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File 6 : 立石恵 4


「お前には釣り合いの取れる夫をお父さんが見つけてやる」


 パパは私が中学生の時からそう言っていた。


 私のパパは大手銀行の次期頭取と言われていてこの国の経済の要にいる人だったから、私はパパの役に立つために結婚するのねってずっと思ってたの。


「お前は外見を磨いて、お父さんの役に立つようにしなさい。男がお前を手に入れたくなるような可愛い女になるんだ」


「お前は頭が悪いんだから外見を磨かなきゃ使いモノにならんぞ」


 パパはいつも繰り返し私に言っていたわ。

 お前は頭が悪いんだから、外見だけは磨いておけ…ってね。


 だから、ちょっとだけ顔をいじったの。

 皆にバレるような事はしないわ。目を二重にしただけよ。あとはお化粧のテクをプロにみっちり教えてもらった。



 私が大学4年生の時に、パパは私にお見合いをするようにって言ったの。


 私のお見合い相手は国会議員、立山誠先生のご長男で私より5つ年上の和美さんだった。


「ウチの銀行と太いパイプが出来て、あいつらも嬉しいだろうよ。立山との繋がりが出来れば俺も銀行も安泰だしな。

 それに、お前が好きそうな男だぞ」


 私が好きそうな男っていう意味はよく分からなかったけれど、パパはよくよく考えてお相手を見つけたんだと思った。


 私から断れないのはよくわかっていたから、せめて優しい人で、できたら見た目が素敵だといいなって思っていたの。


 お見合い写真の和美さんは優しそうに見えてほっとした。優しい人かどうか、それだけは心配だったから。

 

 お見合いは和美さんの意向でホテルのラウンジで2人だけで会うことになった。


 その日、私がラウンジの椅子に腰掛けて待っていると、時間ぴったりに和美さんが現れた。バリバリと働く男のイメージ通りの和美さんは立ち上がった私に右手を差し出して握手を求めた。


「立山和美です。

 父と外務省の問題で話し合っていて時間を取られてしまい、ここに来るのがギリギリになって申し訳ありませんでした。お見合い相手をお待たせするなんて、この時点で振られても仕方ないですね」


 写真で見た通りのスラリとした外見で、笑った顔が素敵だった。


 和美さんは差し障りのない映画の話をして、ピッタリ1時間半で帰って行った。


「父が使う資料作成を任されていますので、もう戻ります。

 また会っていただけますね?」


 和美さんは最後にもう一度右手を差し出した。


 お見合いなんてそんなものだろうって思った。だって、別にお互いの気持ちなんて関係ないのだもの。だから私は和美さんの右手を取って笑ったわ。


「ええ、またお会いしたいわ」


ってね。



 お膳立てされた話はとんとん拍子に進んで、私は卒業したらすぐに和美さんと結婚する事になった。


 お兄ちゃまは少し心配してた。立山家は有力な政治家だけど黒い話も多い、って。


「なんでそんな所に恵を嫁がせるんだよ」

 

 お兄ちゃまはパパに何度も抗議してたけど、何を言ってもパパの計画は変わるはずもなかった。


 優しいお兄ちゃまは、いつもわたしの味方でいてくれた。

 


 結婚するまでの間、私は和美さんと何回かデートをした。大抵はお決まりのデートコースで、ピッタリ1時間半。


 どこか行きたい所はありますか、とか、食べたい物はありますか、なんて聞かれたこともなかったわ。


 最初から私に興味なんてないのだもの。仕方ないわよ。


 ある夜、突然、和美さんが私にキスをしたの。そのキスがとても激しくて、私は倒れそうになって和美さんにしがみついてしまった。


「僕は結婚するまで待てない。

 今度一緒に旅行に行かないかい?」


 和美さんが私の耳元でそう囁いた。


「パパがいいって言ったら…」


 でも、私のその言葉は和美さんのキスで半分も言えなかった。


「恵は嫌なの?」

「違うの。和美さん…好きよ」


 結局、パパには大学のお友達と一泊で遊びに行くと嘘をついた。


 ママにはこっそりと本当の事を話したら少しびっくりしていた。


「お忙しい和美さんがよく時間を作ったわね。気をつけるのよ」


 ママの言う事はいつでも正しいって私は知っていたから、自分の言葉には気をつけようって思ったわ。


 和美さんはメルセデスを飛ばして、都心の高級ホテルのインスペリアル スイートルームに私を連れて行った。


(あれっ?旅行…だったはずだけど?

 …まあ、いいか)


 和美さんにとって、旅行も都心のホテルも関係ない。私の体をさっさと自分のモノにしておきたいだけだって、分かってたから。


「なかなか取れないお部屋でしょう?」


 そう呟く私に和美さんはキスをしながら、初めての夜だから素敵な思い出にしたいだろ、って言った。


 2人でシャトー マルゴーを飲んだ。


 ワイングラスの向こうに見える綺麗な夜景を私がうっとりとした顔で見つめていると、和美さんは指輪を出して私の左手の薬指にはめた。


「これで君は僕のものだ」


 キラキラと輝く指輪は私の幸せを祝福するように輝いていた。


 その夜、すべてが終わった後に和美さんが私を強く抱きしめて囁いた。


「恵。初めてを俺にくれたんだね。ありがとう。すごくよかった。またこうして恵を抱きたい」


 そうね、学生の頃付き合っていた男達は皆、恵の体はすごいよ、すごくいい、と言っていたから、私の体は男が欲しがる体なんだってわかってた。


 そして、和美さんは私が初めてだと思ってくれたのも、ものすごくうれしかった。

 …なぜそう思わせることが出来たのか、は秘密ね。


 初めての夜はこうして '合格点' で終わった。

 

 和美さんは私の体の虜になった。だって、それから和美さんは少しの時間を作っては私を何回もホテルに連れて行ったんだもの。


 私は…どうでもよかったかな。

 男なんて、みんな同じだから。


 でも、ちゃんと演技はしてたわよ。和美さんに興味がないなんて、誰にも分からなかったはず。




 結婚式の前日、パパは私を呼んでこう言ったの。


「立石親子の弱味を探れ。

 俺が立石をうまく使うためにな。

 それ次第でお前の幸せ、未来も変わると思いなさい」


「パパ。わかったわ」


(パパ、言われなくたってわかってるわ。大丈夫よ。和美さんは私の体に夢中だもの。

 パパの役に立ってあげる)



 翌日、両家の力を見せ付けるような豪華な結婚式を挙げた。


 新婚旅行には仕事が忙しくて行けないって和美さんが言うから行かなかった。大抵の場所にはもう行ってるし、まあいいかって思ったの。


 式から1週間の間、和美さんはまっすぐ家に帰って来た。でも、寝室で過ごした後は仕事があるって私を置いていなくなったわ。


 露骨よね。

 そんなに私といるのが嫌なんだ、って思った。


 私は立石家の和美さんの部屋で新しい暮らしを始めた。和美さんが父親の立石誠との仕事の関係上、同居したいって言ったからね。でも、和美さんは不在がちだし、私が家事をすることもないし、私は1人で過ごすことが多かった。


 同居なんかする必要ないじゃないの、って思ってたわ。まあ、私が家事をするわけではなかったし、お金は使えたし、立石誠に会う事もほとんど無かったから、どこに住んでもどうでも良かったかな?


 ところが、思いもよらない事が起きてしまった。


 結婚して1年も経たずに私のパパが突然死んでしまったの。朝、ママが起こしに行ったら、もう冷たくなっていたんですって。


 検死の結果は、心筋梗塞だろうって。

 

 前々日からゴルフ旅行に行ってたパパは、帰って来てからもご機嫌だったのに、ってママが言ってた。


 本当に、急だった。


(パパ、こんなに早く死んじゃうなんて!

 私の幸せと未来はどうなるのよ!)


 私はものすごく腹が立った。

 パパの嘘つき…ってね。


 パパの訃報を聞いた和美さんは、仕事が忙しいと言ってパパのお葬式にもちょっと顔を出しただけですぐに帰ってしまった。


 期待はしてなかったけど、少し悲しかった。この結婚はお互いの家の打算の産物だったけど、パパが死んだ時ぐらい優しくしてくれるかもって思ってたの。


 バカだったわ。

 和美さんにとって私はいったい何だったのかしら?


 その答えはしばらくして分かった。


 ある夜、お義父さまに呼ばれてお部屋に行ったら、お義父さまはいきなり私を平手打ちしてベッドに押し倒したの。


 和美さんの名前を呼びながら嫌がる私に、お義父さまは言ったわ。


「和美も承知だ。諦めろ」


「…えっ?」


「お前の親父が死んだら、お前の使い道はこれくらいしかない。

 恨むならお前を立石に嫁がせて、さっさと死んだお前の親父を恨め」


 どうせ抵抗しても無駄だろうとわかっていたわ。力の差は歴然だし、下手に抵抗すれば私が悪者に仕立て上げられるだけ。悪い噂をばら撒かれて放り出されるに決まってる。神尾の家とお兄ちゃまにも何かを仕掛けるつもりに違いない。

 そんな事されるぐらいだったら…。私が犠牲になる、ってそう思ったの。


 その日から私はひどい仕打ちにひたすら耐えた。


 お義父様は、私に奉仕させるのがお好きだった。私に身体中を舐めさせるの。自分のモノを指して、これが欲しければ自分で動けよ…とか、終わった後に、和美の体とどっちがいいって聞かれたこともある。もちろん、私はこう答えたわ。


「酷いことをお聞きにならないで!お義父さま無しでは、私…。お分かりのはずなのに、ひどい」


 そう言って、もっとご奉仕して差し上げた。


 和美さんは私を忌み嫌ってた。

 でも、夜は別だった。私の部屋にやってきては前戯も無しで、いきなり…。私が感じてなくても全く気にもしない。そう、私の身体を自分の父親と共有してるっいう事実はさぞかし興奮したことでしょうね。


 だから、私は和美さんの胸に縋って泣いてやったわ。


「私はあなただけが好きなのに…。あなただけに愛して欲しいのに!」ってね。

 

 すると、和美さんはもっと猛々しく私を抱いて、私の上に精液はぶちまけてこんな事を言ったの。


「好きな男の精液に塗れて嬉しいだろう。ほら、俺の身体も舐めて綺麗にしろ。お前はこんな事にしか使えないんだからな」


 なぜ逃げなかったのか?

 この薄汚い親子にいつか必ず復讐してやるって心に誓ったからよ。


 パパが言ってたもの。


「立石親子の弱味を探れ。立石をうまく使うために。それ次第でお前の幸せ、未来も変わると思え」


 私が、必ず立石家の弱みを握って、私の幸せも未来も変えてやる。

 私をバカにしないでほしい!

 立石親子が立ち上がれなくしてやる!




 むかし…私が初潮を迎えた時、ママが私に言った事は忘れたことがなかった。


 ママは私に言っておきたい事があるって言ったの。


「恵、あなたは賢い子だわ。

 でも、あなたの賢さは隠しておきなさい。あなたの頭脳はあなたのためだけに使うの。

 お父さまは娘の幸せなんて考えていないから、あなたは自分の未来を自分で切り拓くのよ。

 上手に生きるのよ。いいわね?」


「はい、ママ。わかってるわ。

 だって、私はママの娘ですもの。今までのママを見て学ばせてもらってますから、大丈夫よ」


 ママは私を抱き寄せて耳元で言った。


「これからは生きる知恵をつけなさい。

 ママはあなたの味方よ」


 私は学業も真ん中よりやや下ぐらいになるようにわざと手を抜いた。政治や経済にはすごく興味があって密かに勉強していたけれど、それを知っているのはママだけだった。


 ファッションや旅行、ブランド品に興味があるフリをして、見た目の良い男と遊びまくった。もちろん、素性もちゃんと調べて後腐れのない男とだけね。


 私はパパが言ったように、あまり賢くない、見た目が可愛いだけの女として過ごしてきたの。


 私の夫と義父は私の本当の顔は知らない。

 

 私はお義父さまと和美の勝ち誇った様な顔を見る度にママの言葉を思い出し、自分の復讐のために全ての知恵を使うって決めた。


 立山誠と和美が落ちぶれていく様を見てやるの。


 そう心に決めたんだもの!

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