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12. 日米合同異形執行戦線 其の二

疑似装具換装(イマジナリ)死の渦中(アントミル)!」


 疑似装具換装イマジナリ、僕の模倣技術は抜拳などの技だけに留まらない。

 彼の底無しのマナと圧倒的なまでの構造理解度とセンスにより形成された偽りの義手装具。


「食いたいならかかってこい…化け物!」


 高まったマナは甘美な臭気を放つフェロモンとなり、それに誘われたチュパカブラは息を荒げながら一直線に僕へと飛びかかる。先程まで以上の興奮状態、まさに狂乱。

 荒い呼吸に滴る涎。ギョロギョロとした眼は血走り浮き上がった血管が今にも破裂しそうなほどである。

 それもその筈、なぜなら奴の眼に映るのはこれまで相対した何よりも高純度のマナの塊。

 生き血と肉からマナを吸い取り喰らう奴にとっては何よりのご馳走、ちらつかされた好物を目の前に危険を察知する冷静さなど、とうに焼き切れた自我には無理な話だった。

  

「ヴァァァッ!!」

「おおぉぉっ!!!」


 フェイントも何もない本能に任せたその突進に合わせて横面を右拳が打ち据える。衝撃の方向は真逆、つまりは時摩先輩と逆方向。


(よし、ちゃんと模倣出来ているな…。このまま先輩たちから少しでも距離をとって時間を稼ぐ…!)


「抜闘、アガートラム!」


 一撃一撃を叩き込むごとに義手装具と肉体の繋ぎ目から噴き出す血液が熱量を帯びた銀腕に当たりジュウジュウと蒸発してゆく。


「ぐぅっ…!!」


(危惧していたことではあるがそれでも、予想以上に

マナの消費が早い…それに痛い、痛すぎる!)


 義手装具の機能で痛覚はほとんど無いはずなのにこの激痛…まるで腕の神経が内側から焼けていくかのような痛み、そして恐らく僕の筋力が足りないのもあるだろうが、攻撃の度に腕が明後日の方向に捩じ切られそうになる…。

 ラングトン准機将は攻撃の度にこんな激痛に耐えながら戦っていたというのか。


「なんて義手装具(のうりょく)だ…」


(少しでもこの緊張が途切れればすぐに痛みに潰される…今にも気が触れそうだ)


「ぐぁぁ…まだまだぁっ!!!!」


 痛みと共に噴き出す沸騰した血液による皮膚の火傷も気にならなくなって来た。

 頭がぼーっとして来た。頭が熱に侵されているのがわかる。

 腕の感覚…否、身体の感覚がなくなってきた。

 異常に身体が軽い。腕の痛みがなければ僕の意識は数秒と持たなかっただろう。熱に浮かされるとはこういうことなのだろうか…いや良くない、変なことを考えるな。時間稼ぎだ。とにかく時間を稼ぐ。

 チュパカブラの右爪が頬をかすめる。速い、興奮状態だからだろうか。どんどん動きのキレが増している。

 打ち合う拳と鋭爪、瞬間的な火力だけで言えば僕の方が上、だがこちらの消耗は予想以上に激しく対するチュパカブラのスタミナは依然として底が見えない。  このままでは潰されるのは僕だ。ならばこちらの出せる最大火力で頭を潰して時間を稼ぐ!

 飛び交う爪と腕の隙間を縫い、チュパカブラの腹部を蹴り上げ、距離を取る。

 スーツのポケットに忍ばせていた活性化アンプル5本を素早く自分の首筋へまとめて突き刺して吸収する。

 アンプルの過剰投与による全身の激しい痛みに耐えながらも義手装具を構え、叫んだ。


「抜闘、死の渦中(アントミル)!」


(ラングトン准機将、改めて貴方の技をお借りします) 


 両腕の熱量は臨界点へと達していた。仮初の義手装具がバチバチと先ほど以上の火花を散らしながらマナを膨張させ渦巻く。義手装具はあらぬ方向に捻れながらブチブチと音を立てて肉から弾けゆく。


「ウヴァァァッ!」

「がぁあああああっ!」


(腕が…千切れる…!)


 狙いは変わらずに頭部。頭部再生にはかなりの時間を要することは先程の戦闘で確認済み。

 時摩先輩達が復帰するまで体感残り4分。アンプル込みでも体力は限界。

 それに疑似装具換装(イマジナリ)のマナ消費も馬鹿にならない。


(恐らく持って2分…奴の頭を飛ばせば再生に1分弱…どうする、なんとか作戦を…いい一手は…何か、何か何か…だめだ焦るな焦るな余計なこと考えるな…!あぁクソッ、痛すぎる痛すぎる頭ぶっ壊れる!)


 熱と回転の遠心力を意地のみで固定し続けながらひたすらにマナを螺旋状に回す、回す。速度はとうに音を捨て、大気を削りながら尚も回るそのかいなは白光と灼熱を放ちながら辺りに衝撃波を撒き散らしている。

 限界突破、ラングトン准機将であればこの技をもっと上手く使えたのだろう。だが、紛い物にはここらが限界だった。

 僕はズキズキ痛む喉を無理やり震わせて叫び、その腕を手放した。


「……核熱砲(ラジエーション)っ!!」


 ぶちりと両肘から先の感覚が消失するとともに僕は反動による衝撃波で後方へと吹き飛ばされた。

 ほんの一瞬、身体が強引にひしゃげられて砕けた骨と内臓が混ざり合ってゆく違和感と爆風で皮膚が溶ける感覚を味わいながら、僕の意識は途切れた。


――――――――――――


 白い、只々白いその空間、その中で彼は居た。


「嗚呼、なんてことをするんだ界 繋木…今の君にその力はあまりにも荷が重すぎる」


 頬に涙を伝わせながらもその目には悲哀は見られない。感情といった物を粗雑に真似したようなその顔はどこか不安感を感じさせる。


「いくら反対側の君がもういないからってその分のリソースを無理に身体に押し込めるなんて…器が悲鳴を上げているじゃないか」

「全く、よく言う。そうしたのは兄上だろう?いい趣味しているよ」


 すぐ隣の女が、軽く嗤うような声色で声をかけた。しかし男は何も答えない。


「ひとまず計画に変更はないな?」

「構わないよ。無理をして外側の羽虫に見つかったら大変だからね」

「ふむ。ならば私は他の運営に声をかけておこう。ではな」


 女は席を立つと、ジジッとしたノイズと共に光体となって消えた。

 彼は再び虚空を見つめながらポツリとつぶやいた。

  

「…さぁ、芽吹きの時だ。蜘蛛よ」


用語解説⑩

疑似装具装填イマジナリ


マナ過剰適応症の症状である特殊な視界により一度見たものをマナの色と性質単位で記憶し自身の能力と照らし合わせて理解すること、そしてもう一つの症状であるその桁違いのマナ出力によって燃費と使用者の消耗を度外視した能力の模倣。

この模倣は技のみならず、義手装具でさえも模倣する。

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