15.邂逅 関西基地捜査班
微睡みの底、いつかの言葉が耳をうつ。
『いいかい■、このことは誰にも明かしてはならないよ。その時が来るまで誰にも…絶対にだ』
(分かってますよ。だからこそ…俺は、俺は…)
「…ぱい、時摩先輩!」
虚ろの中、繋木の声が意識を夢から引き上げた。
「…あぁ…すまん、寝かけていた」
「そろそろ港に着くそうですよ。外で染島さんが待ってます」
眠気を振り払い、甲板へ出ると染島がこちらに手を振りながら歩み寄る。
少しペタつく潮風が頬を撫でるのを感じつつ目的地の孤島『魅函島』、その港へと船は近付いていく。
「掌ちゃんおはよ。船酔いでもした?」
「ちげぇよ…少し寝不足気味でな。それにしても」
振り返り、自分たちが乗ってきた比較的大きめの船に目をやる。
この船はHOLLOWが海上調査等で使用する調査船である。本来であれば担当の海域を巡りながら霊脈の異常や大気中マナの流れを継続するためのものなのだが、今回の捜査の為、特別措置として担当海域外の移動に使わせてもらえることになったらしい。
「担当区画外での捜査とはいえこんなでかい船、上層部が良く許可出したな」
「確かにちょっと変だよね。未確認の霊脈調査で危険度もそんなに高くないんでしょ。まぁ、ありがたいことだけどさ」
港には俺達と同じく黒いスーツと黒い手袋を着けた黒髪男がこちらに大きく手を振っていた。
そのにっこりとした笑顔に少し染島があきらかに嫌そうに顔をしかめた。
「…迎えって刺崎かよ」
「あぁそうか、お前もともと関西基地だったんだっけか」
「元後輩なんだよ。はぁ…苦手なんだよなぁあいつ、生意気だし」
港に着き、船を降りると刺崎さんがこちらへと駆け寄り声をかける。
「やぁやぁ関東の皆さん。ご足労ありがとうございます。それと久しぶりっすねぇ〜せ、ん、ぱ、い」
「相変わらずきっめぇ〜なこいつ。てかなんでお前なんだよ暇なんか?」
刺崎はぴきぴきと血管を浮き上がらせて見下ろす染島を華麗にスルーしこちらに向き直り挨拶した。
「改めまして、HOLLOW日本支部関西基地所属の刺崎 相馬准機正です。どうぞよろしく〜」
「HOLLOW日本支部関東基地所属、時摩 掌機正だ。今回の共同捜査、よろしく頼む」
「同じく、関東基地所属の界 繋木機官です。よろしくお願致します」
俺と界それぞれと握手を交わした後、刺崎准機正が用意した車で島内にあるHOLLOW管理の宿泊施設へと向かうこととなった
「一応こっちから割けた人員は准機正が俺含めて二人と機官一人、あとは准機将が一人です。現場指揮は基本的にうちの准機将が執る感じですけど、大丈夫ですかね」
ここにいる皆が思っただろう、人員が多すぎる。それに准機将が来ている…?おかしい。
関西基地も規模だけで言えば関東基地とそう変わらないはず、それなのに単なる霊脈調査にここまでの戦力を割いているのは明らかに不自然だ。
(間違いない…何かある。先生の言っていた呪いと関係があるのか?)
「あー、やっぱり気付きますよね〜。いやまぁ…こんなに戦力割いてるのはちょっとワケがあるんですよ」
「それは…どういうことですか?」
「ははは…それはまぁ、着いたらおいおいってことでね…」
運転席から俺等の顔を伺ったのだろう。刺崎准機正は少し苦笑いしながら言った。
俺達はその後も軽い雑談をしつつ、10分程で宿泊施設、もとい捜査本部へと到着した。
車を降りるとそこは少し古びた3階建てのホテルだった。白い外壁はところどころが色あせ、ツタが少し絡んでいるのが見て取れる。
「ほいほい、着きましたよっと。ここが本案件の調査本部、「ホテルさざなみ」。古いのは見た目だけで中の設備は結構良い物使ってるんですよ?」
「ってか、夜月さん来てんだろ?さっさと案内してくれよ後輩。……あんま会いたくないけど…」
「まぁまぁ、とりあえず案内します。中行きましょ」
ぼそりと呟く剥也をよそに、俺達は刺崎准機正に連れられてホテルさざなみ…もとい『G-61新規霊脈調査本部』へと足を踏み入れた。
入り口のドアを開けるとリンリンと優しげな音色が聞こえ、ロビーを抜け目の前のエレベーターに乗り込む。
「じゃあとりあえず手袋取って腕出してください」
絶縁手袋を外すとピピっと緑色のレーザーが全員をスキャンし、エレベーターはそのまま下へと動き始めた。
各支部の基地や本部でも使われている義手装具の型番と使用者のマナの流れにより捜査官を識別するシステムだ。
ベルの音とともに扉が開くとそこは先ほどの古いホテルではなく、純白の壁と蛍光灯が眩しい細長い通路へと出る。
「さて、こっちですよ」
少し歩いた後、操作盤に義手装具をかざす、そこにいたのは俺達と同じく黒いスーツに重々しい鈍色の両腕、そして銀髪のウルフカットが良く似合う長身の男性だった。
「刺崎、関東基地の皆様をお連れして帰還しました〜」
「あぁご苦労さん。さて…関東基地皆さん、ご足労感謝します。HOLLOW日本支部関西基地所属、執行班班長の夜月 尊准機将です。よろしく」
「あぁこちらこそ…HOLLOW日本支部関東基地所属の時摩 掌機正です」
軽く握手を交わし、夜月准機将は本作戦の概要について話し始めた。
「さて…本作戦はこのG-61。通称、魅函島の中心部に位置する森林地帯。ここにあると思われる未登録霊脈周辺の境界深度の計測と調査、及び吹き出たマナの浄化になります。湧いてる霊獣の駆除は機正以上が主導となって行う…とまぁ、ここまでが表向きの目的です」
夜月の視線が変わった。先程以上の真剣さ…そして、鋭くこちらを穿つような冷徹な眼光。
「ここからは他言無用でお願いしますね?」
「…勿論」
背筋に冷や汗が伝うのを感じながら俺達は恐る恐る頷いた。
「…いいでしょう。では改めて状況をお伝えします。現在我々HOLLOW日本支部関西基地は『GENOSIDE』を名乗る謎の虚人組織との…戦争状態にあります」
用語解説⑫
・霊脈
世界各地に存在する特質したマナの吹き溜まりの名称。
大気中のマナが何らかの影響でこの地点に滞留してしまっていたり、そもそもマナの生成地点である場合もあるパワースポット。
この周辺では霊獣が出現するリスクが高いなど周囲への危険が発生する可能性が高い為、HOLLOWが登録、管理し定期的な調査を行なっている。




