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第五話:『おっさん、完璧なステルス(隠密)生活を計画する』


「親父殿を完璧に騙しきった」あの日から、俺の生活方針は完全に固まった。

(異世界転生モノの定番といえば、幼少期にうっかり魔法でやらかして『神童』として祭り上げられ、そのまま国の兵器や義務教育に駆り出されるパターンだ。……そんなの、前世の強制残業ライフと何も変わらねえ!)

俺が求めているのは、定時退社、ひいては完全なるスローライフ(ニート生活)である。

そのためには、自分が「魔法を使えること」すら、周囲に絶対に悟られてはならない。

(目標は5歳で行われるという『鑑定の儀式』だ。貴族の子息はそこで魔力や適性を測られるらしい。それまでは、何が何でも『ごく普通の、ちょっと手のかからない凡才児』を演じきってやる……!)

元サラリーマンの計画性と徹底したリスク管理により、俺の「完璧なステルス生活」が始まった。

     *

それから、俺はめでたく1歳の誕生日を迎えた。

この頃になると二足歩行ができるようになり、言葉も少しずつ話せるようになっていたが、俺はあえて「普通」の基準を絶対に超えないように調整した。

歩くときはあえて数回よろけて見せ、言葉も「まんま」「ぱぱ」と、1歳児の平均値ど真ん中のクオリティを維持する。

(よしよし、メイドのキャリーも、母さんも『アルちゃんは元気に普通に育ってるわね』って安心してるな。計画通りだ)

そして肝心の魔力トレーニングだが、これも「絶対に外に漏らさない」方法を編み出した。

以前、キャリーに魔力を察知されそうになったのは、体外に魔力が漏れ出ていたからだ。

ならば、魔力を体外に出す『魔法』の実験は一切行わず、体の中だけで魔力を循環させる『内功』の訓練だけに特化すればいい。

(お腹の魔力を、血管に沿って指先まで持っていく。そして外に出さずに、今度は逆のルートで心臓、そしてお腹へと戻す……。よし、これで魔力の漏洩はゼロだ)

部屋に一人でいる時も、俺はベッドの上でただじっと座り、体内だけで魔力を限界まで練り上げる地味な特トレを繰り返した。

外から見れば、ただ「1歳児がぼーっと座って、睡魔と戦っている可愛い姿」にしか見えない。

「あらあら、アルベルト様。また座ったまま眠そうにされて、本当にのんびりした可愛い坊ちゃまですこと」

キャリーが微笑ましそうに俺を抱き上げる。

(ふふふ、騙されてるなキャリー。俺は今、前世のベテラン魔導師すら凌駕する密度で魔力を高速循環させてる真っ最中だぜ。抱っこされても1ミリも漏らしてないからな!)

     *

数日後、父親のカイゼンが定期的な「魔力探知(生存確認)」のために俺を抱き上げた時も、俺のステルス技術は完璧だった。

(お、親父殿の探知魔術が来たな。今回は焦らない。体内の魔力を完全に卵の殻のように硬く丸めて、お腹の底に沈める……)

カイゼンが俺を抱っこしながら、その体を優しく調べる。

だが、彼の高精度な探知魔術に引っかかったのは、「ごく平均的な、未成熟で微量な赤ん坊の魔力」だけだった。

「ふむ……。やはり、以前キャリーが感じたというのは何かの間違いだったか。アルの魔力は実に平穏だ。騎士や魔導師としての才能はなさそうだが、健康でいてくれればそれでいい」

カイゼンはそう言って、俺の頭を優しく撫でた。

(よしっ!! 親父殿の『才能なし(凡才)』の太鼓判、いただきましたぁぁぁ!!)

世界最強の魔導騎士である父親から「無能・凡才」認定を勝ち取った俺は、心の中で盛大にガッツポーズを決めた。これで5歳までは、誰にも邪魔されずにぬくぬくと英才教育(隠れて魔力トレ)ができる。

こうして誠は、一切のトラブルを起こすことなく、周囲から「おとなしくて平凡な、可愛い坊ちゃん」として愛される完璧なステルスライフを確立した。

中身の魔力が、すでに国家規模の化け物レベルにまで膨れ上がっていることなど、この時はまだ、両親も、メイドも、そして誠本人すらも、誰も気づいていなかったのである。

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