢すぎるかななんて思ってさ」


 直ぐに機嫌を直してくれた曉子さんはデートでしたかったことを明かしてくれた。


「実は叔父の誕生日プレゼントを買おうかと。付き合って下さいますか?」

 

 吉永部長の誕生日、近かったんだ。


「部長の誕生日ならなおのこと。一緒にいこう!」


「ありがとうございます!」


「ありがとうはこっちのセリフだよ。こんなに長い時間、曉子さんと一緒に居られるなんて」


 東堂さんはそれを聞いて顔を赤らめて下を向いてしまった。


「そう決まったら、一旦家に帰らないとね。何時に待ち合せようか?」


「は、はい! そうしましょう。ええと、新宿南口に10時くらいではいかがですか?」

 

「うん、大丈夫。寝不足大丈夫?」


「大丈夫ですよ。悟さんこそ本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫だよ」


 僕らはファミレスを出て、スマートフォンのアプリでタクシーを呼んで、最寄りの駅でまで乗っていった。


 ホームに上がると、始発の各駅停車が間もなくやってきた。

 

 土曜日の5時台の上りの各駅停車はやはりガラガラで、いや、僕たちが乗った車両は乗客が一人もいなかった。


 僕たちは車両の真ん中らへんの7人かけのロングシートに二人、ぽつねんと座る。


 この電車で4つ目の駅で東堂さんは降りる。

 

 僕はそこからまた3つ目の駅で降りることになっている。


 電車に着席すると、いきなり睡魔が襲ってきた。


 ジェットコースターのような金曜日の夜を乗り越えた安心感なのかもしれない。


 いかんいかん。


 東堂さんが降りるまでは少なくとも寝ることはできない。


 ふと、隣を見ると、静かな寝息を立てて東堂さんはすでに寝てしまっていた。


 電車が少し揺れた。


 東堂さんの頭が、僕の肩に寄り掛かった。


 サラサラとした黒髪。

 

 長いまつ毛が上から見るとよくわかる。


 このアングルから見ると、鼻がすごく高い。


 そして東堂さんは柔らかい。


 ずっと、このままでも構わない、そんな邪な考えが何度もよぎったけど、次が曉子さんの降りる駅になってから、


「曉子さん、曉子さん」


 と肩をトントンと叩いて起こそうとした。


「悟……さん」


 彼女はまだ夢うつつを行ったり来たりしているようだった。


「そろそろ曉子さんの降りる駅ですよ。大丈夫ですか?」


「あ、あ、はい! すみません、悟さんに寄り掛かってしまっていたようで」


「あははは、大丈夫だよ。そんなこと、気にしないで」


「悟さん……」


「なに?」


「大好きです」


 突然のことで僕は呆然としてしまった。


 彼女は僕に腕を回して口づけをすると、すっと立って、


「また後でね」


 と言って電車を降りて行った。


 東堂さんが去ってなお残る唇の柔らかな感触。


 僕の眠気は、どこかに行ってしまった。

最後までご愛読ありがとうございます。

「ウチに来る?」からの軌道修正で始まったレイトショーでしたが、終わってみれば朝まで二人の距離がぐっと縮まる最高の時間になりましたね。暁子さんが無防備に肩で眠る姿や、別れ際のサプライズキス……破壊力抜群でした。

少しの休息を挟み、いよいよ次回は新宿での「正式な初デート」が始まります! 吉永部長へのプレゼント選びはどうなるのか!?


二人の甘い関係をこれからも見守りたい!と思ってくださった方は、ぜひ下のボタンから【作品のフォロー(ブックマーク)】や【評価(★)】をいただけますと大変励みになります。一言ご感想も大歓迎です!引き続き、よろしくお願いいたします。


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