リプレイと決め撃ち
湊は何度目か分からないリプレイを停止した。
画面に映っているのは九条玲奈ではない。
正確には、九条が敵へ飛び込む直前の数秒間だった。
彼女は決して命中率だけで勝負しているわけではない。
両手のサブマシンガンから放たれる弾丸は、決して無駄なく敵へ吸い込まれているわけではなかった。
むしろ外れている弾の方が多い。
それでも相手は押し込まれる。
撃ち返す余裕を失い、逃げるしかなくなる。
九条は命中率ではなく、「相手の行動そのもの」を撃っているのだ。
湊はそこで映像を止めた。
「……行動を撃つ。」
思わず口から漏れたその言葉を、自分でも反芻する。
相手が今どこにいるかではない。
次にどこへ動くか。
どこから顔を出すか。
どこなら安全だと思うか。
その選択肢を読み切り、そこへ先に弾を送る。
だから九条の弾は外れても意味がある。
相手を動かし、自分の思い描いた場所へ追い込むための弾だからだ。
それは九条の才能と努力によって生み出された技であった。
「だったら……」
湊は静かに立ち上がった。
「俺は、もっと違う形で使える。」
射撃シミュレーターを起動する。
相手は最高難度のBOT。
工場エリア。
障害物が複雑に入り組んだ近距離マップだった。
開始と同時に、湊は銃を構えた。
しかし、すぐには撃たない。
敵を探すこともしなかった。
代わりに、ゆっくりと周囲を見渡す。
コンテナの配置。
通路の広さ。
高台へのルート。
退路になる細道。
自分ならどう動くか。
敵なら何を選ぶか。
世界大会を経験してから身についた戦術眼が、自然と地形を読み始める。
「俺なら、このコンテナは使わない。」
そう呟いた瞬間だった。
右側の通路へ照準を置く。
敵はまだ見えない。
それでも引き金を引いた。
乾いた銃声が響き、弾丸がコンテナの角を削る。
しかし、誰も現れない。
数秒後、BOTはまったく別の場所から姿を見せた。
「外したか……」
湊は苦笑した。
予想は外れた。
だが、不思議と落胆はなかった。
今の失敗で一つ分かったことがある。
「確実に位置を当てられる時出ないといけない」
外した時銃声で位置がばれる。そして玉も消費して逆に遅れをとる。
これはここぞと言う時に使うものだ。
もう一度やり直す。
今度は足音を頼りに考える。
金属を踏む音。
距離。
響き方。
そしてマップの構造。
二階へ上がった。
そのまま高台を維持するか。
いや。
撃たれていないなら、位置を変えるはずだ。
「降りる。」
湊は階段の出口ではなく、その少し先へ照準を置いた。
敵はまだ見えない。
それでも一発だけ撃つ。
弾丸は壁へ当たり、小さく火花を散らした。
その直後だった。
BOTが飛び出してくる。
弾は当たらない。
しかし、そのBOTは思わず一歩止まった。
その一瞬だけで十分だった。
湊は落ち着いて二発目を撃ち込み、ようやく撃破する。
「……そうか。」
今の一発目は外れた。
けれど無意味ではない。
先に弾が飛んできたことで、相手は反応せざるを得なかった。。
一発で仕留める必要はない。
未来を読んで、先に撃つ。
そこへ二発目を重ねる。
「これなら……」
湊の目が少しずつ変わっていく。
自分はレオンのような反射神経はない。
東雲のような撃ち合いの強さもない。
九条のような圧倒的なスピードもない。
それでも、自分には戦術眼がある。
相手がどう考え、どこへ動くのか。
その答えを誰よりも早く組み立てられる。
ならば、戦い方もそこに合わせればいい。
敵を見てから撃つのでは遅い。
敵が現れると分かった場所へ、先に照準を置く。
その一発は、反射神経ではなく経験で放つ弾だ。
その一発が外れても構わない。
重要なのは、その弾で相手の動きを予想し、撃ち合いに臨むこと。
縛られた敵は、自分でも気付かないうちに、予想した場所へと動いていく。
そして最後に放つ二発目で、初めて勝負を決める。
湊は何度もBOT戦を繰り返した。
最初は予想が外れる。
撃つ場所も違う。
だが一戦ごとに精度は上がっていく。
敵を見る時間は減り、地形を見る時間が増える。
照準を合わせる時間は減り、考える時間が増える。
それは射撃技術というより、自分だけの戦術を磨く作業だった。
気が付けば、時計の針は午後の集合時間が近いことを告げていた。
湊はヘッドギアを外し、静かに息を吐く。
まだ完成には程遠い。
だが一つだけ、確かな手応えがあった。
自分は撃ち合いで勝つ必要はない。
撃ち合いになる前に、有利な一発目を作ればいい。
その答えは、午前中に見た九条玲奈の戦いから生まれた、神谷湊だけの新しい武器になろうとしていた。




