第四十一話『勝手に動く最強部隊と、完璧すぎる総指揮スルー』
「絶対に嫌だ!
なぜ弟子たちが勝手に強くなっただけで、
俺が学園対抗・魔導大演習の『総指揮官』に任命されなきゃならんのだ!」
王立アカデミーの部室に、俺の魂の絶叫が響き渡っていた。
デスクの上に置かれているのは、学園長から直々に届いた、真っ赤なワックスで封印された軍事指令書。
そこには『アルベルト学派の超人たちを率い、我が学園を勝利に導く総指揮を執られたし』と記されている。
「あきらめろ、アルベルト。
お前が渡した『放置マニュアル』のせいで、弟子たちが自主的にブレイクスルーを起こして最強の魔法部隊になってしまったんだ。
彼らを統率できるのは、その師であるお前しかいないと学園中が納得している」
マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、演習の広大なマップをデスクに広げた。
「対戦相手の他校も、お前の戦術を警戒して徹底的な対策を練ってきているらしい。
エレノアやカレンたちはお前の指示を今か今かと待っているぞ」
「最悪の重労働じゃないか!
いいかマルク、団体戦のマネジメントなんて仕事を舐めるなよ。
前世のサラリーマン時代、俺が最も恐れていたのは『炎上プロジェクトのプロジェクトマネージャー(PM)』だ。
チーム全体の進捗に目を配り、トラブルが起きれば全責任を押し付けられ、徹夜で火消しに走らされる……。
定時退社を愛する俺が、そんなデスマーチの指揮官なんて引き受けたら、一瞬で胃に穴が空く!」
平穏なスローライフと、自分の定時退社時間を死守するため、
俺の脳細胞は、前世のIT現場で学んだ「リーダーが何もしなくても現場が勝手に回る最強のタスク管理術」をフル稼働させた。
And then, I arrived at one ultimate management tool.
「よし、マルク。
こういう責任重大な総指揮を押し付けられた時は、
前世の優秀な開発チームが導入していた最強のフレームワーク……
『アジャイル開発(自律分散型チーム)』と『タスクの完全丸投げ』を執行する!」
「……ついに戦争ごっこの指揮すらもサボる気か?」
「人聞きが悪いな! 『現場への権限委譲』と言ってくれ。
いいか、無能な上司ほど現場に細かく口を出して混乱を招くんだ。
優秀なリーダーは、大まかなゴールだけを示して、あとは現場にすべてを丸投げする。
俺は今回の作戦計画書(仕様書)に、たった一言だけ書いて弟子たちに渡すんだ。
『各員の判断で、最も効率的にバグ(敵)を排除せよ。進捗報告は不要、結果のみをコミットせよ』とな!」
これなら、やる気に満ち溢れた天才弟子たちは、自分たちで勝手にミーティングをして、勝手に役割分担(タスク分割)を決めて動いてくれる。
俺は本番当日、本陣のテントで温かいココアでも飲みながら、一切の指示を出さずに座っているだけでいい!
マルクは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、呆れ果てた目で俺を見た。
「お前、その『自分が働かないための組織構築能力』だけは、本当に神がかっているな……」
そして迎えた、魔導大演習の当日。
広大な森林地帯を舞台に、各校の精鋭たちが激突する。
王立アカデミーの本陣テントでは、アルベルトがアームチェアに深く腰掛け、一切の通信魔道具を持たずに、静かに目を閉じていた。
その姿は、まるで戦況のすべてを予期しているかのような、圧倒的な絶対強者の風格(ただの思考放棄)を醸し出している。
一方、最前線。
「――アルベルト様からの作戦指示書は、これ一枚よ!」
エレノアが、誠が書いた「一言だけの仕様書」を厳かに掲げた。
そこには、殴り書きのような文字で『効率的にバグを排除せよ』とだけ書かれている。
それを見たカレンや他国のエリート弟子たちは、ハッと激しく目を見開いた。
「な、何という……何という絶対的な信頼、そして恐るべき高度な戦術指示かしら……!」
エレノアは感動に肩を震わせ、魔力を昂らせた。
「アルベルト様は……『敵の姑息な奇襲や陣形など、私の予測(仕様)の範疇にすら入らない。お前たちが培った最適化された力で、目の前の障害をただ処理してくればいい』と、そう仰っているのですわ!
我々の臨機応変な判断力を、ここまで信じてくださるなんて……!」
「ハッ! わかりました、アルベルト様!」
カレンが鋭く剣を抜き放ち、前線を見据えた。
「指示がないことこそが、最大の指示……!
敵の動きに合わせて、私たちが最も『効率的』だと判断したルートで、敵の本陣を物理的に粉砕します!」
「おおおお! 最高のリーダーシップだ!」
弟子たちは狂信的な歓声を上げ、一切の迷いなく自律的に動き出した。
他校の指揮官たちは、アルベルトがどんな複雑な陣形や計略を仕掛けてくるかと、何十パターンもの予測を立てて冷や汗を流していた。
しかし、アルベルトの部隊は「陣形」などハナから無視し、各個が最強の効率で、一番近い敵を容赦なく各個撃破していく。
「バ、バカな……! 統制された動きではないのに、なぜこれほど完璧に連携が取れているんだ!?」
敵の指揮官がパニックに陥る。
当然だ。誠のマニュアルによって「無駄な動作を極限まで削られた」天才たちが、お互いの動きを瞬時に補正しながら進むため、敵から見れば「完全に計算し尽くされた自律型マルチスレッド攻撃」にしか見えないのだ。
結果、演習開始からわずか数十分で、敵の防衛線は文字通り崩壊し、王立アカデミーの圧勝で幕を閉じた。
その日の夕方、王立アカデミーの部室。
「いや〜、今日のココアは美味しかったな。やっぱり何も命令を下さない指揮官っていうのは、コスパ最強の役職だよ」
俺はソファに寝転びながら、演習が無事に定時内で終わったことに深く満足していた。
「……なぁ、アルベルト」
戻ってきたマルクが、本日最高峰の、もはや人間を見る目ではない虚無の視線で俺を見下ろした。
「何だよマルク。完璧に勝利できただろ。
俺は一言も命令してないし、現場が勝手にアジャイル(自律駆動)してくれたおかげだ」
「お前がただ、マネジメントの責任を負うのが嫌で、
『適当にやって』って丸投げしただけなのに」
マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、国王陛下からの直筆の褒賞状をデスクに置いた。
「お前の『個人の能力を極限まで信じ、現場の判断力を最大化させる、次世代の分散型統御戦術』が軍部で大絶賛されて、
今度、国軍全体の『総司令官』への就任を打診されたんだけど、これどうするの?」
「なんでそうなるんだよおおお!!!」
前世の「アジャイル開発(丸投げ)」を
軍事演習に応用した結果、
なぜか現場のポテンシャルを100%引き出す「伝説の名将」として、さらに神格化されてしまった誠。
周囲からの評価は、
多くを語らず、部下の力を信じて勝利を掴み取る、孤高の天才指揮官。
しかし実態は、
「トラブルの全責任を負うPMなんて絶対にやりたくない」という一心で、
テントでココアを飲みながら完全に引きこもっていた、精神年齢だけがアラサーの十歳児二人組。
今日も今日とて、誠の全力のサボり術は、
周囲の超解釈によって、新たなる無敵の伝説へと書き換えられていくのだった。
✍️ 次回予告(第四十二話)
国軍総司令官のオファーから全力で逃げるため、
「今はまだ学生の身分であり、学業に専念すべきである」という鉄壁の言い訳を用意した誠。
「よし、これからは普通の生徒として、徹底的に影の薄いモブライフを送るぞ!」
しかし、その「あまりにも謙虚で私欲のない態度」を見た学園の生徒たちが、
「アルベルト様こそ、次代の学園を引っ張るべきお方だ!」と大感動し、
なぜか次期の『学園生徒会長』に推薦されてしまう!
「生徒会長!? 前世の『労働組合の執行委員』並みに、
サービス残業と雑務の塊のポジションじゃないか!」
絶対に会長の椅子(と終わらない書類仕事)を拒絶したい誠は、
前世の「選挙戦でワザと落選する技術(逆マーケティング)」を応用した、
最強の『落選マニュアル』を作成するが――!?




