第4巻:運命の日食の異変(第一の予言 その1)
「運命の日の黎明が日食の闇に呑み込まれた時、この大陸の運命の歯車は静かに回り出した。
救済から始まる物語もあれば、破滅の灰の中から再生する神話もある。平穏なるオークヘイヴンの村、少年ゾラン、そして聖騎士に率いられた魔竜の暗赤色の業火……すべては神々の盤上における最初の駒に過ぎない。光と闇の境界に取り残された魂を待ち受けるものとは?
古き予言、信仰の陰り、そして過酷な宿命の真実を追い求める旅の始まりへ、ようこそ。」
光陰矢のごとし。瞬く間に、ゾランはオークヘイヴンの村で5度の厳しい冬を過ごし、13歳になっていた。今日もゾランは朝早くに起き、薪を割り、ルシアのためにいくつかの野苺を摘みに森へ向かった。しかし、今日という日は特別だった。出発する直前、ガレン翁はゾランに、13歳の誕生日を祝うために早く帰ってくるよう言いつけていたのだ。ガレンはゾランの本当の誕生日を知らなかったため、彼を見つけた日を誕生日として定めていた。
道の半ばに差し掛かったその時、突如としてゾランは身震いと不穏な気配を感じた。鳥たちは巣へと舞い戻り、虫たちが鳴き始め、朝の空はにわかに暗転した。そして最も奇妙なことに、月が太陽をじわじわと侵食し始めていた。不吉な予感を覚えた彼は、村へと引き返そうと猛スピードで走り出した。しかし、走っている途中で、突如地面から突き出た一本の手が彼の足を掴んだ。周囲からも、腐敗した別の手々が次々と地面を割って這い出してきた。ゾランは自分を固く縛り付ける手から足を解き放とうと、必死に抗った。だが、 もがけばもがくほど、さらに多くの腐敗した腕が土を突き破って現れ、彼の足に掴みかかった。
その時、突如として巨大な黒い影が頭上をかすめた。
彼は無意識に顔を上げた。
月に呑み込まれた空の上で、一片の天空をも覆い尽くすほどの広大な翼を広げた巨大な生物が滞空していた。その身体は灰色の鱗に覆われ、引き裂かれたかのようなボロボロの翼が、暗黒の空の中で静かに羽ばたいていた。
それはゾランを眼中に留めることすら見向きもしなかった。
ただ、真っ直ぐにオークヘイヴンの方角へと飛んでいく。
一方、ガレン翁はルシアと一緒にケーキを作っている最中、外から村人たちの悲鳴を耳にした。
「太陽が…黒い太陽だ!!そんな…まさか!逃げろ!みんな逃げるんだ!!そこに立ち尽くすな!!早く子どもたちを連れていけ!!神よ、どうか私たちをお救いください!!」
ガレン翁は慌てて外へ飛び出した。
「まさか…これは日食…だが、なぜ今になって現れたのだ?」
一瞬呆然としたものの、彼はすぐに大声を張り上げた。
「地下室へ!早く教会の地下室へ入れ!急げ!」
村人たちに地下室へ避難するよう呼びかけながらも、ガレンは自責の念に駆られ続けていた。彼は静かに拳を握りしめた。
「すまない、ゾラン…」
彼はほんの一瞬、目を閉じた。
「…お前を迎えに行ってやることはできない」
その時だった…
ガレンが空を巡る生物を見上げた瞬間、彼の目が見開かれた。
「ま、魔竜…?」
しかし、彼を最も戦慄させたのは魔竜ではなかった。
その背骨の上に腰掛けている、一人の影だった。
聖光の紋様が刻まれた銀色の鎧を身に纏い、背後には白きマントを黒く染まった空の中に翻す一人の騎士。その腰には、まっすぐで長く、均整の取れた刃を持つ長剣が帯びられていた。銀の柄は、日食の薄暗い光を冷たく反射している。
ガレンは硬直した。
「そんな、あり得ない…」
「聖騎士…だと…?」
魔竜の背の上の騎士は、ゆっくりと首を垂れ、オークヘイヴンを見下ろした。
言葉はない。
表情もない。
彼はただ、静かに右腕を掲げた。
その瞬間…
魔竜は傷だらけの首をもたげた。
それは大きく口を開いた。
その喉の奥で、暗赤色の光が収束し始める。
暗赤色の光は、オークヘイヴンの村人たち一人ひとりの恐慌に満ちた顔を照らし出した。
魔竜の背の上の騎士が、静かに右腕を振り下ろした。
直後――
ズガガガガーン!!
地獄の業火のごとき暗赤色の火柱が、オークヘイヴンへと真っ直ぐに突き刺さった。
烈火は瞬く間に、あらゆるものを呑み込んでいった。
「読者の皆様、こんにちは。作者です。
まずは、この巻(章)の最後までゾランたちの物語にお付き合いいただき、心から感謝申し上げます。オークヘイヴンが火の海に沈み、魔竜の背に跨る聖騎士という矛盾に満ちた存在が現れたあの瞬間こそ、ゾランをかつてない過酷な世界へと突き動かす大きな転換点となりました。私自身、執筆しながら彼の行く末に胸を締め付けられる思いでした。
最初の予言は、本当に破滅の始まりに過ぎないのか? ゾランはどうやって生き延び、この悲劇の裏にある真実に辿り着くのか? その答えは、次章以降で少しずつ明かされていきます。
改めまして、皆様の応援に感謝いたします。次は、さらなる対立と大いなる謎が待ち受ける次巻でお会いしましょう!」




