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第2話 えぅ、なんであなたがここに? 再会はすぐに、思わぬところで

「トラウマを抱えるアラサーサラリーマンが年下の妖精と付き合う話~ぼくと彼女の14か月間」リライト版の第二話です!


とあるトラウマから女性恐怖症になった悟に、気になる女の人が出来ましたが、出会ったその日に再会します。しかも別人のようなその人に!

 掛けたのは部署代表電話なので必ず東堂とうどうさんであるとは限らないのは分かっていたが、東堂さんの可愛らしい声を期待していたのでダミ声のオジサンが電話に出たのでビックリした。


「いつも大変お世話になっております。関東テクノスの尾上おのうえと申しますが、東堂様はいらっしゃいますか?」


「東堂ですか? 申し訳ありませんが、今、席をはずしているようですね」


「そうですか。それではまた後ほどかけ直しますので、電話があった事をお伝えいただけませんか?」


 そう告げて携帯電話の通話を切った。

 

 一分足らずのやり取りに過ぎないのに、なんだかドッと疲れが出た気がした。


「なんだ、吉永部長の携帯にかけなかったのか?」


「あ、いえ、吉永部長のご機嫌を確認してからかけようと思って」


「吉永部長以外に、購買部の誰に掛けるんだよ?」


「あ、いえ、そのですね……」


さとる、お前何か隠してるだろう?」


「いえ、何もっ!」


「怪しいぞ? 正直に言え!」

 勘が鋭いのも考え物だよ。言えるわけないよ。そんなの。


「か、課長、後できちんと話しますが今は勘弁してください」


 真島課長はニヤニヤしながら僕の傍に来て小声で耳打ちする。


「今晩久しぶりに付き合ってもらうぞ。嫌だとは言わせんからな」

 嫌ですっ!


 だって、真島課長はデキる人だけど、酒を飲みに行くとまるっきりダメな人に変身するから。


「分かりましたよ」


 でも不承不承付き合うことにしたが、きっと酒の肴として揶揄からかわれて終わりだ。


「じゃあ後でな」


 真島課長は会議があると言って営業三課のシマから出て行った。


 さあ、気を取り直してもう一度電話だ。


 「購買の部署代表番号で私が出られない状況でしたら、こちらの携帯電話におかけください」


 きっと、会議か何かで自分が不在になることが分かっていたからこの電話番号を渡してくれたんだな。よく気が付く、頭のいい人だ。 


 時計を見ると、もう5時48分か。岩田電産の終業前には掛けないとな。


 電話を掛けようとすると、そこにいきなり着信があった。


 今掛けようとしていた番号が表示されていた!


 僕の心臓はいきなり早鐘を打つ。


「はい、関東テクノス、営業の尾上でございます」


「あ、あのぉ、岩田電産購買部の東堂と申しますが……」


「あっ、あっ、東堂さんですか?」


「は、はい、先ほどはどうも」


 意味もなく携帯を持つ手を右から左にする僕。掌てのひらは汗でじっとりしてきた。


「東堂さんが離席中に電話をしてしまい申し訳ありませんでした」


「いえ、こちらこそ尾上さんからの電話を取れなくて」


 東堂さんは、本当に礼儀正しい人だなぁ。


「そ、その、部長の明日のご予定はご存じでしょうか?」


「確認しますね……はい、明日は出社する予定でございます」


「それはよかったです。明日、直接お伺いしてお詫びをしたいと思います。大変申し訳ありませんが、部長の空き時間を教えていただけないでしょうか」


「朝いちばんはチームミーティングがあり、十時から三十分だけ空き時間があるようです。いかがなさいますか?」


「その時間に参ります! よろしくお願いします!」

 

「かしこまりました。それでは明日、十時にお待ちしております」


 要件が終わって電話を切ろうとする東堂さんを僕は呼び止めた。


「あのっ! 明日もご同席していただけるんですよね?」


 思わぬ言葉が突いて出た。


 何を言ってるんだ僕は‼


「……はい。尾上さんがいらっしゃるなら、私も同席させていただきますね」


 と言って小さく笑った。


 僕は、おそらく無意識に小躍りしていたようだ。


 課員で二年後輩の汐留 結衣香(しおどめ ゆいか)が気持ち悪いものでも見ているかのような視線を僕に投げかけているのが目に入った。


「な、なんだよ。結衣香」


「先輩、踊っちゃって何やってんですか。マジでキモいっすよ」


 結衣香は遠慮がなくて生意気だけど何か憎めない後輩だ。


「お前には関係ないだろ! もう定時だし早く帰れよ!」


「ごあいにく様。まだ仕事終わってませんよ。 べー!! だ!」


 口をへの字にして悪態をつく結衣香もちょっと可愛いがこいつの口の悪さには閉口させられる。


 すると真島課長が会議を終えて戻って来た。

「おい、悟、仕事終わったか?」


「はあ。まあ。」


「おい、なんだか乗り気じゃねえな? まあいいいか。よし、夜の街パラダイスに向かってGOだ!」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それで、その東堂さんって娘に一目惚れしたってこと?」


「あ、いえっ、そんな。惚れたなんて。ただ、なんか気になるというか」


 真島課長は仕事が終わると課長と呼ぶのを嫌がるので、先輩と呼ばせてもらっている。

 真島課長は、上司部下の関係以前にヒヨッコの営業だった僕の面倒を見てくれた先輩でもあるからだ。


「ハハハ、若わけぇなあ! まあ、良かったよ。お前のことはちょっと心配してたしな」


「その節は、いろいろと」


 この話題に触れられると、いまだに心が痛くなる。


「ふーん、それでか」


「それでって、なんですか?」


「いやいや、こっちの話だよ」

 こっちの話ってなんだよな。


「なんか中途半端でいやですよ。ちゃんと教えてくださいよ」


 僕は食い下がった。


「言いかけて悪いけど、これは今のお前にとって不要な情報だから言わない」


「えー」


「えーもあーもないの。この話はおしまい!」


「ちぇっ、生殺しにしてひでえなぁ」


  一軒目の居酒屋で、丁度酒も肴も尽きたところだ。


 ……僕は身構えた。


 そう、課長の本領はこれからなのだ。


「悟」


「なんですか」


「次行くぞ」


「嫌です」


 一応の抵抗は見せないと。


 課長はじっと僕の眼の奥をのぞき込むかのように視線を浴びせかけてくる。


 だめだ! 負けちゃだめだ!


 しかし、沈黙に耐えられず、僕は、


「じゃあ、1時間だけですからね。そんな金もないし」


 課長の次の目的地はキャバクラだ。


 キャバクラ好きが高じすぎて結婚に失敗している……らしい。


 これは専らの噂だけど、とにかく先輩はバツイチのアラフォーの切れ者営業課長でイケメンだ。


 しかし女性を直視できない僕はなるべくそういう所には身を置きたくない。


 行きたければ一人で行けばいいのに。でも、課長は僕がいるのといないのでは女の子からのモテ具合に違いがあるらしい。


「いつものあそこですか?」


「いや、営業マンたるや常に新規開拓が必要だぞ、悟。今日は『堕天使』ってところに行くからな」


「営業って。まったく先輩は!」


「いいから行くぞ! すいませーん! お会計お願いします!」


 この居酒屋も、次のキャバクラも、結局全部課長が持ってくれるのだろう。それはそれで貧乏な僕にはありがたいことなんだけど。


 居酒屋を出て、五分くらい歩いた歓楽街の中心地にいわゆる飲み屋ばかりが入った雑居ビルがある。


 定員六名の小さなエレベーターで五階まで上がり、扉が開くと直ぐにキャバクラ「堕天使」の店内だ。


 ほの暗く、紫色の壁紙や調度品で統一された店内はそれとなく淫靡な感じがプンプンする。


 甘ったるい香水の匂いと、耳障りな笑い声。女性の視線が突き刺さるようなこの空間は、今の僕にとって地獄でしかなかった。


 課長は受付でスムーズに二時間のセットと告げて入店した。


「ご指名はどうなさいますか?」


「あー、今日はいいよ」


 この姿を課員みんなに見せてやりたいけど、何故かキャバクラへは、僕以外の同僚を誘わないようだ。


 やはり紫色の革張りのソファに座らされると、タイトな黒いワンピを着た栗巻き毛の長身の女の子と、羽衣の天女みたいな恰好をしたポチャっとした女の子が席に着いた。


 背の高い方があすかで小さくてポチャが沙織。

 

 なぜかさっきから不機嫌そうな先輩を見かねて、


「りおんちゃん、直ぐに来るので、先に乾杯しましょう!」

 

と、沙織が気を回す。


りおんちゃん?なんだ?先輩のお気に入り?


「私ウーロン茶頼んでもいいですか?」


「私は水割りで」


「いいよ、頼んで」


「真島さんはとそちらの方……」


「あ、こいつは悟ね」

 課長、いいって名前なんか教えなくても。


「悟さんは水割り?」


 僕は反応の仕方に迷って、こくん、とだけ頷いた。


 あすかがボーイに耳打ちすると、間もなくドリンクが運ばれてきた。


「じゃあ、乾杯しましょ? かんぱぁーい!」


 気乗りしないがここでは別人を装うことにした。


 沙織は僕の隣に座り、ボディータッチしながら言った。


「悟さん連れてきたいっていつも言ってたんですよ、真島さん」


「えっ、そうなんだ。僕も早く来たかったんだよね」


 正直女性に触られるのも今はキツイ。

 

 だが課長は僕と女の子がまずまずのやり取りをしているのを見てニヤついてる。


「今日はな、悟コイツが恋に落ちたって話なんで聞いてやってくれ」


 ちょっと、勝手にそんな話しないでくださいよ。


「えー、この前まで彼女なしの堅物営業マシーンだったって」


 あすかの言い方もあるけど、なんかカチンとくるな。なんだ、堅物営業マシーンって人を人気のない戦隊モノの敵キャラみたいに言いやがって。


「なんだ、沙織ちゃんみたいな子がいるんなら、ちょっと早まったかな?」


 もうどうでもいい。やけくそだ。


「えー、やだぁ。沙織だって彼氏を選ぶ権利ありますぅ~」

 まじか、そのリアクション。冗談通じねえな。


「こんばんは。私もこちらお邪魔していいですか?!」


 馬鹿馬鹿しい会話に割り込んできたのは、ばっちりメイクをして白いドレスの装いをした女の子だった。

 

 僕が彼女に視線を向けると、彼女も僕の顔を覗き込むようにして見た。そして綺麗なその瞳を一層大きく見開いたが、スッ、とまた元の表情に戻った。


 僕も一瞬叫びそうになったがなんとか堪えた。


 課長にはこんな事言えない。言えない。言えない。

 

 おお、神よ。


 「りおんちゃん」は、今日あったばかりの東堂 暁子さんだったんだ。

衝撃のラストで終わらせてしまいました!

誠実で礼儀正しいはずの東堂さんが、なぜ夜の街に……? 悟の心臓が止まりそうになるのも無理はありません。

明日の商談はどうなってしまうのか。物語の舞台が一気に動き出します。

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