表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
21/25

中央と接敵

 視界を埋めたのは、灰色の都市だった。

 

 《NEXUS CITY》。

 

 高層ビル群が空を覆い、崩れた高架が幾重にも交差している。ガラスの割れたオフィス街。風が吹くたび、どこかで鉄骨が低く軋み、都市そのものが眠りきれていない巨大な獣みたいな音を立てていた。

 

 ただのマップではない。

 

 射線、高低差、遮蔽、死角。その全てが計算され尽くした、都市型戦術マップ。

 

 

 長距離射線。

 個人火力。

 瞬間判断。

 

 真正面からぶつかれば、日本が削り負ける未来は簡単に想像できる。

 

「配置開始」

 

 白瀬の声が通信へ流れた瞬間、全員が迷いなく散開した。

 

 東雲と鷹宮が中央寄りの交差点へ展開し、相模は後衛支援ラインへ。白瀬自身は中距離ポジションから全体指揮を担当し、湊――《カムイ》は高層ビル中階層へ向かう。

 

 撃つためではない。

 

 見るためだ。

 

 戦場そのものを。

 

 崩れる前兆を。

 

 黒峰は何度も言っていた。

 

『お前は前線で暴れるタイプじゃねぇ』

 

『全部見える位置にいろ』

 

『強ぇ奴ほど、“見えてる奴”を嫌う』

 

 ビル内部を駆け上がりながら、湊は深く息を吐いた。

 

 心臓はうるさい。

 

 緊張もしている。

 

 それでも、頭だけは妙に静かだった。

 

 三週間。

 

 何度も死んだ。

 撃たれた。

 怒鳴られた。 

 その積み重ねが、少しだけ今の自分を支えている。

 

 高層階へ到達した湊は、崩れた窓際へ身を低くした。

 

 都市全体が見える。

 

 中央大通り。

 地下入口。

 西側高架。

 東商業区。

 高架連結路。

 

 全ルートを俯瞰できる位置だった。

 

 すると通信へ、相模の冷静な声が流れる。

 

『敵影確認。中央二、西一、地下方面一』

 

 一瞬。

 

 湊の思考が止まる。

 

 足りない。

 

 アメリカ代表は五人。

 

 VIPを含めて、一人見えない。

 

(……隠してる)

 

 そう考えた瞬間、脳裏へ違和感が広がった。

 

 中央二人。

 

 普通ならば中央にVIPを潜伏して進めるはず

 

 しかしあまりにも“見せる前提”の動きだ。

 

 地下ルート、西側は視線散らし。

 

 全部、理解しやすい。

 

 いや――理解しやすすぎる。

 

 アメリカ代表がこんな分かりやすい動きをする理由がない。

 

 特にアレスがいるチームなら、なおさらだ。

 

 あの男は、正面から殴り勝てる実力があるくせに、盤面まで異常に上手い。

 

 本当に嫌な選択を取る。

 

 その時だった。

 

 中央で銃声が鳴る。

 

 乾いた連射音。

 

 次いで爆発。

 

 通信へ鷹宮の声が飛び込む。

 

『中央接敵! 思ったより早ぇ!』

 

 早い。

 

 早すぎる。

 

 しかも圧が強い。

 

 最初から前へ出る気で来ている。

 

 普通なら、ここで意識を中央へ寄せる。

 

 実際、湊の視界でも中央が危険に見えた。

 

 だが。

 

(……違う)

 

 妙な引っ掛かりが消えない。

 

 中央へ目を向けろ。

 

 そう誘導されている気がする。

 

 湊は無意識にマップを見直した。

 

 中央。

 地下。

 西。

 

 敵が見えている場所。

 

 そして。

 

 誰も見ていない場所。

 

 視線が、自然と上へ向く。

 

 高架連結路。

 

 ビル上層を繋ぐ、空中通路。

 

 長い射線。

 

 危険すぎるルート。

 

 普通なら使わない。

 

 だが。

 

 もし使える人間がいるなら?

 

 撃ち負けない。

 

 高所を恐れない。

 

 人数不利でも崩せる。

 

 世界最強なら?

 

 その瞬間、脳裏で盤面が一気に繋がった。

 

 中央を押す。

 

 地下で散らす。

 

 日本側の視線を固定。

 

 そして。

 

 本命が高架から降ってくる。

 

 心臓が嫌な音を立てた。

 

「白瀬!」

 

 気づけば叫んでいた。

 

「上――高架連結路!!」

 

 一瞬の沈黙。

 

 直後だった。

 

 銃声。

 

 重い一発が、頭上から都市へ響く。

 

 次の瞬間。

 

 中央で動いていた東雲の足元へ、凄まじい速度で弾丸が突き刺さる。

 

 回避が、ほんのコンマ数秒遅れていたら終わっていた。

 

『っ――!?』

 

 東雲が即座に遮蔽へ飛ぶ。

 

 そして。

 

 高架連結路の影から、一人の男が姿を現した。

 

 黒い装備。

 

 無駄のない歩き方。

 

 そして。

 

 獲物を見つけた猛獣みたいな目。

 

 アレスだった。

 

 ただ姿を現しただけなのに、空気が変わる。

 

 戦場の圧が、一段階重くなる。

 

 そして何より嫌だったのは。

 

 アレスが真っ先に中央ではなく――

 

 こちらを見たことだった。

 

 高層ビル中階層。

 

 湊の位置。

 

 まるで最初から気づいていたみたいに、正確に視線が合う。

 

 数百メートル離れているはずなのに。

 

 心臓が止まりそうになる。

 

(……なんで)

 

 なんで分かった。

 

 その瞬間。

 

 アレスの口元が、ほんの少しだけ歪んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ