第十八話 大仕事を終えてキャバクラで祝勝会を開いたら、後輩から告白の進捗を詰められ、謎のキャバ嬢から中学時代の甘酸っぱい(?)思い出を暴露されました
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見事な大逆転プレゼンを終え、『堕天使』で戦勝記念日を開くことになった悟たち。
結衣香と美瑠からの手厳しい(?)恋の追及にタジタジになる悟でしたが、そこにクレア(姉小路雪子)が合流します。
彼女の口から語られるのは、中学生時代の悟との「秘密の記憶」。切なくも温かい過去編が幕を開ける第十八話です!
「今日ここに来る必要があるとは思えないんですが」
僕と、真島課長、結衣香、立花美瑠の四人は、また「堕天使」に集っていた。
「まあまあ、今日は戦勝記念日なんだ。いいじゃないか。悟!」
戦勝記念日とは随分景気の良い。
りおんちゃんこと東堂さんは何の事やらよくわからないという表情で僕たちの顔を代わる代わる見ていた。
我が社の危機を脱したという意味では、戦勝記念日というのも当てはまるのだろう。
だが、それと堕天使に来ることの関連性はどうしても見出せなかった。
それに同じ課員で、今回の都賀常務攻略の功労者の一人である結衣香が来るのは分からなくもない。
しかしなぜ立花さんまで?
「一番最初にりおんちゃんに話した方がいいと思ったんですよ。ここに来たのは、ボクが言い出しっぺです」
結衣香がそう言うとりおんちゃんは瞳を輝かせながら言った。
「えっ、もしかして」
そこに課長が割って入る。
「りおん、そうなんだ。我々は吉永部長を何とかお助けできたんだ。もちろんウチの会社も助かったんだが」
「本当ですか!それは嬉しいです!」
りおんちゃん、本当に吉永部長想いなんだな。本当にうれしそうだ。
「りおんちゃん、吉永部長とは親戚関係だって本当?」
「結衣香さん、そうなんです。吉永は父の弟なんです」
「え、でもりおんちゃんは吉永姓じゃないよね?」
「ええ、父と母は離婚してしまったので、母の旧姓に戻したんです。私も吉永姓を残すかどうか悩んだんですけど、伯父の会社に入るにはいろいろと問題がありそうなので東堂姓に変えました」
僕も初めて聞く話だった。
「でも、私がここで働いていることはまだ伯父さんには言っていないんです」
困り顔でりおんちゃんはそう言った。
「ここで働くことなんて、別にやましい事でもないのに何で?」
立花さんは遠慮なく聞く。
「私がここで働いていることではなくて、副業をしていること自体を知られたくないの」
「え、副業が会社で禁止されているとか?」
「いえ、ウチの会社、結構そこは先進的で。副業はOKなんです」
「じゃあなんで?」
僕も正直なぜ副業をしているのかは聞いていないし、知っておく必要があると思ったが、本人がそれを望んでいなければ、無理をして聞くのは失礼だと思った。
「立花さん、僕もその理由は聞いていないんだ。りおんちゃんが言いたくないなら、聞くのはどうかと」
ちらりと横目でりおんちゃんの顔を見た。
僕がそう言ったことで少し安堵しているようだった。
「美瑠さん、ごめんなさい。本当に私のプライベートな理由で、ちょっと今ここでは言えないんです」
さすがに立花さんもりおんちゃんからそう聞いてはこれ以上追求することはできないようだった。
「ごめんなさい。変なこと聞いちゃって」
と言って引き下がった。
すると結衣香が爆弾投下。
「先輩、それでりおんちゃんには告白したんです?」
「あ、え?」
立花さんが即座に反応した。
「おい、パイセン。まさかと思うけどまだ告白すらしてないとかありえないんですけどー⁉」
「おっしゃる通りなんですが。いろいろありまして」
僕は、情けない声でそう答えるしかなかった。
「センパイちょっと」
結衣香は僕の腕をつかんでボックス席から連れ出し、空いている席に移動して詰問し始めた。
「センパイ、ボク、りおんちゃんにはちゃんとしてあげてってあれほど……」
「結衣香、結果としてこうなってしまったのは謝る。だが、これはりおんちゃんの望んだ事なんだ」
「そんな話」
「本当なんだ。タクシーを降りた後、間違いなく僕はりおんちゃんに電話をかけてちゃんと告白しようとした」
「なのにどうして?」
「電話じゃ……嫌なんだそうだ」
僕が切なそうにそう言ったからか、結衣香は噴き出した。
「あはははは、ウケるっすね。りおんちゃんカワイイ!」
そう言うとまた結衣香に引っ張られてボックス席に戻ってきた。
「お姉さま、なんで笑ってるんです?」
「いやー、お前には言わないけどちょっとこの二人、中学生かよって感じだったからさ」
りおんちゃんは何かを察して顔が赤くなり、そして僕をちょっと睨んだ。
ぼくは目で謝罪のメッセージを送る。
「パイセン、結衣香お姉さまがここまで気を使ってるんだからちゃんと感謝しろよな?」
「おい、美瑠、言いすぎだぞ」
「だってぇ」
ちゃんと言い聞かせるって言ってたと思うんだけど。
「この間みなさんがいらした後、悟さんが言ってくれそうになったんですけど私が『待って』って言っちゃったんですよ」
自分でこいつらに言っちゃったよ、りおんちゃん。
「センパイ! やりますね! 男ですね!」
結衣香に背中をバンバン叩かれた。
「パイセン、隅に置けねー」
「おい立花、『パイセン』とか呼ぶな。いつかシメるぞ?」
結衣香がきつく立花を睨んだ。
「結衣香そんなにきつく言わなくてもいいよ」
「先輩、ダメっすよ。ボクは上下関係には厳しいんです」
「あらあら、皆様またそろってお出ましですか?」
そこに沙織さん、あすかさんとクレアさん――姉小路がやってきた。
まるで堕天使のオールキャストじゃないか。
お店が金曜日にしては空いているからかな。
クレアさんは、ごめんね、とりおんちゃんに断ってからりおんちゃんと僕の間に無理やり座った。
「尾上 悟くん。改めまして。お久しぶりね」
「姉小路だったんだね。道理で聞いたことのある声だと思ってたんだ」
ふっ、と笑った。
「随分なお言葉じゃない。アタシ、アンタがいきなりいなくなって結構ショックだったんだけど」
「なんで?僕と姉小路は一度学校の屋上で少し僕の兄さんの話をしただけじゃないか」
「だからよ。アンタのお兄さんとアタシの境遇が少し似ていたからね」
そうだったのか。
僕はあの時、本当にごく親しい友達にしか転校することを言わずに元いた中学校を去った。
姉小路が僕や兄の事をこんなに気に掛けてくれていたなんて、思いもしなかったな。
姉小路は、グラスを指で回しながら少し遠くを見る目をした。
「あの頃の話、してもいい?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
中坊の頃のアタシは、先生の手を焼かすちょっとしたワルだった。
アタシの周りにはいつも男女合わせて十人くらいの仲間がいて、夜な夜な集まっては街で見かけたクラスメートをカツアゲしたり、暴力を振るったり、酒を飲んだりやりたい放題だった。
二年生の時、その秋の日もいつものように学校には堂々と昼頃登校して、午後の授業はかったるいから屋上に昇って寝転がって昼寝でもしてフケてやろうとしたら、そこには尾上 悟がいた。
「ねえ、尾上」
フェンスに寄りかかりながら校庭を見下ろしていた尾上は、アタシの呼びかけに気が付いた。
「あ、姉小路?」
「珍しいじゃん、あんたみたいな優等生がこんなところで何やってんの?」
「ううん、別に何も」
コイツはアタシには興味がない、みたいな顔をしている。
「ダメじゃん。ちゃんと授業に出なよ」
「姉小路だってここにいるじゃないか」
まあ、そうだよね。
「人の事はどうでもいいんだよ。アタシみたいなのはどうせ先生たちも匙投げてるんだし。でもあんたは違うだろ?」
悪いのは自分だ。
けど、大人に一度悪いレッテルを貼られるとそれを剝がすことはなかなかできなかった。
アタシがこうなったのは、ワルの先輩に告られて、付き合うようになって、夜の街を先輩と仲間たちと徘徊するようになって、警察に補導された時、私を引き取りに来た父さんに酷いことを言われたからだ。
「姉小路家の面汚しが! 母さんの顔に泥を塗ったんだぞ! お前は!」
アタシの家は華道の家元だ。
師範は母で、父は婿養子に入った、少しひがみ根性の強い人だった。
華道で手いっぱいの母は、何かにつけアタシの事を父に押し付けていた。
父は自分の我が家での立場や、母の傲慢さにいつもイライラを感じていたのかと思う。
しかし、「面汚し」と酷い言葉で面罵する父にアタシの何かが壊れた。
翌日、先生にも呼び出されあることないこと散々ひどいことを言われた。
それ以来アタシは半分自棄になって、自分の人生なんて、もうどうでもいい。そう思うようになった。
それまでのアタシは、普通の、本当に普通の女の子だったのに。
悟は、いきなりこう言った。
「姉小路はさ」
悟は少しだけ笑った。
「ワルぶってるだけに見えるよ」
いきなりコイツ何をいってんの?
「僕、そう言う人を身近に見てきたからよくわかるよ」
「身近な人? 誰?」
「兄さんだよ」
「あんた、お兄さんいたんだ」
「ああ、でも三歳上だから、この学校にはもういないよ」
「なんでアタシとお兄さんが似てるって?」
アタシは尾上の意外な話に興味を持った。
「僕は今の姉小路がそうなる前の姉小路の事を知ってる。小学校も同じクラスだっただろう? 姉小路みたいに何か事件とかきっかけがあって、大人に踏みつぶされたまま起き上がれなくなった兄さんに似ているような気がするんだ」
尾上はお兄さんの話をしてくれた。先生から部活で財布がなくなった犯人に仕立て上げられたのだそうだ。
お兄さんは人間不信に陥って、そしてワルになった。
尾上とこんな風に話すのは初めてだったし、なんかアタシの事を偏見なく見てくれる初めての同級生だった。
「お兄さんは、今は?」
「高校を辞めて、家を出てしまった。今は何をやっているのか分からない」
アタシは言葉を失った。
「そっか」
そう言うのが精いっぱいだった。
尾上があの日屋上にいた理由は分らなかった。
寂しい目をしていた。
でも、その日からアタシは尾上が気になって仕方なくなった。
クラスでは声を掛けられなかった。やっぱり尾上に迷惑を掛けたくなかったから。
でも、いつかきっと尾上と普通に話せるようになりたかった。
好き、というのとはちょっと違う。
いつか冬が来て、アタシと尾上はあの日以来一言も交わすこともなくそのうち春が来てアタシは三年生になった。
そして尾上が転校したことを知った。
「なんで、なんで」
痛みを共有できるはずの唯一の存在だったのに。
アタシは尾上に近づくこともできなくて、一人になった時泣くしかなかった。
——そして今、
その尾上悟が、アタシの目の前にいる。
最後までお読みいただきありがとうございました!
前半の結衣香と美瑠の漫才のようなやり取り(『パイセン』呼びに厳しい結衣香が最高です笑)から一転、姉小路の切なすぎる過去回想に胸が締め付けられました。
痛みを共有できる相手を見つけたのに、突然の転校による別れ……。アタシ(姉小路)にとって、悟がどれだけ特別な存在だったかが伝わってきますね。
思いがけない再会を果たした姉小路は、今何を思うのか。そして、明日に迫った初デートの行方は!?
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