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吟遊のリンネ ~魔力ゼロのエルフ少女は、世界を語り直す~  作者: 七日
竜たちと死の呪い編

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黒き竜

「警備との連絡がとれない?」


 ランチミーティングの最中、部下からよこされた報告にリオナは眉をひそめる。

 ヴァイスレッドの帝都、ウラガンナの中心に鎮座する皇宮は、帝国を治めるエルガザ三世の居城にして国家最大の軍事要塞であった。その宮中にある騎士用食堂は、ホールだけでも広大で、

これは有事に市民を数百人は避難させるための方策であり、魔王軍と戦争していた頃の名残でもあった。

 食堂は常に栄養補給を求める騎士たちの姿でごった返している。

 しかし、陽射し差し込むテラス側のエリアだけはリオナを中心に女性騎士が集中していた。ここは飛竜騎士団の領分だ。飛竜は巨大な体格ではない。飛行しながら戦うという特性上、小柄な女性が適しているとされ、団員には女性が多い。(今では身長と体重制限をクリアすれば男性でも入団できるよう計らいがされているが、それでも昔からの慣習で女性が多数を占めている。)

 リオナがスプーンを止めると、対面で書類を手にしゃべっていた黒髪の女性がさらに文書を読み上げる。


「ええ、明らかにここ数日、ロイテールとアザレアの国境付近で通信が途絶えている地域があるの。偵察に行かせた兵とも連絡がとれなくなってる。このまま機能停止されると、西の前線にも影響が出るのは必須。現地で有志を募って探査に乗り出すそうだけど、いざというときのために私たちが出張ることになったのよ」


 黒い髪を後ろで束ね、無機質な印象の眼鏡をかけた女は、スティレッツァこと通称ステラ。ステラ=ザガーデン。副団長であり、リオナの右腕にあたる女性だった。


「まあ、ロイテールと帝国は懇意ですからね……ほっとくわけにはいかないんでしょう。おかげで私たちはずっと現場に出ずっぱりですが……」


 リオナは簡単に音を上げるような騎士ではなかったが、激務が祟ってさすがに疲弊気味だ。

 食事の時間すら切り詰められ、同時にミーティングをさせられているのだ。これぐらい言っても文句は出まい。

 実は彼女たちがテラス側で食事をとっているのも、いざとなれば指笛で愛竜を呼び、テラスから飛び降りて騎乗するためだ。

 彼女たちの最大の武器は、機動力といっても過言ではない。そのため連合の領地のあちこちで起きる緊急事態に毎日対処している。

 団長の愚痴を聞いて、ステラもまたため息をつく。


「仕方ないじゃない。十年前、わざわざ〝勇者様〟たちがポータルを閉鎖しなかったおかげで、モルゲニア側からはこちらにアクセスし放題なんだから。普通、ポータルっていうのは入口と出口を同時に表す概念なのよ。なのに魔王軍の作ったポータルときたら、こちら側からの侵入不可、逆探知不可の超理不尽な設計……これで人類が負けなかったのが奇跡よ、ほんとにもう」


 騎士団の中でも魔術師の資格を持ち、後方で魔術による支援や魔力の解析を行う担当のステラは、元魔王軍の技術力がいかに人類を凌駕しているか身に沁みて理解している。

 ポータルを起動するには大量の魔力が必要なことと、現在モルゲニア側では魔王位争奪の激しい戦いが起きているため、起動する権利を巡っても大変な争いとなる。ポータルの発現頻度自体は前時代より少なくなっているが、場所が予想できないことが何より今の人類を苦境に立たせていた。

 先日も、ロイテールの都市頭上でポータルが出現したと報告を受けて以来、近隣では緊張が続いている。


「まったく、勇者様も無責任なものよね」


「ちょっとステラ……失礼ですよ。あの方は歴史上、類を見ないほど世界に貢献された方なんですから」


 文句をこぼすステラをリオナはたしなめる。

 その相変わらずの勇者びいきを目の前にして、ステラはまたもため息をつきながら、眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げた。


「成し遂げたことは偉大でも、これだけ事態が裏目に出続けていたら文句のひとつも言いたくなるでしょう。実際、ポータルを破壊せず放置したことで、私たちが苦労してる」


「ですが、それは結果の一部であって……」


「大体、勇者が魔王を討ったことでよくなったことって、あるの?」


「それは……!」


「団長……周りに聞こえますよ。その……あんまり勇者をかばうと、ろくなことが……」


 さらにほかの団員が耳打ちしてくる。

 リオナはそれでも不服そうに眉をひそめながら、皿の上に乗ったソーセージにぶすりとフォークの先端を刺した。


「私の兄や姉たちは、全員帝国の騎士でしたが、魔王との戦争で全員亡くなりました。幼い私は……きっと私も、彼らのようになると思っていました。人類は、魔王に負ける……それは、最初から決まっていたことなんだと思っていました。兄や姉だけじゃない、祖父も曾祖父も……そのまたさらに先祖も、私の家は戦没者を出しています」


 反対の手で握ったナイフで、ソーセージを切り分けていく。


「でも……十年前、勇者殿が魔王を討ったときいて、私は……自分が死ぬ必要なんてないのかもしれない、と思えたんです。生きてても、いいんだって。人間が魔王に勝った。力で打ち勝った。それだけの事実が、あの頃の私を救ってくれたんです。だから私は、今でも勇者殿に感謝しています」


 騎士でありながらも、武家の令嬢として教育を受けた彼女のテーブルマナーは完璧だ。

 その優雅な手つきと、彼女の語る言葉に、ステラを含めた団員たちは押し黙る。


「みんなも、そうなんじゃないですか? あの方と一緒に幾度も戦場を翔けてきたでしょう? あの方がいれば絶対に負けないと、たしかに確信してきたんじゃないですか?」


 そう言って彼女は部下たちの顔を見る。

 しかし、息を呑んだ部下たちの中で、唯一ステラだけが口をひらく。


「………そうね。たしかに勇者様は、お強い。おそらく、人類でも最高峰……でも、それだけじゃ世界は変えられなかった。そういうこと」


「っだから、まだ物事は途中なんですよ! 実際、勇者殿はあれから絶え間なく魔物と戦ってるじゃないですか! これから戦況だって変わっていくはず……!」


「あなたねぇ」


 なおも反論してくるリオナに、ステラは再々度呆れたように息をつくと、


「私たちの前じゃさんざん勇者様を持ち上げるけど、本人の前じゃからきしじゃない。あの人と仕事の話以外したことある? いくら一方的に慕ってたって、伝わらなきゃ意味が……」


「な、ななな、ななな、なんですッ!? 急になんの話ですかッ!! 私が何回もデートに誘おうとして失敗しているというのはふたりだけの秘密だって言ったじゃないですか!!」


 ステラに核心を突かれた瞬間、顔を真っ赤に染めて言い返すリオナの言葉に、一気に周囲に沈痛な空気が広がった。


「あっ、何ですかこの空気……! 私が討ち死にしたみたいな反応やめてくださいよ!!」


「みたいな、じゃなくて、そういう反応よ……」


 幼馴染の恥ずかしい一連の言動に耐え切れず、ステラは目を閉じ、首を振った。











 次に辿り着いた村は異様な雰囲気で張りつめていた。武装した兵士が村を取り仕切り、クロトたちが旅人と見るとすぐ声をかけてきた。


「この付近で黒い竜が目撃された。急ぎ討伐隊を募集している。貴様ら、腕に覚えはあるか?」


「っ……!!?」


 兵士の第一声に、アンジュはあきらかに動揺した。

 無論、クロトたちもだ。


「ドラゴンが? この村まで歩いてきたが、そんなのはどこにも見かけなかったな。単に巨大な魔物をドラゴンと取り違えたとかじゃないのか」


 だが、クロトは平静を装い、質問の体をした探りを入れる。

 その言葉に、男はふんと不機嫌そうに鼻を鳴らして答えた。


「馬鹿を言うな。たしかに姿を見たという者が多数存在する。黒い鱗に有翼の巨大な爬虫類似の魔物ときたら、ブラックドラゴン以外に思いつかんだろう」


「魔物なんかじゃ……!」


 男の言葉にアンジュが反論しかけた。とっさに前に出かけた身体を、隣にいたセロニアスが制する。

 アンジュは迂闊な発言をしたと悔やんだか、沈鬱な面持ちで口をつぐむ。


「で、被害状況は?」


「ロイテールとアザレアの国境沿い。それぞれ小さい村だが複数個所、全滅させられている。植物は枯らされ、川は干上がり、家畜と人間は腐敗して死んでいたそうだ。流行り病かとも疑われているが、検疫の結果はシロだ。ドラゴンの使う呪術か何かだろう」


「……惨事だな」


 クロトはしばしのあいだ熟考した。


(どう考えても、ドラゴンのやり口じゃないだろうが……)


 とはいえ、今ここで男の無知さ加減を説いても仕方ない。めったに人里に姿を現さないドラゴンは、恐れられるあまり変な風聞を流布されがちだ。

 アンジュは、信用に足る存在かどうかまだ決定打に欠ける。

 だが、クロトはドラゴンが挟持を持つ種族だと知っている。誓いの制約もあって、自分から人間に手を出す真似はしない。その誓いを最近破る者もいるという話だが、アンジュが理由もなくそうする側のドラゴンだとも思えなかった。


「……わかった。言っておくが、俺は連合の魔術師じゃない。異端だとわかっていて取り入れるリスクを承知のうえなら、討伐に加わろう」


「し、師匠……!」


 クロトの返事に、リンネが彼のマントを引っ張った。

 その後ろでは、うつむいたアンジュが唇を嚙みしめて震えているからだ。


「異端の魔術師か……まあ、即席の討伐隊なんて、目をつむっていれば少々まっとうじゃないやつもいることだろう。公式な恩賞が目当てとかじゃないなら安心して加わってくれ。そんな変わり者いるかわからんが……」


「セロニアスも、いいな?」


「……マスターの判断に従おう」


「おお、それじゃ宿屋で名簿を書いて集まってくれ。偽名でもかまわん」


 ぞんざいにそう言って男は立ち去った。

 クロトはセロニアスに目配せした後、リンネと、アンジュの顔を見た。


「……なぜそんなに怯えている? お前が本当の姿を現しでもしない限り、やつらはお前がドラゴンだと見当をつけることもできないだろう。討伐隊に加われば、調査もできる。お前と事件が無関係だということも、証明できるかもしれない」


「それは……そうですが……」


「何かほかに気にすることが?」


 アンジュはためらいがちな沈黙を放った。

 クロトが追及の視線を送ると、罪悪感を刺激されたかのように堪らず首を振る。

 

「なんでも、ありません……」


 リンネは、心配そうに小さく震えるアンジュの手をとった。

 アンジュは驚いたように彼女を見ると、次第に困ったような表情で微笑んだ。


「……大丈夫ですよ。私は何もしておりません」


「うん、大丈夫だよ。そんなの疑ってない!」


 リンネはそう言って、ぶんぶんとアンジュの片手を縄跳びのように振り回した。

 クロトたちは言われた通りに宿屋で名簿を書き、討伐隊に合流した。

 地元の警備兵と、クロトたちを合わせた流れの者を合わせて三十数名ばかり。クロト以外、ドラゴンを見たことある者はひとりとして居なかった。

 唯一、近隣で黒い竜が飛んでいるのを目撃したという村民を案内人に立て、討伐隊は出発する。


「なんか、ヘンな感じだよ……森の動物がいない。木も何か怖がってるみたいな……不安そうな揺れ方してる」


「おいおい、ガキがいるじゃねーか。子連れでドラゴン退治とかどんな子守だよ」


 自然の中を探査しているうちに、不安そうにこぼしたリンネの姿を誰かが見とがめる。

 クロトは発言者の顔を冷たく睨みながら、杖を振って自分の威を示した。


「危険なドラゴンがうろついてる土地に子どもを置いていけるか。俺のそばにいた方が却って安全なんだ。事情を知らないやつが口を挟むな」


「あンだとぉ!」


「おいお前ら、内輪もめするな!」


 最初に声をかけてきた男が一喝すると、その場は静かになった。

 やがて、歩き続けたところ、見知らぬ村の名前が書かれた看板があった。


「こ、ここでございやす……! あたしが今朝がたドラゴンを見かけたのはこの付近で……!」


 恐れと心配の入り混じった声で小太りの村民が呼びかける。

 兵隊たちは周りを調査するように討伐隊に命じた。それぞれが散らばる中、リンネが突然鼻を両手で覆った。


「し、ししょう………この村、ヘンな臭いがする……っ!」


 苦痛と涙まじりの濁った声で、リンネがクロトに縋るように言う。

 その言葉を聞いて、クロトのみならず、居合わせた討伐隊のメンバーは全身を緊張させた。

 村に向かって走っていく者が現れた。先を争うように村まで駆け抜ける彼らの姿に、クロトたちも加わる。

 だが、クロトは先頭の人間に向かって叫んだ。


「先走るな! あたりを警戒しろ——!」


 相手は報酬目当てで討伐に加わったような人間だ。クロトが慎重さを呼びかけたところで、獲物を先取りされてはならないと、結局身内で競争が生まれてくる。


「なんだ……こりゃあ……!」


 村に辿り着いた者たちから続々と動揺の声が上がる。

 クロトは彼らの肩を押しのけて、村の全景を見ようともがくように前に出た。

 周囲には腐臭が漂っていた。脂肪とたんぱく質の腐敗する、独特のもったりとした悪臭が村一面に漂っている。

 その悪臭の源は、村のあちこちに転がっていた。うじがたかり、手足や目玉が真っ白に変わった死体が、死ぬ直前までいたであろう場所に転がっている。

 彼らに抵抗した様子はなかった。

 まるでふっと風が吹いて、突然命が奪われたかのように皆死んでいる。

 その異様さを目の当たりにしながら、討伐隊は村の中へと進んでいく。


「おい……! 誰か、いる……!」


 そう声をあげた者は、とても生きている者を見つけたときの声音ではなかった。

 村の外れに広がっている農場の放牧地に、死んで腐敗した牛馬が転がっている。

 前に出たクロトは、そのうちひとつの死体に、黒い影がたかっているのかと思った。

 それが、全身黒ずくめの、人の形をした何かであると、一瞬遅れて気がつく。

 ゆらり、ゆらり、と長い髪を揺らして、〝それ〟は死骸にむしゃぶりついていた。


「――全員下がれ!!」


 牛の死体を一心不乱にむさぼる何かの姿に、無性に嫌な予感を覚えたクロトは杖を振り上げた。

 だがその声に討伐隊のメンバーが従うよりも早く、それが顔をあげた。

 獣の腐肉をむさぼり、血を啜っていた魔性の存在は、だらりと長い舌をのたくらせると、長い髪を振って立ち上がった。

 長身痩躯にして、青みを帯びた黒い髪が腰に届くほど長い。

 頭部には緩やかに湾曲した禍々しい角が生えていた。

 それは、どう見ても魔族だった。


「討ち取ったァ——!!」


 こちらに正面を向けた魔族に、不意を突くように横合いから飛び出した討伐兵が刃を振り下ろす。

 それがおぞましい体液にまみれた口元を赤い舌で舐め回したのは、一瞬のことだった。

 それは青白い右腕を振り上げると、その腕の形状は数多の蛇が束になったものに変化した。蛇の群れは振り下ろされた刃を絡めとり、刀身を這って討伐隊の男のもとへと押し寄せた。


「ぎゃあああああ———ッ!!」


 恐怖と苦痛に溺れるような声が森の梢を揺らした。

 魔族が放った蛇の群れは男を覆いつくし、その血肉をむさぼって生きながら苦痛を与える。

 クロトの杖から迸った炎が、一本の矢のように魔族を目指す。

 長身痩躯を翻し、魔族は家畜小屋の屋根まで跳躍した。

 炎は直撃した蛇の海を焼き尽くした。しかし襲われた男は、全身の肉を食いちぎられた姿で絶命している。


「慌てることはないさ——低能な人間ども。俺と出会った時点で、お前たちの死は確定している——」


 長い髪の下の顔は、一見女のように整っていたが、放たれた低い声はまぎれもなく男のそれだった。

 蛇を生んだ右腕はもう元の形を取り戻している。


「だから、そう、抵抗しても無駄だと言ってやってもいいが、俺を多少でも楽しませる自信がある者は、かかってきて、いいぞ——ほら、来い、来い、来い、来い、来い——俺を、楽しませろ!!」


 次第に男は狂気を孕んだ声で地上にいる人間たちを呼びかけた。

 クロトはそんな安い挑発に乗らない。

 だが、弓や槍を構えた討伐隊たちは、さきほどの男の異様な攻撃を見て萎縮している。

 その臆した気配を見て、魔族の男はさらに哄笑した。


「ハハ……アッハハハ! いいぞ! 可愛いいくじなしどもめ!! 嬲り殺しがいがある!!!」


「――それ以上吠えるな!! 〝なりそこない〟め!!」


 出方を伺っていたクロトは、その割れるような叫びにびくりと肩を震わせ振り向いた。

 その視線の先では——アンジュが、赤い瞳をかっとひらき、強力な魔力を放出しながら、見事な黒い髪をさらに艶やかに揺らめかせている。

 まさか、と思い、制止しようとしたクロトを、膨大な魔力の噴出が妨げる。

 黒い煙状の魔力が爆発するように広がって、それが晴れる頃には、周りの木々をみしみしと薙ぎ倒しながら、巨大な翼を広げる黒い竜が顕現していた。


「馬鹿が! 自分から正体を見せるやつがあるか!!」


 正気の沙汰とは思えない行動に、クロトは思わず叫ぶ。変身の衝撃に弾き飛ばされ、そばの木にもたれていると、リンネを片腕に抱いたセロニアスが飛んできて彼を余った腕で引き上げた。


「ドラゴンだ—————!!!」


 突然現れた黒い竜の姿に、畏怖の声が次々と上がる。

 妙な攻撃をしてくる魔族に加え、ドラゴンまで現れたときの討伐隊の心境は思いやられる。

 黒い竜に変貌したアンジュは一瞬で高く宙を駆け上がると、そのまま屋根の上の魔族に一直線に向かっていった。


「――≪黒滅衝撃≫ブラック・パルティキュラ!!」


 黒竜は顎をひらくと、黒い嵐のような衝撃波を放った。

 魔族の男は長い髪を炎のようになびかせて跳躍し、直撃を免れる。

 ドラゴンの咆哮が襲った家畜小屋は、一瞬でひび割れ、土砂崩れを起こしたように地響きをあげて瓦解する。


「一度ならず二度までも立ち向かうか! 果敢なドラゴンの女よ——! その勇気、滅びに値する!!」


「黙れェェェェェェ!!!」


 男の哄笑に、竜は二度咆哮し、再び照準を定める。

 討伐隊たちは、巻き添えに遭ってはならないとその場を駆けだして逃走する。


「マスター! 一応訊ねるが——……」


「………当たり前だ! あの魔族のほうを狙え!」


 セロニアスは主と少女を下ろすと、背中の大剣に手をかけて訊ねた。

 クロトは半ば自棄になりながら叫び返す。

 二度目、竜の咆哮が森に着弾し、木々の残骸が吹き飛んでくるのをセロニアスの剣が防いだ。


「……アンジュ……! どうしちゃったの……! こんなの、誓いを守ってるって言えないよ……!!」


 目の前の破壊に恐怖を湛え、声を震わせるリンネに、クロトは眉間に皺を増やし思う。

 六竜の誓いは、己より弱き者に力を向けてはならないという約定だ。

 それは、自分以上の強大な存在を認めたとき、竜は容赦なく力を振るうということでもある。


(本人としては、誓いに背いている自覚はないんだろうな……)


 思慮深い種族だからこそ、一度決断したときのドラゴンのすさまじさは類を見ない。

 クロトはリンネの手を引き、竜と魔族から距離をとりながら彼女に結界をかけた。

 

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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