番外編2・飛んでいった先で
――無性に、腹が立つ。
空を飛びながら、邪竜はほかでもない、自分自身に苛立ちを感じていた。
強い呪いを食った後は、何かを破壊したくなる。新しい力に酔いしれるまま、あたりいちめん消し炭に変えてやってもよかったはずだ。
だが、彼はなぜかそうする気分になれなかった。
おそらく、あの竜のつがいと出会ったときの記憶が邪魔していた。
(あのとき、卵のもとに駆け寄った子ども……あれが、俺に歯向かってきた黒いドラゴンの女か……)
暴れたいときに暴れ、殺したいときに殺したい相手を殺す。それで彼は完全でいられた。
基本的には、彼に迷う瞬間などほとんどない。だが、あのつがいから盗まれた卵を見つけたとき、たしかに邪竜は迷った。破壊するのはたやすい。だが、そうはしなかった。
それが今なっては記憶から消したいほどの思い出となってしまったのは、あのつがいのせいだ。毒に侵され、死にゆく彼らの嘆きや絶望を浴びた瞬間、邪竜の魂にはなんの昂揚もなかった——あの夫婦はあろうことか、助けを求めたのだから。
今まで生あるすべてを憎む呪いだけを食らってきた彼に向かって。
そこまで考えて、彼は、自分があのつがいから食らった負の感情に、初めて濁りがあったことに気がついた。
それは——、一抹の希望だったのだ。
わが子を助けてくれる存在を求める、儚い、希望。
(……なんてくだらんものを受け取ってしまったんだ)
その雑念は、彼の魂に不純物を持ち込んだ。
だから、あのときは柄にもなく迷ったりなどしたのだ。
(さっき、存分に暴れられなかったのも……あいつらのせいだ)
悪魔たちの魂を食らって、自身の力を高めた邪竜は、強烈に何かを壊したい欲求に駆られた。
そして、目に映るあの人間と古代種たち、神の使いをもろとも消し去ろうとした。
あの瞬間、あのつがいの娘が飛び出さなければ……。
最初に見たときは、彼女がそうだとはわからなかった。呪いの翼の足跡を追い、滅んだ村を調べていたとき、突然現れた彼女に襲われた。
最初は面白い獲物だと思っていた。それだけだ。
だが、あのとき自分の攻撃を彼女が受けにいったとき、確信してしまった。
自分の身を楯に、愚かにも仲間を救おうとした。
その決断に至るまでの、悲しく絶望的な感情の甘美さを認めながらも、同時に彼はそこに見つけてしまった。
自分の命を代償に、仲間が生存する可能性を信じた、彼女なりの希望のかたちを。
瞬間、彼はあのつがいのことを思い出した。
間違いなく、彼女はあのドラゴンたちの娘だ。
(命……希望……未来……どれも、くだらん。最悪の響きだ)
そう思った瞬間、まともに相手にするのもばかばかしくなった。
そんなおめでたいものに頭を支配された連中は、ときとして絶望を忘れる。
最期まで浮かれた勘違いをしたやつは、怨念が残らない。呪いを、生まない。
それは、彼にとって何も楽しくないことだった。
「あの~、飛んでいるところすみません」
思考に集中していた邪竜は、すぐ横からかかった声に不意を突かれた。
反射的に咆哮を轟かせると、その大気を震わせる圧倒的な風圧に呑まれ、ユニサスがきらきらと光りながら吹き飛ばされていった。
一瞬にして地に堕ちた妙な生物に、邪竜は少しのあいだ停止したが、やがて何事もなかったと己に言い聞かせて飛行を再開した。
「も~~!! 挨拶くらいさせてよ~!」
その後ろから、しゃららら~ん、と耳障りな音を立てながらユニサスがバタバタと騒がしく飛んでくる。
忌まわしい神の力を持つ獣を前に、邪竜はひときわ凶悪な睨みをきかせる。
「何の用だ、神の使いの畜生ごときが。まさか俺を祓うつもりなどとは抜かすなよ」
邪竜がひと噛みすれば、砕けそうな脆い見た目。きらびやかな佇まい。無駄に光る毛。どれをとっても気に食わない。
だが、神の使いなど食らっては絶対に身体に悪影響だ。
ようするに、彼は邪竜にとって天敵でしかなかった。
「えっと~、おたくがばらまいてる呪い、おれが浄化してるんだけど……かまわないよね?」
ユニサスは遠慮がちに切り出した。
邪竜はそう言われて、初めて己の飛んだ軌跡に呪いが振りまかれていたこと、それを目の前の神獣が浄化していたことを知る。
大量の悪魔の魂は、強力ゆえに身体に馴染むまで時間がかかっていた。
邪竜は己への苛立ちを募らせ、ますます凶悪な表情を浮かべた。
身体が重くてあまり速度が出ない。ユニサスのような遥かに小柄なサイズでも、今の邪竜と並走するのはたやすいことだった。
彼は極めて不愉快なやつだが——、同時にその力は、使える、と邪竜は思った。
「俺の呪いを浄化して回りたいんだろう? ならばついて来い。俺の縄張りもあの悪魔どもの呪いに侵された。今も呪いは土地に残っている。それを浄化しろ」
「ほいほーい、了解~! なんだ~、見た目のわりに話が通じるじゃないの!」
ひらひらと翼の先を振って、ユニサスは朗らかな笑顔を浮かべた。
その笑顔も一瞬にして掻き消える。
邪竜は突然、ぐわっ――と漆黒の顎をひらき、ユニサスを頭から捉えた。
「ぎょえええええ~~~!! たたた食べないでぇ~~~!!」
「貴様のような畜生など食うか。こうしないと連れて帰れん」
邪竜は両顎でユニサスを咥え、牙を食い込ませないように力を抜いてしゃべった。
邪竜の牙の隙間から、辛うじて首だけ出してユニサスは「やだ~~! 人から見たら絶対おれ捕食されてる最中じゃ~~ん!」と悲鳴をあげる。
やかましいやつだ、と思いながら邪竜は高度を上げた。
その空高く舞い上がった翼は、燦々と輝く太陽——の方角ではなく、青い空にうっすらと浮かび上がる月の輪郭を追いかけた。
指定された空の位置は、だいたいこのへんだろう。
邪竜の巨大な魔力を感知したか、空中に月を象った巨大な魔法陣が展開され、光を放つとともに彼の全身を包んだ。
一瞬にして光は立ち消え、そこには微かな粒子以外何も残らなかった。
「転移が終わった。もう自力で飛ぶんだな」
「は、はえ……」
そう言って、邪竜は口をひらいた。力ない足取りで脱出したユニサスの虹色の体毛は唾液にまみれ、ぬらぬらと光っている。
そこで、彼は自分が見慣れない土地を飛んでいることに気がついた。
四方に豊かな緑が広がっている。そう遠くないところに穏やかな丘陵がいくつか広がっていて、街らしき建造物が集まっている形跡があった。
しかし、平和な緑地には巨大な何かが這ったような黒い跡がラインのように引かれている。
それは街まで続いているようだった。
ユニサスが空から光を落とすと、呪いの黒い痕跡は掻き消え、自然が復活していく。
それを見て、人が集まってくるようだった。
獣の耳が生えていたり、翼があったり、鱗があったり、肌が青黒かったり。多種多様な外見をした人々は、呪いが消えた光景を見て喜び、——さらに飛んでくるユニサスや邪竜を歓迎するように手を振った。
邪竜にも、である。
彼らの頭上を通り過ぎて、街まで向かいながら、ユニサスは不思議な光景にきょとんとした顔を見せる。
「さっきの……ポータルだよね? 神様クラスしか使えないはずだけど……」
「俺の力ではない。他人が構築した術式を利用しただけだ」
邪竜はすました顔で飛びながらともに街を目指しているようだった。
街のそばに、高い城がそびえている。相当古い造りのようだが、神代の頃に生まれたユニサスの目には十分新しい。おそらく神の時代の後に建造されたものだろう。
「あそこに降りる」
邪竜の視線は、城のバルコニーを目指していた。
広々とした空間だが、邪竜の身体が着地するには少々窮屈そうだ。
だが、邪竜は迷わずそこへ飛んでいく。
ユニサスがその長い尻尾を追うと、彼が城の周りに近づいた瞬間、またも光が弾けたようだった。月の光が瞬くような、淡い光だ。
白い石造りのバルコニーに着地した彼を見て、ユニサスは驚きのあまり城壁に激突しかけた。
なぜなら、邪竜の巨大な身体は一瞬にして、ユニサスよりも小柄な、大きな狼ぐらいのサイズに収まっていた。
「え、え、え、え、ええ、」
「………ふん。見られるのは癪だが、仕方あるまい……」
ずるり、と脱力して落ちてくるユニサスに、小さくなった邪竜は不機嫌そうに言った。
「俺の魔力が強すぎて、周りに悪影響だからと縄張りではこの身体にされるんだ。あまりじろじろと見るな。見世物じゃない」
あの大蛇のように長かった首も縮んで、長いたてがみが毛並みのように床に落ちている。
想定外すぎる事態にユニサスが馬面をぽかんとさせていると、そこに澄んだ少女の声が響いた。
「おかえり。連れがいるようだね」
ぺったん、ぺったん、と長い水かきのついた足音が声に重なる。
ユニサスがそちらを振り返ると、巨大なイボガエル——きっちり三つ揃えのスーツを着ている——が、ひとりの少女に日傘を差して、飛びながらやってきた。
その礼装をしたカエルだけでも驚きだったが、日傘の下にいる少女の美貌は、さらに驚きだった——人間にして齢は十三、四ほどの幼さで、高いところでリボン結びにした髪は灰色みを帯びた銀髪。ともすれば老人のようだったが、不思議と病弱さや不健康そうな印象はない。
頬に薄い紅の浮かんだ、柔らかな幼さを残した美貌。そしてその光を感じさせない髪色が、却って彼女を掴みどころなくさせていた。
「その姿……ユニコーンに、ペガサスの血を引いているね? やあ、久しぶりに見たよ。向こうで同窓会でもやっていたのかい? アッシュ」
「やつが振りまいていった呪いを浄化させるのにちょうどいいと思って連れてきただけだ」
少女の穏やかな声にも、邪竜は不機嫌そうな態度を崩さない。
自分の姿を見て懐かしそうに赤い瞳を細めた少女を見て、ユニサスもまた思い至る。
「おれの両親を知ってて、こんな古いお城に済んでるってことは……きみはもしやヴァンパイア?」
少女はにっこりと微笑んだ。
「正解。加えて言うと、そこにいる竜の友達だよ」
「くだらん、俺に友などいない。不愉快な冗談はよせ、ヴラド」
「冷たいなあ。それに今は〝ヴラディレーナ〟だよ」
「俺と出会ったときは〝ヴラド〟と名乗ってたくせにか」
邪竜は呆れたように舌打ちした。
イボガエルの差してくれる日傘の下、にこにこと笑みを崩さない少女ことヴラディレーナ。
ユニサスにはわけがわからないが、とにかく邪竜とて完全に無頼ではなく、友達だと名乗ってくれるほどの存在がいるということ、その存在は吸血鬼だということがわかった。
「とにかく、このあたりの呪いを解いてくれてありがとう、ハンサムな白馬くん。お礼と言ってはなんだが、わが城にしばらく逗留してくれたまえ。行くあてがあるのなら余計なお世話だったかもだけれど」
「とんでもない! このひと、まだ力を制御できてないみたいで、俺が離れると心配なんです。むしろ居させてくれてありがたいです!」
「貴様……俺を侮っているのか?」
グルル、と牙の隙間から狂暴な声が漏れる。
だが、ちょっとした大型犬ぐらいのサイズで睨まれても、ユニサスは痛くもかゆくもない。
「力が制御できてない? ……ということは、良い狩りができたんだね。上手い具合に、相性のいいお友達もできたみだいたし」
「だから、気色の悪いことを言うな! ――こんな力、すぐに物にしてやる」
「でも、必要だからおれのこと連れてきたんでしょ~?」
うりうり、と右の蹄を押しつける。
怒った邪竜は、バウ!バウ!と盛んに吠え立てだが、ユニサスとヴラディレーナの朗らかな笑い声を誘うだけだった。
「あっ! お城に招待されたんなら、四足じゃまずいよね! そーれっ」
掛け声とともに、ユニサスの身体が白い光に包まれる。
一瞬にして、翼ある白馬は、金髪の青年に早変わりした。ピンクのネッカチーフに虹色の刺繍がされたベスト。水色の拍車付きブーツの踵をかちんと鳴らし、「ばーん☆」と両手の人差し指を突き出し、格好つけるユニサス。
どっちにせよばかばかしい出で立ちだと、邪竜は鼻で笑った。
「そういえば、さっき……この人のこと〝アッシュ〟って呼んでましたか?」
人間の姿で城の客間に通され、温かいお茶を出されたユニサスは、視線を横に走らせた。
長椅子の上で大きなクッションに寝そべり、退屈そうに長い脚を放り出した、人間体の邪竜がそこにいた。
同じくお茶を飲んでいた、対面のヴラディレーナが「ああ、まあ、僕が勝手に呼んでいるんだけど」と鷹揚にうなずく。
「ほら、世間に知れ渡っているニーズヘッグというのは、いわば種族名だろう? まだ世界じゅうで彼しか存在しないけれど……。友達を、人間、とか、ウェアウルフ、とか、イボガエル、とか呼ぶのは気が引けるだろう?」
彼女に日傘を差していたイボガエルは、今はお茶やお菓子の給仕に回っている。
水分を孕んでしっとりした手で茶器を濡らさないよう、乾いた布巾で自分の手を拭ってから仕事に入る入念具合だ。
「しかし……きみもユニサスと言ったね。名前はないのかい?」
「あ……それが、俺が生まれたとき、神様たちが所有権を巡って軽く喧嘩になっちゃって……そのときは〝特定の誰かのものではなく、みんなの使い〟ということで収まったから、名づけのタイミングも宙に浮いちゃって……それで、特に必要がなかったから名前はないんです」
「ふむ……そうか」
ユニサスは自分の過去を思い出し、少し憂鬱な気持ちになったが、それを察したようにヴラディレーナは微かに痛ましそうに眉を寄せた。
「じゃあ、便宜上の名前でいいから、きみの呼び名を考えてもいいかな?」
「ええっ、いいの!? うわあ、こんな素敵なことってないよ!」
ユニサスは思わず両手を組み、喜びの声をあげる。
その瞬間、微かに彼の脳裏にあるエルフの少女の顔が浮かんだ。
自分に名前をくれるならば、彼女こそふさわしいのではないか。そう一瞬考えたが、目の前のべつの少女の好意も断れない。
(ごめんよ……リンネちゃん。おれの大願なんだ……)
「ふうむ……虹色がきれいだからね。とりあえず、〝シエル〟と呼ばせてくれないか?」
シエル。その素敵な響きに、ユニサスはにっこりと頬を緩めた。
「ありがとう! おれがそんな美しい名前で呼ばれるなんて……夢みたいだなあ!」
「ふふ、どういたしまして。よろしく、シエル」
「ふん……お前の悪い趣味がまた出たな」
壁のほうに顔をやりながら、邪竜ことアッシュがため息するように毒づいた。
「…………それもだけど、訊いていいですか? ここであの黒い翼が暴れてたみたいだけど、どういういきさつで……?」
シエルはそろそろ本題に入ろうと決意した。
ヴラディレーナは「ああ」、と幼い顔をにわかに引き締め、静かに語り出す。
「あの黒い翼は、どうやらポータルを使って転移させられたみたいでね。急にこのあたりで発現したんだ。僕が自分でポータルを発動し、あいつを追い払ったけれど、そこのアッシュが一緒に転移してしまってね。自分から飛び込んだんだよ」
「俺の土地で好き勝手に暴れたツケを払ってもらおうと思っただけだ」
「ひええ……軽く言ってるけど、ポータルの発動なんて神様にだけ許された御業だよ……この時代ではわりと当たり前になってるのかな?」
「ま、僕は少し事情があってね」
と言っていたずらっぽく笑い、お茶を飲む少女。
「呪いの元となった連中は、しばらくべつの次元を漂っていたらしいが、そのときはまだ辛うじて生きていたようだ」
クッションからゆっくりと上体を起こし、足を開いて座り直したアッシュはそう言った。
「つまり……次元に干渉し、彼らの命を奪った者がいると?」
「ああ、あれほど強力な呪いにまで昇華させてな」
「なんといたましいことか」
ヴラディレーナもそう答える。彼女の表情はけして明るいものではなかった。彼女の治めている土地にまで被害が出ている以上、致し方ない。
「奇妙なことだね。今、魔境でもある死霊術士が幅を利かせているそうだ。……ただの偶然じゃあ、ないだろうね」
「フン、知れたこと」
アッシュは横柄な口調で吐き捨て、宙を睨む。
「ただの死霊術士じゃない。多分、外法の手段に手をつけたね」
「死を弄ぶ術なんぞ、すべて外法だ」
ふたりの会話に口を挟む余地もなく、おろおろとシエルは視線をさまよわせる。
呪いだの、魔境だの、死霊術士だの、さっきから出てくる単語がすべて物騒だ。
「外法の相手が務まるのは、外法のみ。俺がそいつを殺す」
「勇ましい友人がいて、心強いよ。だが、まだ情報不足だ。呪いで死者も出たから、しばらく僕が不在となるとみんなも不安がる。趨勢は、見極めないとね」
「君主などなるものではないな。……べつに、この俺がひとりで魔境に乗り込んで、魔王城までの道を拓いてやってもいいぞ」
「きみひとりで行かせるものか」
ヴラディレーナが空になったティーカップを下ろすと、イボガエルがまた温かい湯気を立てるポットを持って近づいた。
だが、主はその動きをてのひらで制する。
「新時代の〝魔王〟たるもの、優雅に玉座へ凱旋しなくてはね」
その言葉を聞いて、シエルはついに口をひらいた。
「あ、あの~………さっきから、何をお話してるのかな……?」
緊張で喉の乾いたシエルは、残っていたお茶を一気に飲み干した。
イボガエルが近づいてきて、新しいお茶でカップを満たす。
その言葉に、「ああ」、とヴラディレーナはこともなげにうなずくと、
「僕が——次の魔王の座に就こうと思ってね。そのうち魔境に宣戦布告するつもりだよ」
震える手でカップを口元へ運ぼうとしたシエルだったが、その一言で震えが頂点に達し、お茶が滝となって彼の膝の上に流れ落ちた。
「あづゥ——いっ!!!」
「おや、大丈夫かい。今拭くものを持ってこさせるよ」
「ふん……何をふざけているのか、こいつは」
イボガエルが手に持っていた布巾でシエルの膝を拭き始める。その布はすでにちょっと湿っていた。
両生類の無感情な顔つきを目の前に、かたかたと歯の奥を震わせながら、シエルの頭はやがて受け入れがたい答えへと至った——。
(おれ……ひょっとしてとんでもない勢力に加担しちゃった??)
気安く名前までもらってしまって、城の食客として招かれて——。
神々の伝令を務めていたシエルは、権力者から好意を受けることの重大さを今になって初めて実感した。
(どうしよう、おれ、天罰食らっちゃうかも……)
今は不在の神々を思い——世界で唯一の神獣は心から天を仰ぎたい気分で、重たい嘆息をこぼした。




