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判断と分散

レオンの指示と同時に、ドイツの四人が動き始める。


だが。日本側の反応は早かった。


「動いた」


白瀬の声。


高所から見下ろす視界に、複数の影が映る。


「A方面、二人」


「B方面、一人」


「中央……一人」


湊はすぐに判断する。


(分散)


予想通りだった。


ドイツは一箇所に人数を集めていない。


当然だ。


デストロイボムは、誰でも設置できる。


一人が突破すればいいわけではない。


四人全員が設置候補。


だからこそ、防衛側は相手全員を見る必要がある。


「相模先輩」


『分かってる』


相模が答える。


「B側、寄せすぎない」


『了解』


湊は続ける。


「東雲先輩は中央維持」


『任せろ』


「白瀬さんはA固定」


『分かった』


完璧な対応だった。


簡単には崩れない。


日本代表は、このレベルまで来るために何度も戦ってきた。


一人の動きで崩れるようなチームではない。


実況も声を上げる。


「日本、落ち着いて対応しています!」


「ドイツが分散してきましたが、これは簡単には通れません!」


解説も頷く。


「そうですね」


「日本は全員が設置可能というルールを理解した上で守っています」


「一人を止めればいいゲームではない」


「全員を警戒しなければならない」


「だからこそ、守備側の判断力が重要になります」


その通りだった。


ドイツの四人がどこへ行っても、日本は対応できる。


Aに寄れば白瀬がいる。


中央なら東雲が止める。


Bなら相模が見る。


そして湊は、その隙間を埋める。


(悪くない)


湊は思う。


(今の配置なら設置までは行かせない)


だが。


次の瞬間。


違和感。


(……違う)


何かがおかしい。


ドイツは攻めていない。


撃ち合いもしていない。


ただ歩いている。


まるで。


日本がどう動くかを確認しているように。


湊は視線を細める。


(情報を取ってる)


その瞬間。


白瀬から通信。


『A、敵二人』


『でも入ってこない』


相模も続く。


『Bも同じ』


東雲。


『中央も接触なし』


湊は黙る。


普通ならここで疑問が出る。


なぜ攻めない?


残り時間は減っている。


設置しなければドイツの負け。


なのに。


動かない。


そして。


湊は気づいた。


(攻めてないんじゃない)


(守らせてる)


日本を。


「全員、そのまま」


湊が言う。


「動かないでください」


東雲が聞き返す。


『まだ?』


「はい」


「今動いたら……」


湊は言葉を止める。


黒峰との演習。


あの時と同じだ。


相手の行動を見るな。


相手が何を目的にしているかを見る。


レオンの目的は設置。


なら。


日本に守らせ続ける意味は?


(守備の形を固定するため)


湊の背中に寒気が走る。


その瞬間。


ドイツの一人が中央へ一歩出た。


東雲が反応する。


『中央来た』


「待ってください」


『でも――』


「まだです」


東雲が止まる。


一秒。


二秒。


ドイツ選手は中央で姿を見せる。


だが撃たない。


ただ、日本に見せる。


(これは囮)


湊は理解する。


その選手は突破するつもりじゃない。


日本に「中央を警戒させる」ため。


そして。


その瞬間。


白瀬が気づく。


『……まずい』


「何か見えましたか?」


『いや』


白瀬の声が少し低い。


『見えないから』


湊の表情が変わる。


ドイツはまだ誰も攻めていない。


なのに。


白瀬の視線はAに固定されている。


相模もBを見る。


東雲は中央。


全員が。


自分の担当を見るしかなくなっている。


(……違う)


湊は息を止める。


(担当させられてる)


ドイツは人数を割っているんじゃない。


日本の四人を。


それぞれ別の場所に縛っている。


実況も異変に気づく。


「ドイツ、まだ設置に向かいません!」


「ですが日本も動けない!」


解説が静かに言う。


「ここです」


「ドイツが作っているのは突破口ではありません」


「日本が動けない状況です」


「設置する場所を探しているのではなく」


「設置できる時間を作っている」


湊の視線が揺れる。


(時間)


残り。


二分。


一分半。


そして。


ドイツの一人が、初めて日本の視界から消えた。


「……誰だ」


湊が呟く。


全員の位置を確認する。


A。


いる。


B。


いる。


中央。


いる。


なら。


(どこへ消えた?)


答えは。


すぐには出なかった。



湊の視線が揺れる。


(中央にいたのは、突破役ではない)


(日本の視線を中央へ固定するため)


(レオン自身が動くための時間を作るため)


そう考えた瞬間だった。


「……いや」


湊の中に、もう一つの違和感が浮かぶ。


(違う)


(何かが足りない)


中央にいたレオン。


Aにいた二人。


Bにいた一人。


人数は合っている。


だが。


「……配置が変わってる」


湊が呟く。


白瀬が反応する。


『何?』


「最初の位置と今の位置が違います」


「Aの二人……一人だけ動きが見えてない」


白瀬がすぐに確認する。


『……確かに』


「いつからですか」


『……中央が見えた直後』


湊の表情が変わる。


(入れ替え)


ドイツは人数を割ったんじゃない。


日本にそう見せただけ。


中央にいたレオン。


その裏で。


A担当の一人が、音を消して移動していた。


そして。


中央にいた選手と入れ替わっている。


「まずい」


湊が走り出す。


「Bです!」


相模が反応する。


『B?』


「レオンが来ます!」


その瞬間。


B方面のカメラに姿が映る。


黒と赤のユニフォーム。


静かに歩く。


レオン・ヴァイス。


実況が声を張る。


「ここで動いた!」


「ドイツ、ついにB方面へ!」


解説も画面を見る。


「……なるほど」


「日本を動かすための準備が終わったということですね」


「中央で視線を集め、その間に配置を変える」


「これがドイツの狙いです」


湊は走りながら通信を入れる。


「相模先輩、あと少し耐えてください!」


『分かってる!』


B地点。


相模が迎え撃つ。


距離は近い。


簡単には通さない。


ドイツが一人で来ているなら。


普通なら止められる。


だが。


レオン。


その後ろに、ドイツ選手が一人。


簡単な状況ではない。


だが。


ここを抜かせるわけにはいかない。


「来い」


相模が先に撃つ。


一発。


レオンはすぐに遮蔽物へ隠れる。


その横を、もう一人のドイツ選手が前へ出る。


相模はそちらへ照準を移す。


だが。


その瞬間。


レオンの射撃。


「っ!」


相模は反射的に身を引く。


ほんの一瞬。


視線がズレる。


その隙に、もう一人が距離を詰める。


(速い)


相模は判断する。


一人なら勝てる。


レオンだけなら止められる。


だが。


二人同時は違う。


一人を見ると、もう一人が来る。


もう一人を見ると、レオンが撃ってくる。


相模は必死に撃ち返す。


一発。


二発。


三発。


ドイツ選手を狙う。


しかし。


レオンがその射線を作る。


「……!」


相模が下がる。


その瞬間。


ドイツ選手の弾が当たった。


《PLAYER DOWN》


相模の表示が消える。


実況が声を上げる。


「相模選手、撃破!」


「ドイツ、B地点への侵入成功!」


解説が続ける。


「これはシンプルな二対一ですね」


「ですが、その二対一を作るまでがドイツの戦術でした」


「日本は全員を警戒していた」


「だからこそ、一人の守備を二人で崩した」


湊は走りながらその光景を見る。


(相模先輩が負けた)



相模が弱かったわけじゃない。


二人を一人で止める。


その状況自体が厳しかった。


そして。


レオンがB地点へ入る。


《B地点 爆弾設置》


電子音が響く。


実況が叫ぶ。


「設置成功!」


「ドイツ、先に爆弾を設置しました!」


湊は歯を食いしばる。


(まだだ)


解除はできる。


まだ終わっていない。


「解除に入ります!」


湊がBへ向かう。


残り時間。


十秒。


九秒。


だが。


そこへドイツの選手が立ちはだかる。


「……!」


撃ち合い。


一発。


二発。


湊は避ける。


相手も避ける。


一瞬の判断。


そして。


白瀬の弾が相手を捉えた。


《PLAYER DOWN》


「一人落とした!」


実況が叫ぶ。


「日本、解除へ向かえるか!」


だが。


まだいる。


レオン。


そしてもう一人。


「東雲!」


『分かってる!』


A側から援護。


日本全員がBへ集まる。


残り時間。


三秒。


二秒。


一秒。


――間に合う。


湊がそう思った瞬間。


《DETONATION》


爆発音が響く。


画面が赤く染まる。


《ROUND LOST》


実況が声を張る。


「ドイツ、第一ラウンド獲得!」


「日本、解除まであと一歩届きませんでした!」


解説は静かに頷く。


「日本の対応も悪くありませんでした」


「ですが、ドイツは設置前から設置後まで、一つの流れとして戦っていました」


湊は画面を見つめる。


負けた。


だが。


理由は分かる。


ドイツは撃ち勝ったわけじゃない。


日本より先に。


勝負の形を作っていた。


「……これがレオン・ヴァイスの戦い方か」


湊は静かに息を吐いた。

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