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放課後と休日

放課後。


授業が終わると同時に、湊は演習室へ向かった。


扉を開けると、黒峰はすでに演習装置の前で腕を組んで待っていた。


「来たか」


「はい」


「今日は昨日の続きだ」


黒峰は装置を起動する。


青白い光が演習室を包み、市街地マップが展開された。


「昨日言ったな」


「読まれないように動け、そして相手を読め」


「今日はそれだけ考えろ」


湊は静かに頷き、ヘッドギアを装着する。


《SIMULATION START》


開始と同時に湊は動かなかった。


昨日ならすぐに遮蔽物へ飛び込み、逃走経路を組み立てていた。


だが今日は違う。


黒峰に読まれることを前提に考える。


だから最初の一歩を変える。


十秒。


二十秒。


三十秒。


湊はようやく歩き始めた。


遠回りに見えるルート。


普通なら選ばない道。


それでも黒峰は現れない。


(見られてる……)


姿はない。


それでも、どこかから見られている感覚だけは消えなかった。


湊はわざと足を止める。


すぐに動かず、周囲を確認する。


昨日なら焦って走り出していた場面だった。


その瞬間。


建物の陰から一発だけ銃声が響く。


弾丸は湊の肩をかすめ、壁へ突き刺さった。


(やっぱり)


黒峰は撃ち抜けた。


それでも撃たなかった。


湊が止まるかどうかを見ていた。


「……試されてる」


小さく呟き、再び走り出す。


だが五分後。


《PLAYER ELIMINATED》


結果は同じだった。


ヘッドギアを外した湊は悔しそうに頭を掻く。


「少しは変わったな」


黒峰は短く言った。


「でもまだ読みきれていない」


「はい」


「お前は答えを探している」


「だから遅れる」


黒峰は新しいデータを読み込む。


「もう一回」


「はい」


二戦目。


三戦目。


四戦目。


勝てない。


十分どころか、五分を越えられたのは一度だけだった。


それでも。


昨日よりは長く生き残れている。


黒峰も何も言わない。


ただ淡々とシミュレーションを繰り返す。


気づけば窓の外は赤く染まり始めていた。


夕日が演習室へ差し込む。


《SIMULATION END》


湊はヘッドギアを外し、大きく息を吐いた。


全身から汗が流れている。


頭も限界だった。


黒峰は時計を見る。


「……今日はここまでだ」


その一言で、湊は椅子へもたれ掛かった。


「お疲れさまでした……」


黒峰はタオルを放り投げる。


「受け取れ」


湊は慌てて受け取り、汗を拭く。


「昨日よりは良かった」


「本当ですか」


「ああ」


「少なくとも昨日みたいに、俺だけを追いかけることはなくなった」


湊は少しだけ笑う。


それだけでも前進だった。


黒峰は缶コーヒーを開けながら言う。


「だが、まだ読まれてる」


「はい」


「相手に考えさせろ」


「お前が考えて動く、そして相手を考えさせる」


その言葉を湊は静かに胸へ刻み込む。


黒峰は残っていたコーヒーを飲み干すと、空き缶をゴミ箱へ放った。


「今日は金曜だったな」


「はい」


「明日は休みにする」


湊は少し驚いた。


「え?」


「休みって……特訓もですか」


「特訓もだ」


黒峰は頷く。


「頭も筋肉と同じだ」


「使い続ければ鈍る」


「一度離れて、整理する時間も必要だ」


湊は意外そうな表情を浮かべる。


すると黒峰は笑った。


「俺が鬼だと思ってたか?」


「……少しだけ」


「正直でよろしい」


黒峰は肩を竦める。


「休めと言ったら休め」


「ただし」


その目が少しだけ鋭くなる。


「何も考えるなとは言わねぇ」


「街を歩いてもいい」


「映画を見てもいい」


「買い物でもいい」


「人を見ろ」


「人がどう動いて、何を選ぶのか」


「それを意識するだけでいい」


湊はゆっくりと頷いた。


「……はい」


「レオンも俺も」


「戦場だけ見て強くなったわけじゃねぇ」


「人間を見続けた結果だ」


演習室の照明が静かに落とされる。


黒峰は出口へ向かいながら片手を上げた。


「じゃあ月曜からまた地獄だ」


「覚悟しとけ」


「はい」


そう返事をしながらも、湊はどこかほっとしていた。


久しぶりに、何もない休日。


だがその休日さえ、黒峰にとっては特訓の続きなのだと、湊はもう理解していた。


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