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第十五話 五年越しの伏線回収! 勢いで告白しようとしたら、『会って聞きたい』とお預けを食らいました

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

「逃げない」と決めた悟の、五年間の呪縛からの解放。

クレアさんの正体や、東堂さんとの五年前の記憶が繋がり、物語は一気に加速します。そして、東堂さんが仕掛けた可愛すぎる「駆け引き」とは? いよいよ運命が動き出す第十五話です。

「東堂さん、尾上です」


 逃げない、と心に誓って東堂さんに電話をかけた。


 僕が何を怖がってこんなにも臆病になっているのか。


 人を好きになるという気持ちをなんで抑えていたのか。


 君のおかげで乗り越えることができた。


 ちゃんと、この気持ちを伝えるんだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 五年前、僕は人生で初めて暮らしを始めていた。


 涼子は、当時主任だった真島さんに無理やり連れてこられた合コンで知り合った。


 程なく涼子と僕は付き合うことになって、一人暮らしを始めたアパートで、同棲を始めたんだ。


 二人で買い物に行って、ご飯を食べて。笑い合って。


 楽しいことだってたくさんあったんだ。


 そして、ある日、会社から戻ると、いつもはドアを開けて嬉しそうに「おかえりー!」と言って抱きついてくる涼子は居なかった。


 部屋の中はがらんとしていて、涼子の荷物だけが無くなっていた。


 涼子と一緒に買ったお揃いのマグカップだけはそのままだったが、それを見て僕は余計に大切な人を失った現実を受け入れざるを得なくなり、打ちのめされた。

 

 僕たちは、本当に仲が良かったと思う。

 

 喧嘩らしい喧嘩はしなかった。


 それがむしろ良くなかったんだろうか、などと思ったりしたが、昨日まで何の前触れもなく、とつぜんそれは起こったんだ。


 涼子が出ていった理由がわからないので、しばらく怒るべきなのか泣くべきなのかすらわからない日々を過ごしていた。


 そんな状態で一ヶ月が経った頃だった。


 携帯電話に涼子から一通のメールが届いた。


「突然いなくなったりして、ごめんね、実はね、私、もう一人好きな人がいたの。裏切って本当にごめん」


 と、簡潔に。本当に簡単に書いてあったんだ。


 眼前が真っ暗になった。そして涙が止めどなく流れたのを昨日の様に覚えている。


 涼子とは、精神的にもっと強くつながりたいと思っていた。


 しかし僕は涼子に裏切られた。


 それからというもの、メンタルをやられてしまい、何日もふさぎ込んだり、結衣香の前で号泣したり、酒に頼ったり自暴自棄になった。


 昔、大学の友達の井上が言ってた。

 

「その人を忘れるためには、その人と送った時間と同じだけの時間が必要だ」


 何かの受け売りのようだったが、ぼくにはその言葉が一つの()()()だった。


 一緒に暮らした4か月間と同じだけの時間を指折り数えたっけ。


 しかし、4か月経っても、僕の中に生まれた変化は、元の自分に戻ることではなくて、女性を直視できなくなり、笑顔の裏には何かある、と思う猜疑心だった。

 

 メンタルが弱いと言えばそれまでだけど、信頼し合っていると思っていた人に裏切られたショックは僕の性格を大きく変えてしまったのだった。


 それから5年も経って、突然東堂さんが僕の前に現れた。


 真面目で清楚な会社員だと思ったら、夜はプロに徹していて、そして結構我の強いキャバクラ嬢だった。


 清楚な感じだけでも僕は間違いなく惹かれていた。

 でも、本格的に東堂さんを気にし始めたのは、間違いなく彼女のキャバ嬢の姿を見たからに違いない。


 それに、東堂さんは、僕を五年前から知っていて、好意を持ってくれていたという。


 本当かな。


 まだ信じられない自分がいる。


 しかし、運命というものが本当にあるのなら、僕はそれに身を委ねよう。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「悟さん。電話ありがとうございます」

 

 あれ?「悟さん」って呼んでくれた。


 なんだかじわっと来た。


「こんな時間になって、ごめんね」


「明日二人とも寝坊しない様にしないとですね」


 東堂さんはそう言って笑った。


「なんだかクレアさんから去り際に言われたことが頭に残っちゃって」


「当事者は必死だけど……外から見ると単純って言われたアレですね?」


「うん。もっと単純に考えても良いんじゃないかと思い直している」


「はい、分かってますよ。クレアさん、昔の悟さんに凄く共感していたみたいですね。お兄さんの話、聞いてしまいました」


「え、クレアさんと僕はどこかで会っていたの?昔っていつの……」


「もう、悟さん!私のことは覚えてないし、クレアさんのこともわからないの?」


「ずいぶんと馴れ馴れしく話してくるし、初対面で説教されるなんて、きっと何処かで会っていたのだろうとは思っていたんだけど」


「クレアさんは本名言えば思い出すかしら?」


「なんて言う……」

 と言い終わるか否かのタイミングで東堂さんは被せ気味に言った。


「姉小路雪子さん」


「あね……こうじ……って言った?」


 中学生の頃の記憶が一気に脳内に溢れ出た。


 姉小路は、僕の中学時代のクラスメイトだった。


 姉小路の家は厳しい家で、お母さんは華道の家元だった。中学に上がりたての頃、彼女はとても出来の良いお嬢さんって感じだったのに、いつからか半グレみたいな奴らと連み始めて。

 

 正直僕は彼女はやその取り巻きを避けていたんだ。


「姉小路は僕のことを分かっているんだよね?」


「ええ、あの後色々と教えてもらいましたよ」

 なんて空恐ろしい。


 姉小路が知っている僕とはどんな事なんだろう?


「悟さん、中学三年生で名古屋に転校したんですね。そのタイミングだと、受験とか大変じゃなかったですか?」


 その程度の話だったのか。


 でも姉小路が僕のことを何故そんなに覚えているのか全く心当たりがなかった。


「やっぱり先生たちも突然三年生から転校してきた奴に良い内申はあげられないみたいで。だから中堅どころの県立高校に進んだんだ」


「そうなんですね。でも、神奈川国大に現役合格って凄いです」


 姉小路は僕が神奈川国大に進んだことは知らないはず……


「なんで僕の大学を知って……」


「ほんとにもう。悟さん、いじわるすぎますよ」


 思い出した。


 吉永部長に個人的な相談なのだが、と前置きをされて、


「姪が進学先を決めかねていてね。君からアドバイスをしてやって欲しい」

 

 と言われた。


 吉永部長には、そのころようやく担当営業として認められ始めていたので、個人的な相談をされるまでになったんだな、と感慨深かったんだ。


「本当にごめん。やっと思い出したよ」


 そういうと東堂さんは「良かった」と短く言った。


「東堂さんとは、五年前の夏に、岩田電産の会議室で話をしたよね」


「はい。あの時、悟さんにアドバイスをもらって私は慶法大学に決めたんです。悟さんは自分の出身の神奈川国大ではなく慶法を推してくれたので少し不思議な気がしてました」


「大学にもその人の向き不向きがあると思ってね。東堂さんは、きっと慶法では輝ける存在になると思ったからね」


「そんな、嬉しいです」


「そうか、慶法に入ったんだ。本当に頑張ったんだね」

 

 実際、僕はそのころメンタルを病んでいて東堂さんの行末まで気が回っていなかったけど、改めてそう聞くと何だか嬉しい。


「悟さんだって、国立大だし、クレアさんも悟さんは秀才だったって」


「僕は取り柄はあまりないから、勉強だけは頑張ったかも」

 

「高校三年間、勉強漬けだったとか、ですか?」


「そうだね、そうだ、部活はESSに入ってた。英語には興味があったんだ」


「さすが!じゃあ英語はペラペラとか?」


「流石にそんなのじゃないけど、旅行に行ったらあまり困ることはないかも」


「知らなかった! 悟さん英語できるんですね!」


「そんな、大したことは……」


「すごいですよ。私なんて読み書きしかできないから尊敬しちゃうな」


「そんなに褒められるとなんか照れるよ」


「それに、スーツやネクタイもセンス良いですよね、悟さんって」


 あれっ、これってもしかして……


「東堂さん、誰かに『さしすせそ』を吹き込まれたでしょ?」


 東堂さんはいきなり無言になった。


 電話の向こうで東堂さんのびっくりした顔が浮かぶ様だった。


 この手の話、営業マンにとっては基本知識と言って良い。僕は女性じゃないけどね。


「一応、最後まで言ってみる? 男を褒める『さしすせそ』って言うんだよね? 今の会話」


「そ、そ、そうなんだー!」


 東堂さんもなかなかノリが良くて、僕は爆笑してしまった。


「わ、笑わないでください。クレアさんにどうやったら上手く悟さんと楽しく会話出来るか相談したんです。そしたら……」


「そんな事、気にしなくていいよ。僕は素の東堂さんの方がいいんだ」


「そうですか。ごめんなさい、勝手に五年前から好きだったとか、なんか重い女ですよね」


 それは違うよ。男としてみればこんなに嬉しいことはないんじゃないかと思う。


「僕こそ真島さんの手下みたいで情けなくてごめん」


「……」


 あれ、東堂さん、突然無口になった。


「……私たちの関係って。なんなんでしょうか?」


 来た。その時が来た。僕は逃げないぞ。


「だから、私、悟さんから直に気持ち聞いてなくて……その……」


 あああ! 真島さんから僕の好意を勝手に伝えられて僕自身東堂さんに何も言えず、アーチーズではすれ違い、思いの丈を東堂さんにぶつけることができなかった。


 今日は結衣香に背中を押された。


「ご、こめん。ちゃんと言うよ」


「いや、待って! 言わないで!」


 ええええ!? どっちなの?


「ごめんなさい。古いかもしれないけど、ちゃんと会って話したいです。今週の土曜日、もし時間があったら会ってくれませんか?」

 

 再び僕に生きる希望が生まれた。


 ぼくには「会わない」という選択肢はない。

最後までお読みいただきありがとうございました!

涼子さんに裏切られた過去……悟が女性不信になるのも無理はありません。しかし、そのトラウマをついに乗り越え、前を向いた悟に胸が熱くなりました!

クレアさんの直伝(?)の「さしすせそ」を見破られて照れる東堂さんも最高に可愛かったですね。そしていよいよ、運命の土曜日へ……!

果たして直接の告白は成功するのか!? 続きが気になる!二人の恋を応援したい!と思っていただけましたら、ぜひページ下部の【ブックマーク】や【★(星)でのご評価】をお願いいたします!皆様からの温かいご感想や応援が、執筆の最大のモチベーションです。次回もお楽しみに!

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