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第八話『おっさん(5歳)、お披露目パーティーと二大派閥(許嫁)の強制内定』

「全属性」という伝説の鑑定結果を叩き出してしまった数日後。

俺は、きらびやかな夜会服に身を包まれ、王都の夜会会場の前にいた。

(……帰りたい。今すぐ定時退社して、マイルームで絵本でも読みながらゴロゴロしたい)

今日は、五歳になった貴族の子息が一堂に会する**『お披露目パーティー』**。

本来なら「あそこの家の坊ちゃんは可愛いわね」で終わるはずの平和な社交界デビュー。しかし、俺の後ろに控える我が家の陣容は、やる気に満ち溢れすぎている。

「アルベルト、胸を張りなさい。お前は我がムルターシュ家の誇りだ」

父親のカイゼンが誇らしげに胸を張る。その横には、ドレスのチョイスが完全に戦闘モード(超高級)になっている母親のリーゼ。さらにお付きのキャリー、ミーナ、ゴードンまでが「うちの坊ちゃまが世界をひっくり返すぞ」と言わんばかりのドヤ顔を見せている。

(やめて。みんなそんなハードル上げないで。俺、今日ただの置物(無害な凡人)として出席するつもりだから!)

だが、会場の扉が開いた瞬間、俺の儚い希望は打ち砕かれた。

すでに王宮から「建国以来の全属性持ちが生まれた」という情報が、爆速でリークされていたのだ。

「おお! 彼が噂の神童、アルベルト様か……!」

「なんて落ち着き払った佇まいだ。五歳児のそれではないぞ……!」

(いや、中身40歳のおっさんだからね? 異業種交流会に放り込まれた時の死んだ魚の目をしているだけだよ)

俺はこれ以上目立たないよう、あえて誰とも目を合わさず、微動だにせず、壁際で借りてきた猫のように静かに佇むことにした。

だが、その「前世の退屈な会議をやり過ごす時の完全な不動の姿勢」が、周囲の大人たちには**「周囲の雑音に一切動じない、圧倒的な大物の風格」**に見えていたらしい。

「ガハハ! カイゼン、相変わらずお前の息子は底が知れんな!」

豪快な笑い声とともに現れたのは、この国でも指折りの武闘派貴族である公爵閣下だった。その後ろには、輝くような金髪と、ツンとすました青い瞳を持つ、お人形のように綺麗な五歳の女の子が控えている。

「我が娘のエレノアも、今回の鑑定で『光と火』の二属性持ちと判明した。どうだ? この天才児同士、若いうちに【婚約】を交わし、将来の我が国を強固なものにせんか?」

金髪の美少女エレノアは、頬をわずかに赤らめながらも、ツンとした態度で俺を睨んできた。

「……あなたがアルベルトね。伝説の全属性だなんて、私、絶対に負けませんから!」

(うわ、魔法エリートのツンデレ美少女だ。関わると絶対に面倒くさい。お父さん、丁重にお断りして——)

「——待たれよ、公爵閣下。我が辺境伯家を差し置いて、勝手に話を進められては困るな」

割って入ってきたのは、全身から凄まじい覇気を放つ、鎧姿の厳つい男——王国の防人を担う辺境伯だった。

その影からトコトコと現れたのは、夜会服の代わりに動きやすい軍礼服を着た、黒髪ショートカットの美少女。彼女は腰に小さな木剣を携え、琥珀色の瞳でじっと俺を見つめている。

「我が娘、カレンは五歳にして我が家の精鋭騎士を剣術で打ち負かすほどの傑物。伝説の全属性を婿に迎えるなら、魔法だけでなく我が辺境伯家の『武』と合わさるべきだ。アルベルト殿、我がカレンとの婚約はどうだ?」

黒髪の美少女カレンは、一言も喋らないまま、じっと俺の目を覗き込んできた。その目は「こいつ、強い」と本能で見極めようとする、ガチの剣士の目だった。

(いや、俺魔法も剣も使う気ないから! スローライフを送りたいだけだから!)

完全にキャパオーバーになった俺は、助けを求めるように父親のカイゼンを振り返った。

だが、カイゼンは俺のその「左右の美少女を交互に見つめる視線」を、

『親父殿、魔法特化のエレノアお嬢様も、剣術特化のカレンお嬢様も、甲乙つけがたい素晴らしい逸材です。……私には選べません。いっそ両方とも我が家に迎え入れる準備を』

という**「将来の国家転覆を見据えた全取りの覇王のアイコンタクト」**だと完全に勘違いした。

「……フッ、アルの度量の深さには恐れ入るな。よかろう、公爵閣下、辺境伯閣下。我が息子はどちらのお嬢様も深く尊重している。まずは【許嫁候補】として、お二人ともアルの婚約者候補に指定させていただきたい!」

「「うむ、異論はない!」」

(待って。なんで2人とも内定しちゃうの!? 稟議書どうなってんの!? 有能な人材を一気に2人も囲い込んだら、俺の将来の残業確定じゃねえかァァァ!!!)

当事者のあずかり知らぬところで、魔法の天才・エレノアと、剣術の天才・カレンという、最強のツートップを両手に花で抱え込むことになった誠。

エレノアは「ふん、二人まとめて相手をしてあげるわ!」とツンとそっぽを向き、カレンは無言のまま「……よろしく」とだけ呟いて小さく一礼した。

チヤホヤされるどころか、五歳にして「将来の修羅場」と「国家最高戦力としての過労死ルート」のW内定を強制的にキメられた誠。

周囲の「さすがムルターシュ家の神童!」という大喝采の中で、中身おっさんのアルベルトは、前世の会社倒産時並みの絶望に包まれるのだった。

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