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白い光と工場エリア


《MATCH START》


白い光が弾ける。


次の瞬間、三人は工場エリアへ降り立っていた。


入り組んだコンテナ群。


頭上を走る鉄骨の通路。


錆び付いた大型クレーン。


視界は悪く、一歩進むたびに死角が生まれる。


開始直後。


九条は昨日と変わらず、何の迷いもなく右ルートへ飛び出した。


「行く。」


その一言だけを残し、一気に加速する。


コンテナを蹴り、最短距離を駆け抜ける姿は、まるで獲物を見つけた肉食獣だった。


「相変わらず速ぇな。」


黒峰はその背中を見送りながら、小さく笑う。


止める素振りはない。


カムイもまた、九条を追わなかった。


右へ向かった九条とは反対に、一歩だけ左へ寄る。


視線は正面ではない。


マップ全体を見渡すように周囲へ巡らせる。


(東雲なら中央を取る。)


(相模は少し後ろ。)


(白瀬は二人が見える位置。)


昨日の戦いを思い返す。


東雲は前へ出ながら敵を引きつける役だった。


相模は冷静に援護を入れる。


白瀬は状況を見て穴を埋める。


三人なら、その形が一番自然だ。


そして黒峰も動き始めた。


ライフルを構えたまま中央へ歩いていく。


速くもなく、遅くもない。


一定の速度。


まるで散歩でもしているかのような足取りだった。


「先生。」


カムイが小さく声を掛ける。


「何だ。」


「中央ですね。」


「ああ。」


黒峰は短く答える。


「好きに使え。」


その言葉だけ残し、中央のコンテナ群へ姿を消した。


一人になったカムイは、ゆっくり息を吐く。


(昨日とは違う。)


(二人を同時に見なければ。)


その時だった。


右方向から、乾いた銃声が響く。


ダダダダダッ!


間違いない。


九条だ。


サブマシンガン二挺による、途切れない弾幕。


試合開始から、まだ十数秒。


もう接敵している。


「早い……。」


カムイは思わず呟く。


昨日より速い。


迷いがない。


その直後、別方向からライフルの発砲音が重なった。


パンッ。


パンッ。


二点バースト。


(相模。)


落ち着いた射撃。


狙いは九条の進行方向を制限すること。


そこへさらに銃声が加わる。


東雲だった。


三方向から撃ち合いが始まる。


「なるほど。」


カムイは目を細める。


(三人で迎え撃つ。)


昨日とは違う。


九条一人に翻弄されないよう、最初から包み込むような陣形を作っている。


(黒峰先生の言う通りだ。)


(三対三は、一人の判断が全員へ影響する。)


その瞬間。


三人全員が勝つために、一番欠けている場所へ向かって。


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カムイは一直線には走らなかった。


コンテナの陰を一つ、二つと渡りながら、銃声だけに耳を澄ませる。


右では九条のサブマシンガンが絶え間なく鳴り響いている。


その合間に混じる東雲のアサルトライフル。


さらに少し間隔を空けて、相模の落ち着いた射撃音。


(三人ともまだ生きてる。)


九条は押し込んでいる。


だが、押し切れてはいない。


東雲と相模が互いの射線を維持しながら、九条を近づけさせないよう立ち回っている。


そこへ白瀬が穴を埋める。


昨日とはまるで別のチームだった。


(正面から行けば、九条でも時間を食う。)


カムイは立ち止まり、マップを頭の中で組み立てる。


九条の位置。


東雲の位置。


相模の射線。


そして、まだ姿を見せていない白瀬。


(白瀬はどこだ。)


考える。


自分ならどこへ立つ。


二人を援護できて、自分も狙われにくい場所。


答えは一つだった。


(西側の高台。)


コンテナ群を見下ろせる細い通路。


中央にも右ルートにも射線を通せる場所。


白瀬なら、そこを選ぶ。


カムイはすぐに進路を変えた。


足音を殺しながら、高台へ続く階段を上る。


一段。


二段。


三段。


その時だった。


金属を踏む、小さな音。


カン――。


ほんの一瞬。


だが、カムイの口元がわずかに動く。


(いた。)


照準を階段の出口ではなく、そのさらに奥へ置く。


普通なら、階段を警戒する。


だが白瀬なら違う。


敵が顔を出してから撃つのではなく、一歩下がって迎え撃つ。


その癖は昨日の演習でも見ていた。


(そこだ。)


カムイは姿を見ていない。


それでも引き金を引いた。


乾いた銃声が一発。


その音に反応するように、遮蔽物の陰から白瀬が飛び出した。


だが、その瞬間にはすでにカムイの照準は動いていた。


予想通りの位置。


予想通りのタイミング。


白瀬が銃を構えるより、一瞬だけ早く二発目が放たれる。


《HIT》


白瀬の肩へ弾丸が突き刺さる。


「っ!」


体勢を崩した白瀬は、とっさに遮蔽物へ飛び込む。


撃破には至らない。


しかし、その一瞬で十分だった。


白瀬の援護が止まる。


右側では、その変化を逃さなかった九条がさらに踏み込んでいた。


「捕まえた。」


楽しそうな声が通信に乗る。


二挺のサブマシンガンが、一気に火を吹いた。


白瀬の援護が途切れた、その一瞬。


九条は迷わなかった。


楽しそうに笑う声が通信へ流れる。


同時に、二挺のサブマシンガンが轟音を上げた。


右。


左。


撃ちながら走る。


左を撃っている間に右をリロードし、右が火を吹けば今度は左へ新しいマガジンを叩き込む。


弾幕は一度も途切れない。


東雲は舌打ちした。


「白瀬!」


返事はない。


援護が消えた。


その事実だけで十分だった。


「相模、下がるぞ!」


「いや――」


相模はライフルを構えたまま首を振る。


「今下がれば、九条にラインを全部取られる。」


二人とも理解していた。


ここで退けば負ける。


ならば。


前へ出るしかない。


東雲がコンテナを蹴る。


一気に横へ飛び出し、九条の進行方向へ弾丸をばら撒いた。


ダダダダダッ――!


だが。


九条は止まらない。


弾道を見ているのではない。


東雲の体の向き。


肩の開き。


銃口の角度。


撃つ前の動きを見ただけで、次の射線を読んでいる。


半歩。


それだけ身体をずらす。


弾丸は頬の横を掠めるだけだった。


「うそだろ!」


東雲が目を見開く。


その間にも距離は縮まる。


十五メートル。


十。


八。


相模が援護射撃を入れる。


正確な三連射。


九条はコンテナへ身を預けるように滑り込み、金属板を盾にしながら走り続ける。


止まれば終わる。


だから止まらない。


「来るぞ!」


東雲が叫ぶ。


次の瞬間、九条がコンテナの角を蹴った。


まるで重力を無視するような鋭い切り返し。


視界から消えたと思った瞬間には、東雲の右側へ現れていた。


「っ!」


東雲が反応する。


速い。


だが、昨日とは違う。


今日は一人じゃない。


東雲が一歩踏み込み、九条へ銃口を向けた、その瞬間。


パンッ!


乾いた銃声が工場内へ響く。


東雲の銃口が跳ね上がる。


「なっ……!」


弾は腕を掠めただけ。


しかし、その一発で照準がわずかに逸れた。


「先生か!」


中央のコンテナの隙間。


黒峰がライフルを構えたまま立っていた。


撃ったのは一発だけ。


それ以上は撃たない。


ただ、その一発で十分だった。


東雲の動きが止まる。


その隙を、九条は見逃さない。


「ありがとう。」


その一歩で、勝負は決まった。


東雲は無理やり銃口を戻そうとする。


だが遅い。


九条はもう懐まで入り込んでいた。


「近っ――!」


東雲が反射的に後ろへ跳ぶ。


その動きを見た九条の口元が、わずかに吊り上がった。


「逃がさない。」


右手のサブマシンガンが火を吹く。


東雲はコンテナへ身を滑らせながら何とか射線を切る。


しかし、その動きさえ九条には読まれていた。


左手。


撃ちながらリロードを終えたサブマシンガンが、東雲の逃げ道へ先回りするように弾幕を張る。


金属へ弾丸が激しく跳ねる。


東雲は思わず足を止めた。


止まるしかなかった。


前へ出れば九条。


横へ逃げれば弾幕。


一瞬だけ生まれた迷い。


その一瞬が致命傷だった。


九条はコンテナを蹴り、一気に間合いを詰める。


ほとんど零距離。


二挺のサブマシンガンが同時に火を噴いた。


《KILL》


東雲のアバターが粒子となって消えていく。


「やっぱ速ぇな……。」


最後に苦笑だけを残し、東雲はログアウトした。


残る敵は二人。


だが、その直後だった。


パンッ!


鋭い銃声が響く。


九条の肩へ一発。


「っ!」


体勢がわずかに揺らぐ。


撃ったのは相模だった。


東雲が倒される、その瞬間まで照準を動かさず待っていたのだ。


「まだ終わってない!」


相模は素早く位置を変えながら追撃する。


二発。


三発。


正確な連射が九条を襲う。


九条はすぐに遮蔽物へ飛び込んだものの、さっきまでの勢いは止められていた。


その様子を少し離れた場所から見ていたカムイは、小さく目を細める。


(相模は九条を見ている。)


(なら――。)


視線を上げる。


高台。


先ほど傷を負った白瀬が、再びライフルを構えようとしていた。


(来る。)


白瀬は九条を援護する相模を守るため、ここから射線を通す。


その位置は、さっきと同じではない。


だが、選べる場所は限られている。


カムイは静かにライフルを構えた。


照準を合わせた先には、まだ誰もいない。


それでも動かさない。


(そこに来る。)


足音。


金属を踏む音。


一歩。


二歩。


そして――。


白瀬が遮蔽物から身体を出した、その瞬間。


カムイの引き金が静かに引かれた。


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