11.日米合同異形執行戦線 其の一
真夜中の大通り。瓦礫やガラス片など、崩れた建物とアスファルトの残骸がこの戦いの規模を物語っていた。
一般人の避難は完了済みであり、周囲には人払いが施されているようだ。
街灯がプツプツと点滅するその中、夜闇の静けさとは真反対の轟音と衝撃が巻き起こっていた。
「虚を開く鍵!」
「小手先の摩拳!」
掌と界はそれぞれの義手装具を駆使しながら対象『チュパカブラ』の深緑の肢体を殴りつける。
あの映像の通りだった。変身後の対象は肉体が脆くなっているらしい。二人の拳は見事対象の右脇腹と左肩を抉り抜いた。
「アァァ…ヴァァァァ!!!」
対象はまるで意に介さずにただ目の前の動く肉塊へと手を伸ばす。
「やはり止まらないっ…!!」
掌が眼前に迫った鋭爪を既のところで躱しつつ腰の捻りを入れた回転蹴りを脇腹へと叩き込む。
「掌の奴…やるじゃねぇか」
どんなにダメージによるリアクションが無い奴にも生じる不変の隙がある。
それは物理的な衝撃による吹き飛ばしだ。
ラングトンの映像では基本、対象の心臓や鳩尾を貫いたりなどの部位破壊が中心だった。
対象の弱点が恐らく頭のみである仮定した場合、それらの攻撃があまり効果的ではないことを私達は既に見ている。
ならば話は簡単だ。フィニッシャー以外の全員でノックバックを中心に確実な隙を作る。
『こちら作戦室だ。β聞こえてるか?』
ザザッというノイズと共に拳藤の声が聞こえる。
「おう。そろそろか?」
『あぁ、待たせたな』
それと…と私は言葉を紡いだ。
「…さっきの件は悪かったな」
『…こちらもお前の気も知らずに悪かった。お前の場合は変に指示出すのもあれだろう…暴れて来い!』
わかっているじゃないかと無意識に口元が緩んだ。
「いい判断だ拳藤。ぶちかましてやるよ!」
物陰に隠れるのはもう終いだ。ギリギリと義手装具を握り締め、一気に対象の頭上へと飛び上がる。
「来たかじゃじゃ馬娘!」
掌がバックステップで即座に距離を取る。
対象も危機を本能で理解したのだろう頭部を覆うように両腕でガードする、だがどうでもいい。
(久しぶりの出番だ相棒、キビキビ働けよっ!!)
「参番抜闘!」
自身のマナを拳に硬く堅く、溜め凝縮する。
「マナブレイカー!!!!」
固めたマナが対象の触れるその刹那眩い閃光を放ちながら辺りを吹き飛ばす衝撃と轟音を轟かせ対象の身体を地面へと埋め込み固定する。
「よし、固定完了!やるぞてめぇら!!」
「了解!」
マナブレイカーの衝撃で地面に足を固定することはできた。次にやるべきはその両腕の破壊。
今のままではまた腕のガードで頭を狙うことが難しい。まずはそのカード手段を奪う。
「界はガード誘発!アタシが腕落とす!!」
「了解、行きます」
後方より飛び出した界が対象の頭部めがけて鋭い拳撃を繰り出す。当然察した対象は眼前で腕を交差させて構えた。
(構えた…今っ!)
参番は参手の神器の中でもスピードに特化した義手装具だ。一撃一撃の威力は火力特化の壱番には及ばないが、今の肉質なら参番でも破壊可能なはず。
「抜闘・アガートラム!!」
掛け声と共に噴き出したマナが義手装具と共に白銀の閃光を放った。
対象の眼前に構えられたその腕めがけて、文字通り弾丸の如く飛び込む。
振り抜かれた拳は光の槍となって対象の腕を貫きそして焼き切った。
今だ、そう叫ぶより少し早く私の後ろで掌が地面を蹴り上げ飛び上がった。
「抜闘、アガートラム・重撃!」
二重に発生した白銀の光槍が対象の頭へと吸い込まれるように突き穿つ。衝撃で後方へと吹き飛ばされながらも私達は対象から目を離さない。
砂塵がもうもうと立ち込めるその中より髪の毛が焼け溶けたかのような異臭がツンと鼻をついた。
「掌、お前確実に頭当てたんだよな」
「絶対当たった。手応えはあったんだが…見て分かるだろ」
答えは右目のマナレンズが既に示していた。
「こちらβ、作戦室見えてるか」
『…あぁ、目視はできてないが、マナの反応がな』
砂塵越しでもわかる程の圧倒的なそのマナは健在だった。
煙が晴れる。その中心に奴は立っていた。
その深緑の身体は焼け爛れ、だらりと脱力した両腕から漏れ出す青色の血は熱で気化し、超高温の蒸気となってシュウシュウと噴き出している。
そして失われたその頭部は今まさにジュクジュクと再生を始めていた。
だが頭部自体は弱点だったのだろう。対象はその動きの一切を停止してその身を無防備にさらしていた。
「こちらβ今目視した。対象は健在、動きを止めて頭部を再生中。ただ蒸気が熱すぎて近づけねぇ。どうするおっさん」
『こちら作戦室、対象の再生についてこちらも確認した。これよりプランBに移行する」
そう、ここまではあくまで本作戦におけるプランA、つまり対象は頭を飛ばしたところで執行できない事は想定内。ここからが本番である。
『対象は動きを停止、恐らく頭部の再生中は身動きが取れないと見た。この隙にα1とβは1回下がってマナの補給をしろ』
蒸気は晴れて対象の全身が顕になる。
恐らく急な再生に相当な量のマナを使用したのだろう。対象は少し苦しそうにふらついていた。
「おい新人!」
「はい、退路を開きます!」
後方から拳を低く構えた界が対象目掛けて飛び上がる。その義手装具には鎚状に固められていた。
「抜闘、マナブレイカーっ!」
衝撃波により対象が後方へと弾き飛ばされ、私達の逃げる隙を生んでくれた。
こちらに振り返る界に小さく声をかける。
「…やれんだなお前」
界は義手装具を握り直しながら無言で頷いた。
言葉はいらなかった。その目と義手装具のみならず全身から溢れ出る膨大なマナの量で全てを察した私と掌は振り返らずにその場から離脱した。
「作戦室…こちらα2、先輩方が戻るまで足止めします」
『…了解した。活性化アンプルの無制限使用を許可する』
吹き飛ばされた対象は即座に体勢を立て直し、グルゥと1つ唸ると眼前のご馳走を睨みつけた。
その顎からよだれがダラダラと滴り落ちる。飢餓状態の時に膨大なマナの塊を見たのだ。食いたくて食いたくて堪らないのだろう。
『二人が戻るまで10分、頼んだぞ』
「了解、執行します」
返事をするのと同時に低く構え、全身のマナを右腕の義手装具に一点集中させる。
義手装具がギリギリと悲鳴を上げる。
「まだ壊れるなよ…」
それはまさに、界 繋木の才能というべきものだった。
マナ過剰適応症の症状の一種、適応した義手装具によるマナの過剰出力と彼の天性の戦闘理解力が生み出した彼の技。
「疑似装具換装、死の渦中…!」
界それはマナ過剰適応の症状である特殊な視界により一度見たものをマナの色と性質単位で記憶し自身の能力と照らし合わせて理解すること。
そして桁違いのマナ出力によって燃費を度外視した能力の模倣であった。
「食いたいならかかってこい、吸血獣!」
用語解説⑨
対界闘術「抜拳」
先代のHOLLOW潜入班班長と拳藤 炎次が開発した対境界特殊格闘術。
使用者のマナを義手装具に纏わせて固めることで疑似的な武具を形成し強力な一撃を繰り出す技。
槍状のアガートラムや鎚状のマナブレイカー等数多くの型が存在する。




