第七話:『五歳の鑑定の儀、全色(フルコンプ)の恐怖』
ついに、この日がやってきてしまった。
五歳の誕生日。それは、この国の貴族の子息にとって最も重要な**『鑑定の儀式』**が行われる日だ。
「アルベルト、緊張しているか? 大丈夫だ、どんな結果であれ、お前は私の自慢の息子だからな」
父親のカイゼンが、緊張した面持ちで俺の肩に手を置く。
その背後には、母リーゼ、そして手を合わせて祈るようなポーズをしているキャリー、なぜか涙ぐんでいるミーナ、親指を立ててウィンクしてくる庭師のゴードンが控えていた。使用人一同、総出で見守る一大イベントである。
(いや、親父殿、俺はミリも緊張してないよ。だって今日で『凡人確定ガチャ』を引いて、一生物のスローライフ(ニート権利)を手に入れるんだからな!)
この日のために、俺は5年間、血の滲むようなステルス訓練を重ねてきた。
この国の『鑑定の水晶』が判別できるのは、**「魔力のあるなし」と「適性のある属性」**の二つだけ。魔力量の多寡までは測定できない仕様だ。
(ふふふ、勝った。魔力の量はバレない。あとは水晶に魔力を通すときに、火とか水とか、どれか一つだけ『一般的な普通レベルの出力』でポチッと光らせればミッションコンプリートだ!)
部屋の中央には、仰々しい台座に載せられた、透明な大きな水晶玉が鎮座していた。
儀式を執り行うために王宮から派遣された鑑定魔導師が、厳かに告げる。
「では、アルベルト様。水晶に両手を触れ、ご自身の魔力を意識してみてください」
「あい!」
俺は三歳児の時よりも少し成長した、利発そうな五歳児の声を出し、トコトコと水晶へ近づいた。
両手をひんやりとした水晶に当てる。
(よし、いくぞ。前世の社畜時代、上司に提出する書類の数値を『ちょうどいい感じの無難な数字』に改ざんしてきた俺のスキルを見せてやる。属性は……そうだな、無難に【風属性】あたりを1ミリだけ——)
お腹の奥から、ほんの一滴の魔力を指先に集め、水晶へと流し込む。
ピカッ。
狙い通り、水晶の内部が淡い緑色に発光した。
(よし! 風属性点灯! 出力も最低限! これで俺は『風属性がちょっと使えるだけの、ごく普通の男の子』——)
そう確信した、次の瞬間だった。
ピカッ、ピカピカッ、ピキィィィン!!!
(……え?)
緑色に光っていた水晶が、突如として激しく明滅し始めた。
緑、赤(火)、青(水)、茶(土)、黄(雷)、白(光)、紫(闇)——あらゆる色彩が次々と、それも信じられないほどの眩い輝きで溢れ出していく。
(待て待て待て! なんだこれ!? 色が止まらない! カラフルすぎるだろ、クリスマスツリーか!?)
慌てて魔力の供給をストップしたが、時すでに遅し。
水晶は、すべての属性の光を同時に放ち、最終的に**『目も眩むような純白の輝き』**へと変化して固定された。
静寂が、部屋を支配した。
あまりの光量に、部屋にいた全員が目を手で覆い、呆然と立ち尽くしている。
この世界において、2属性や3属性の適性を持つ者は、天才肌の魔導師として時折生まれる。
だが、**【全属性】**となると話は別だ。それは建国神話に登場する、世界を救ったという『伝説の大魔導師』ただ一人しか存在しない、天災規模の超異常事態だった。
「ぜ、全……全属性……!? そ、そんな馬鹿な……神話の再来だ……!!」
王宮の鑑定魔導師が、ガタガタと震えながらその場にへたり込んだ。
「アルベルト……お前、やはり……」
父親のカイゼンが、驚愕のあまり声を震わせる。
彼の脳内で、これまでのすべての「点」が「線」へと繋がった。
生後7か月で魔力を隠したこと。一歳の時に部屋が水浸しになったこと。三歳の時に庭の植え込みが急に急成長したこと——。
(あの時、私が感じた『凡人の魔力』は、この子が完璧に私を欺くために施した偽装だったのだ……! 全属性を宿すほどの神童が、五歳になるまでその牙を完全に隠し、機を窺っていたというのか……!)
カイゼンの勘違い(評価)は、ついに宇宙の果てまで到達した。
「アルベルト坊ちゃま……! 私、信じておりましたわ……!」
キャリーが感動のあまり涙を流し、ミーナとゴードンは「俺たちの坊ちゃまは世界一だ!」と抱き合って大号泣している。
(違う。違うんだみんな、顔が怖い。なんでそんな『国を背負う英雄』を見るような目で俺を見るんだ。頼むからやめてくれ)
俺はただ、無難に「定時退社」したかっただけなのだ。
なのに、手元に残されたのは、偽装不可能な【伝説の大魔導師確定フラグ】。
(終わった……。俺の、俺のぬくぬくニート・スローライフ計画が、音を立てて崩壊していく……!)
五歳にして、将来の「超大型案件(国家最高戦力としての強制残業)」への就職が内定した誠は、純白に輝く水晶の前で、一人静かに絶望の涙を流すのだった。




