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演習と本番


代表メンバーは再び演習室へ集まっていた。


黒峰はいつものように前へ立つ。


「始めるぞ」


その一言だけで実戦形式の演習が始まる。


細かな説明はない。


ドイツ代表を想定したAI。


最初の一本。


日本代表の敗北。


二本目。


時間切れ。


三本目。


あと一歩届かず。


それでも。


以前とは違っていた。


東雲は孤立しない。


白瀬は迷わず引き金を引く。


相模は補給だけでなく、自分を狙う敵まで計算に入れて動く。


そして。


湊は盤面を見る時間が減っていた。


敵より先に味方を見る。


誰が焦っているか。


誰が無理をしようとしているか。


誰が次に飛び出すか。


それを一歩早く察して声を掛ける。


「東雲先輩、一回引いてください。」


「白瀬さん、そのまま三秒待って。」


「相模さん、補給ルート変えます。」


派手ではない。


だが、その三秒が何度もチームを救った。


黒峰は何も言わない。


ただ腕を組んで見ているだけだった。


---


演習終了。


全員が汗を拭きながら床へ座り込む。


東雲が大きく息を吐いた。


「……死ぬ。」


「ドイツとやる前に俺が死ぬ。」


相模も苦笑する。


「今日だけで何試合やったんだ。」


白瀬はタオルで汗を拭きながら、小さく笑った。


「でも最初よりずっといい。」


黒峰は静かに資料を閉じる。


「終わりだ。」


その一言で全員が顔を上げる。


「これ以上やっても疲労しか残らん。」


「明日は調整。」


「その次の日に出発だ。」


部屋が静かになる。


いよいよだ。


ドイツ戦。


ずっと目標にしてきた舞台が目前まで迫っていた。


黒峰は全員を見回す。


「技術はもう教えねぇ。」


「今さら新しいことを覚えても混乱するだけだ。」


「お前らは、お前らの戦い方を貫け。」


誰も口を開かない。


黒峰は最後に湊を見る。


「神谷。」


「はい。」


「少しはマシな顔になった。」


突然の言葉だった。


湊は思わず目を瞬かせる。


黒峰は続ける。


「前のお前は、盤面しか見てなかった。」


「今は人を見てる。」


「まだ浅い。」


「まだ遅い。」


「だが。」


ほんの一瞬だけ口元が緩む。


「ようやく指揮官の入口には立った。」


演習室が静まり返る。


東雲が驚いたように目を見開く。


相模も白瀬も何も言わない。


黒峰が人を褒める。


それ自体が珍しかった。


湊は少しだけ頭を下げる。


「ありがとうございます。」


「勘違いするな。」


黒峰は即座に言う。


「入口だ。」


「中にはまだ入ってねぇ。」


「はい。」


その返事に迷いはなかった。


黒峰は小さく頷く。


「……よし。」


「今日は解散。」


「しっかり寝ろ。」


その言葉で緊張していた空気が少しだけ和らぐ。


東雲が立ち上がりながら笑う。


「飯食って寝ます!」


「食い過ぎるなよ。」


「はいはい。」


相模も荷物をまとめる。


白瀬は帰り際、湊の横へ並んだ。


「認められたね。」


湊は首を横に振る。


「まだ入口だそうです。」


白瀬は少し笑う。


「黒峰先生が入口って言うなら、十分すごいよ。」


湊は少しだけ考えてから、小さく笑った。


「……だったら。」


「ドイツ戦で、中に入ります。」


白瀬はその言葉を聞いて、静かに頷く。


「うん。」


「そのために、ここまで来たんだから。」


二人は並んで演習室を出る。


廊下の窓から差し込む夕日が、長く影を伸ばしていた。


そして二日後。


日本代表を乗せた飛行機は、世界最強と呼ばれる国――ドイツと戦う。


空港や移動描写を省いて、現地の大会会場から始める方がテンポも良く、試合前の緊張感も出ます。


---


二日後。


日本代表は大会開催地へ到着していた。


巨大なアリーナ。


ガラス張りのエントランスには、各国の国旗が並び、大会のエンブレムが大きく掲げられている。


ロビーには世界中から集まった代表選手たちの姿があった。


英語、ドイツ語、フランス語。


様々な言葉が飛び交う中、日本代表も受付を済ませ、選手ラウンジへ向かう。


東雲は辺りを見回しながら、小さく口を開いた。


「……すげぇ」


その一言だけだった。


今まで映像でしか見たことのない世界。


各国代表が同じ場所で準備をしている。


その光景だけで、この大会が特別だと実感できた。


相模は静かに周囲を観察する。


「思った以上に空気が違うな」


「緊張してる?」


白瀬が聞く。


「少しだけ」


「でも嫌な感じじゃない」


白瀬も頷いた。


「私も」


その横で、湊だけは会話に加わらず、会場全体を見渡していた。


「すごいな」


その一言だった。


会場の奥が少しだけ騒がしくなる。


選手たちの視線が一斉に入口へ向いた。


日本代表も自然と足を止める。


ゆっくりと姿を現したのは、黒と赤を基調としたユニフォーム。


胸には鷲のエンブレム。


ドイツ代表だった。


先頭を歩く一人の青年。


金色の髪。


無駄のない歩幅。


静かな存在感。


レオン・ヴァイス。


湊とレオンの視線が、一瞬だけ交わる。


ほんの数秒。


それだけで、お互い何も言葉を交わさない。


だが、その場の空気だけが静かに張り詰めた。


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