↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
60/60

乾いた銃声と高台


乾いた銃声が、高台へ鋭く響いた。


白瀬は身体を出した瞬間、その音を聞いた。


「……!」


反射的に身を引こうとする。


だが、それより早く弾丸が肩口を貫いた。


《HIT》


「くっ……!」


白瀬はよろめきながら遮蔽物へ身を預ける。


致命傷ではない。


それでも、再び援護の手は止まった。


カムイは追撃しない。


ライフルを構えたまま、静かに照準を外す。


(これで十分。)


白瀬を倒すことが目的ではない。


撃たせないこと。


九条へ向くはずだった援護を、一瞬でも遅らせること。


それだけでいい。


白瀬は痛む肩を押さえながら、もう一度だけライフルを構え直した。


まだ終わっていない。


東雲が倒れた。


相模も追い込まれている。


ならば、自分が一発でも援護を入れれば流れは変えられる。


きっと彼女は一度引き、体制を整える。


そのために必要な場所。


九条を狙えて、相模を援護できる位置。


そこは一つしかなかった。


カムイは高台の反対側へ回り込む。


白瀬が顔を出す前。


白瀬の姿がコンテナの影から現れた。


「……!」


その瞬間。


白瀬は理解した。


また、この男は待っていた。


から撃ったのではない。


自分がそこへ来ると考えて、先にいた。


カムイの銃声が響く。


一発目。


白瀬は咄嗟に身体を引く。


だが、その動きすら読まれていた。


次に逃げる方向へ、二発目が飛ぶ。


《HIT》


白瀬の動きが止まる。


そして。


《KILL》


白瀬のアバターが光の粒となって消える。


これで残るのは相模だけだった。


その瞬間、九条が通信越しに短く言った。


「……また先にいた。」


カムイは静かに答える。


「白瀬なら、体制を立て直すと思った。」


その返答に、九条は少しだけ黙る。


速さで相手を追い詰める自分。


そして。


相手の考えを読んで、戦場の先に立つカムイ。


同じ「先に行く」でも、二人の戦い方はまるで違っていた


九条は走る。


「もらう。」


短く呟くと、コンテナを蹴って飛び出す。


右手のサブマシンガンが火を吹き、相模の退路を塞ぐ。


相模はすぐに横へ飛ぶ。


その動きさえ、九条には予想通りだった。


左手のサブマシンガンが、逃げた先へ弾幕を重ねる。


絶え間ない銃声が工場内へ響き渡る。


相模は撃ち返しながら後退する。


冷静だった。


焦ってはいない。


だが、九条は一歩ずつ確実に距離を詰めてくる。


十五メートル。


十メートル。


七メートル。


(三メートルまで入られる。)


(終わる。)


相模は瞬時に判断した。


だから逃げた。


コンテナの角を利用し、一度射線を切る。


九条も迷わず追う。


勢いは一切衰えない。


その背中を見ながら、カムイは静かに目を閉じる。


(相模なら。)


(ここで左へは行かない。)


左は黒峰が中央から射線を通せる。


後ろも九条がいる。


残る逃げ道は、一つだけ。


工場外周へ続く細い通路。


そこしかない。


カムイは走り出した。


相模が"逃げる未来"へ向かって。


コンテナを一つ越え、細い通路へ出る。


その角で足を止めた。


ライフルを静かに構える。


照準の先には、まだ誰もいない。


だが、カムイの視線は微動だにしなかった。


(来る。)


相模の思考。


逃げ道。


射線。


地形。


すべてが一本の線として頭の中で繋がる。


数秒後。


その予想通りに、相模が角を曲がってきた。


その瞬間。


カムイは迷わず引き金を引いた。


乾いた銃声が、狭い通路に鋭く響いた。


相模は角を曲がった瞬間、その音を聞いた。


「っ──!」


反射的に身体をひねる。


だが、それは"撃たれてから"の反応だった。


弾丸は胸部を掠めるように命中し、ライフルを持つ腕が大きく揺れる。


《HIT》


「いたのか……!」


思わず声が漏れる。


違う。


見つけられたわけではない。


待たれていた。


その事実を理解した瞬間、相模の背中を冷たいものが走った。


(どうして……。)


(ここにいるって分かった。)


カムイは追撃しない。


慌てて前へ出ることもしない。


ライフルを構えたまま、静かに相模を見据えている。


その姿は、まるで最初からこの場所で待つことを決めていたようだった。


相模はすぐに遮蔽物へ飛び込もうとする。


しかし、その動きを見たカムイは小さく息を吐いた。


(そこじゃない。)


相模が選ぶ遮蔽物。


その先にある次の退路。


頭の中では、もう次の動きまで組み立て終わっている。


カムイは一歩だけ横へ動いた。


照準も、それに合わせてわずかにずらす。


そして。


相模が遮蔽物から飛び出す、その瞬間。


もう一度、引き金を引いた。


パンッ。


二発目の弾丸は、飛び出した相模の胸へ正確に吸い込まれる。


《KILL》


相模のアバターが光の粒となり、静かに崩れていった。


工場エリアに静寂が戻る。


ゆっくりと歩みを止め、消えていく相模を見つめる。


自分が追い込んだ相手。


その逃げ道に、カムイはもういた。


昨日も。


そして今日も。


偶然では説明できない。


九条は視線をカムイへ向けた。


「なんで。」


ぽつりと漏れる。


「なんで、そこにいるの。」


カムイはライフルを下ろし、静かに答えた。


「相模なら、そこを選ぶと思った。」


「……思った?」


「相手の立場になって考えれば、逃げ道は絞れる。」


九条は何も言わなかった。


ただ、カムイの横顔を見つめる。


今までは、自分の速さだけを信じてきた。


相手より速く。


相手より近く。


相手より先に撃つ。


それが、自分の勝ち方だった。


だが目の前の男は違う。


走る前に勝っている。


相手がどこへ逃げるのか。


どこなら助かると思うのか。


その答えを先に見つけ、その場所で待っている。


九条は小さく目を細めた。


「……嫌な戦い方。」


その声には、昨日までの否定はなかった。


カムイは少しだけ首を傾げた。


「そうか?」


「そう。」


九条は即答した。


「普通は相手を見る。」


「でも、あんたは違う。」


九条は周囲を見渡す。


さっきまで相模がいた場所。


自分が追い込んだルート。


黒峰が中央から作った圧力。


全てを思い返す。


「まだ敵がいない場所にいる。」


「来る前から撃つ準備をしてる。」


「まるで……。」


そこで九条は一度言葉を止めた。


上手く表現できない。


自分は今まで、速さで相手を置き去りにしてきた。


相手が考える前に動く。


相手が対応する前に距離を詰める。


だからこそ、相手より先に戦場へ立つことが強さだと思っていた。


でも。


目の前の男は別の意味で、先にいる。


「未来を見てるみたい。」


九条が呟く。


カムイは少しだけ目を伏せた。


「未来じゃない。」


「相手が何を選ぶかを考えてるだけだ。」


「同じことじゃない?」


「違う。」


カムイは静かに答える。


「相手が必ずそう動くわけじゃない。」


「外れることもある。」


「だから、予想する。」


九条は少し意外そうに瞬きをした。


完璧に読んでいるわけではない。


外れる可能性も理解している。


それでも、その中で一番可能性が高い場所へ先に行く。


それは九条にはない考え方だった。


九条は少しだけ視線を逸らす。


「……私なら。」


「追う。」


「近づいて、撃つ。」


カムイは頷く。


「知ってる。」


「それが一番、お前に合ってる。」


その返答に、九条は少し眉を動かした。


否定されると思っていた。


自分の戦い方を変えろと言われると思っていた。


でも、カムイはそう言わない。


「お前の速さは武器だ。」


「無理に変える必要はない。」


「ただ。」


カムイは工場の奥を見る。


「俺は、お前とは違う方法で先に行く。」


九条は黙る。


その言葉が、なぜか引っ掛かった。


昨日までなら。


「私は一人でいい。」


そう言って終わっていた。


誰かに合わせる必要などないと思っていた。


でも。


今は少し違う。


自分とは違う強さを持つ人間がいる。


その事実が、少しだけ面白かった。


《MATCH END》


勝敗表示が浮かび上がる。


**WINNER**


**黒峰・九条・カムイ**


ロビーへ戻る光が三人を包む。


黒峰は何も言わず、二人を見ていた。


やがて。


「悪くない。」


短い言葉。


九条が振り返る。


「何がですか。」


「昨日までのお前なら。」


黒峰は腕を組む。


「カムイの動きを気にもしなかった。」


九条は黙る。


「自分が勝てるなら、それで終わりだった。」


「でも今日は違った。」


黒峰の視線がカムイへ移る。


「お前も。」


「九条に合わせるだけじゃなく、自分の武器を使った。」


カムイは静かに頷いた。


「まだ未完成です。」


「当たり前だ。」


黒峰は即答する。


「一日で完成する武器なんてない。」


「だが。」


黒峰は表示された戦績を見る。


「昨日より、確実に変わった。」


九条は結果画面を見つめた。


撃破数。


ダメージ量。


移動距離。


数字だけなら、自分が一番目立っている。


それでも。


今回、一番頭に残ったのは別のものだった。


自分が暴れている間。


誰かが戦場を読んでいた。


自分が前へ進むための道を、別の場所から作っていた。


「……。」


九条は小さく息を吐く。


そして、カムイを見る。


「次。」


「もう一回組む。」


突然の言葉。


カムイが少しだけ目を開く。


「いいのか?」


「勘違いしないで。」


九条はいつもの無表情に戻る。


「まだ認めたわけじゃない。」


「ただ。」


少しだけ間を置く。


「その戦い方が、私の速さについてこられるのか確認するだけ。」


カムイは小さく笑った。


「分かった。」


「何回でも。」


九条はその返事を聞いて、ほんの少しだけ口元を緩めた。


昨日までなら。


誰かと並んで戦うなんて考えもしなかった。


でも。


今は違う。


まだ認めてはいない。


まだ信用したわけでもない。


それでも。


もう一度試してみたいと思った。


その感覚を、九条自身が一番驚いていた。


しばらく投稿休止します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。