第十二話 『じゃあ私と付き合ってください!』スタバの修羅場が斜め上に解決したと思ったら、今度は本命のいるキャバクラに乗り込むことになりました
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前回のスタバでの大波乱。結衣香が残業中にしていた「秘密の行動」が暴露され、事態は思わぬ方向へ!?
なぜか誤解の解けた美瑠から猛アピールを受け、さらにノリノリの真島課長も合流。一行は東堂さんのいるキャバクラ『堕天使』へ向かうことになりますが……。嵐の前の静けさ漂う第十二話、お楽しみください!
「ミレイが?」
ミレイとは隣の営業一課の事務をやっている土居ミレイさんの事だ。
立花さんと土居さんは同期で、彼女から僕と結衣香が付き合っていると聞いたらしい。
僕は部署も違うしあまり話したことはないけど、まあまあ近い存在だから情報源としては十分あり得る話だった。
「土居さんがなんでそんな事を言ったんだろう」
「結衣香お姉さまが『オフサイトミーティング』で泣きながらそう言っていたって」
それを聞いて、なんとなく、何があったのかは理解できた。
要するにたまたま結衣香が真島課長に僕の事で泣きながら話をしていたのを、これもたまたま居合わせた土居さんが断片的に聞いてしまったってことだろう。
「お前、ミレイから聞いたことを鵜吞みにして先輩を陥れようとしていたわけか!」
「 ……いや、それだけじゃないわ。私、この目で見たんですから!」
美瑠は震える声で続けた。
「あの日の夜、お姉さまが誰もいないフロアで、尾上さんの椅子に座って……先輩の机にあったマグカップを、まるで宝物みたいに両手で包み込んで、愛おしそうに頬を寄せていたのを!」
「え……っ」
僕は絶句した。結衣香を見ると、彼女は顔を真っ赤にして、今にも消え入りそうなほど縮こまっている。
「……見たのか、あれを」
結衣香の消え入るような声。
「し、しかしな、ボクは先輩に正式に今日フラれたんだ。そもそも告白もしていなかっただけどな」
立花美瑠はその言葉に息を呑んだ。
そして、
「じゃあいいじゃないですか。私と付き合ってくださいよ。私だけの先輩になってくださいよお!」
「なんでそうなる! (笑) 悪いけど、お前の気持ちには応えられそうもないよ」
「……」
シュンとしてしまった立花美瑠に少し同情する気持ちが生まれた。
「でも! 私のことも構ってくださいよ! たまにでいいから」
「ああ。ボクもずっと今の仕事でこの会社で認められたくて突っ走ってきたからな。大学時代みたいにお前と遊んでやれなくてすまなかった」
「結衣香お姉さま……」
結衣香は大学時代ラクロス部の中心選手だったらしい。
立花美瑠はラクロス部の後輩で、プレーだけでなく何かと立花美瑠の事を気にかけていたらしい。
女子大という事もあって学内には男子学生もおらず、世間知らずのお嬢様育ちという事もあって結衣香にずっと想いを寄せていたらしい。
女子大で、世間知らずで、結衣香しか世界を知らなかった。
だから追いかけて就職して、そして勘違いした。
「今回の件は人事にも言わないでいてやる。だからもうこんなことするなよ?」
そう僕がいうと、
「嫌です! 尾上悟は女の敵ですから!」
と、立花美瑠は返してきた。
「だ、だから誤解だっていってるだろう?」
「誤解じゃないです。結衣香お姉さまを振るなんて、女の敵ですよ」
そう言って少し立花美瑠は笑った。
あっ、僕と立花さん、少し打ち解けられたんじゃないだろうか。
誤解が解けて良い感じになって来たのに。結衣香が爆弾を落とす。
「先輩には、好きな人がいるんだ」
その話は別に今しなくても……
「結衣香お姉さまよりも素敵で優しい人なんていませんって。馬鹿ですか? 尾上悟は?」
一応先輩なんだし尾上悟とか呼び捨てするなよな。
「おい美瑠、先輩を呼び捨てするな」
結衣香も僕の気持ちを代弁してくれた。
「ご、ごめんなさい。ずっと尾上悟って心の中で呼び捨て呪ってたから」
どれだけ僕は恨まれてたんだろう。
「振られついでに聞きたいんですけどね。先輩のその『いい人』ってどんな人なんですか?」
結衣香、それ、今話すこと?
「言わないとダメか?」
「ええ、結衣香お姉様を袖にする様な相手って、私も興味出てきました」
「なんか、キャバクラで働いてるとか課長から聞きましたけど」
そこまで言ってるの? あの人。
「会ってみたいなー。先輩。今から行きましょうよ」
「いや、嫌だよ。なんでそうなる」
「いいじゃないですか。じゃあ課長も誘いますね。それならいいでしょう?」
「良くない!」
僕の絶叫にまた、周りの客は迷惑そうに振り向いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結局押し切られることになり、僕ら三人と課長の四人で「堕天使」へ行くことになった。
課長は結衣香からの連絡で直ぐにスタバにやってきた。
「さーとーるー! 待たせたな!」
「待ってないです」
到着したときの課長の顔は忘れない。この上なく楽しそうだった。
間違いなく面白がっている。
昨日、会う約束をすっぽかされたし、何を話せばいいのか。
いや、僕の携帯の電源が切れていたのが悪かったのだし、「すっぽかされた」は違うかも。
しかし土居さんのお陰でとんだとばっちりを受けたものだな。
こう毎日人生の罰ゲームが続くと精神がすり減ってげんなりする。
キャバクラに行くにも、まだ六時を回ったところだ。まだ早すぎる。
一旦腹ごしらえも兼ねて昨日東堂さんとの待ち合わせで行った「アーチーズ」に行くことにした。
「わー、おしゃれじゃないですかぁ」
立花はアメリカチックな店構えに目を輝かせながら感心していた。
「美瑠、お前が『居酒屋なんて私行きたくない』とか言うから先輩に無理言ってお洒落なお店を探してもらったんだぞ。感謝しろ?」
結衣香はワガママ放題の立花を嗜めた。
「いやいや、たまたまここを知ってたし、良かったよ」
「でも先輩」
「まあ、入ろうよ」
そう言って入り口のドアを押し開けると、昨晩の感じの良い女性スタップが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ! あれ? 結衣香じゃない?」
「えっ、えっ? もしかして麻衣? ちょー久しぶりじゃん! なにアンタここで働いてんの?」
「ここじゃなんだから、こちらへどうぞ」
麻衣さん、っていうのか、綺麗だな、この人。そして結衣香の友達とはね。
真島課長のスイッチも入ったみたいだ。
「こんな素敵な店で、こんなに素敵な方が働いていらっしゃるなんて。今まで知らなかったことを本当に後悔しています」
「先輩、もう酔っぱらっているんですか? まだ早いですよ」
「何言ってんだ、悟。美しい女性を見かけたらちゃんと褒めないとダメなんだぞ?」
こっちに飛び火してきそうなので言い返すのは止めた。
僕ら四人はカウンターに通された。
ここだったら麻衣さんは少し話せるから、のようだ。
「結衣香はどこに就職したんだっけ?」
「いやぁ、我々、関東テクノスっていう半導体ウエハーの会社なんですよ、ご存じですか?」
聞かれたのは結衣香なのに真島課長が答えた。
「ごめなさい、アタシそう言うの弱くて」
「じゃあ聞くなよ(笑)」
結衣香が突っ込みを入れる。
「で、この方達は会社の方?」
「そうでーす」
立花美瑠は軽い感じで答えた。
「コイツ、大学の後輩だぜ?」
「あー、だからかな。なんか見たことがある気がしてたんだ。名前はなんていうんですか?」
「立花……美瑠です」
立花の表情が少しおかしい。
「で、こちらの方は昨晩来てくださいましたよね?」
「あ、はい。その節はどうも」
「せんぱーい? その節ってなんですか」
マジで地獄か。
「いや、その、人を待ってて」
「その人って? 彼女さん?」
結衣香はグイグイ来やがる。
「……そうだよ。まだ『彼女』じゃないけどな」
少し躊躇いがちに答えた。
「ところで、その、麻衣……さんと結衣香は学生時代の友達なんですか?」
「そうですよ! まあそんなに親しいってことでもなかったかな。麻衣はいつも他の子とツルんでたしね」
「そうだっけ? もうそんな昔のことは忘れたよ」
「麻衣さん、四番さんご注文みたいだけど」
結衣香と麻衣さんが話し込んでるのを嗜めるようにカウンターに入っていた男の子、――大学生かな?――
「ごめんね、ちょっと混んできたから。また後でね!」
麻衣さんは注文をとって帰ってきた。
「店長! 四番さんチキンピカタのセット、ワン、コウスケくん、カシスオレンジ、ワンお願い」
厨房とカウンターの中から、同時にオーダーを復唱する声が聞こえた。
その後も、ひっきりなしに麻衣さんは客に呼ばれてテーブルと厨房を往復。なかなか僕たちのいるカウンターには戻ってこれなかった。
目配せして、「ごめんね」の合図を送ってくる麻衣さん。
「これだけお客さんが入ってるのに、他のホールスタッフの人はいないみたいだね」
忙しいのは麻衣さんしかホールにいないからだ。
そんな事を考えていると、
「す、遅れてすみません!」
と言って、背の高い、爽やかそうな青年がギャルソン・エプロンを巻きながらやって来た。
「もーっ、唯人くん遅いよー」
バイトの男の子が遅刻したみたいだった。
麻衣さんは膨れっ面だ。
「すみません、なかなか研究発表が終わらなくて」
「許してあげるけど、店が捌けたら付き合ってもらうからね?」
その唯人くんの顔が少し赤らんだのを僕たちは見逃さなかった。
「あらあら、麻衣ぃ?」
ニヤニヤしながら結衣香が麻衣さんに話しかけると、
「そ、そんなんじゃないわよ!」
と麻衣さんは慌てて否定をする。
「ゆっくり話を聞かせてもらおうかしらね」
真島課長も、そのやり取りを見て何かを悟ったようだった。
「ああ、何も始まらず終わっ……」
そう言いかけて、課長は言葉を飲み込んだ。
その時、僕のポケットの中のスマートフォンが震えた。
画面に表示された名前を見て、僕は一瞬だけ息を止めた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
美瑠の「じゃあ私と付き合ってくださいよ!」という切り替えの早さには思わず笑ってしまいますね。そして舞台は再びアーチーズへ。麻衣さんと結衣香が同級生だったりと、狭い世界での人間関係が交錯してワクワクします。
そしてラスト、ついにあの人からの着信が……!? 悟は無事に電話に出られるのか!
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