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第四十話『天才たちを勝手に育てる、究極の弟子放置技術』


「絶対に嫌だ!

なぜ国際規格の書類を作っただけの俺が、

各国のエリート魔導師たちを『直弟子』として教育しなきゃならんのだ!」

王立アカデミーの部室に、俺の魂の絶叫が響き渡っていた。

デスクの上には、他国の名門貴族や魔法結社から届いた、

血判状並みに熱苦しい弟子入り志願書の山。

そのすべてに『アルベルト閣下の高潔なる指導を受け、真の魔導を究めたい』と書かれている。

「あきらめろ、アルベルト。

お前が監査を完璧なペーパーワークでねじ伏せたせいで、

『あのアルベルト総監の教育を受ければ、どんな凡夫も一瞬で超一流に育つ』と、

大陸中の天才たちが勘違いして押し寄せてきているんだ」

マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、

すでに門前に並んでいる志願者たちのリストを叩いた。

「さらに問題なのは、お前の幼馴染たちだ。

エレノアは『アルベルトの記念すべき直弟子第一号は私ですわ!』と息巻いているし、

カレンも『アルベルト様の背中を追い、剣と魔法の融合を学びます!』と

訓練場で素振りを始めているぞ」

「最悪の事態じゃないか!

いいかマルク、部下の教育(OJT)を舐めるなよ。

前世のサラリーマン時代、俺が最も嫌いだったのは『新人の実務教育担当』だ。

右も左もわからない後輩の手を引いて教え、

自分の作業時間は削られ、残業だけが増えていく……。

定時退社を愛する俺にとって、弟子を取るなんて

自らの手で過労死ロードを爆走するようなものだ!」

平穏なスローライフと大切な定時退社を守るため、

俺の脳細胞は、前世のIT企業で何度も使った

「教育コストを極限までゼロにするサボり技術」をフル稼働させた。

そして、一つの「放置型教育マニュアル」を完成させる。

「よし、マルク。

こういうやる気に満ち溢れた厄介な志願者が来た時は、

前世の優秀な先輩たちが使っていた最強の防衛策……

『セルフサービス(自己解決)化』と『マニュアルを渡して完全放置』を執行する」

「……ついに人間関係の教育すらも無人化するつもりか?」

「効率化と言ってくれ。

いいか、要するに、弟子たちが勝手に悩んで、

勝手に解決して、勝手に強くなって帰ればいいんだ。

俺はこれまでに作った、超難解で意味不明な『魔術の設計図(前世のスパゲッティコード風)』と、

一見深いことが書いてあるようで、中身が全くない『自己啓発用の抽象的なマニュアル』を束にして渡す。

そして言うんだ。

『これを読み解くまでは、私に話しかけるな。答えはすべてそこにある』とな!」

これなら、天才たちは勝手にその書類を解読しようと没頭し、

数ヶ月、あるいは数年は俺のところに質問に来なくなる。

俺はその間、部室で完璧にゴロゴロできるという寸法だ。

マルクは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、

言葉を失った目で俺を見た。

「お前、本当にいつか『不親切の極み』として

弟子たちに暴動を起こされるぞ……」

数日後。

学園の特別訓練場。

エレノア、カレン、そして他国から選抜された

超エリート魔導師の志願者たちが、緊張した面持ちで整列していた。

その前に、アームチェアに座った俺が、

やる気のカケラもない目で、分厚い「放置マニュアル」の束を放り出す。

「これが私の魔導の基礎だ。

いいか、この内容を【完全に理解し、実践できる】ようになるまで、

私への質問は一切禁ずる。

答えはすべて、その紙の中に書いてある。以上だ」

俺はそれだけ言うと、すっと立ち上がり、

「定時ですので」とだけ残して、部室へ昼寝をしに戻っていった。

残された天才たちは、ぽかんとした後、

震える手でそのマニュアルの1ページ目を開いた。

そこには、俺が前世のネットワーク構築図を適当に変換した

『無限魔力通信ポートの概念図』と、

『己のコアを最適化デフラグし、魔力のパケットロスを防ぐべし』という、

意味不明なサラリーマン用語が並んでいた。

「な、何という……何という神の領域の術式かしら……!」

エレノアが、感動のあまりその美しい瞳から大粒の涙をこぼした。

「アルベルトは、あえて私たちに手取り足取り教えないことで、

『自分の頭で思考し、魔力の無駄パケットロスを極限まで削ぎ落とせ』と

仰っているのですわ……!

この複雑に絡み合った数式スパゲッティコードは、

既存の魔法体系をすべて破壊し、再構築するための試練……!

ああ、アルベルトの愛の鞭が、これほど深く私の胸に刺さるなんて!」

カレンもまた、限界を超えて目を輝かせ、剣を構えた。

「わかりました、アルベルト様!

『デフラグ(余計な動作の削除)』ですね!

私の剣技にある、わずかなコンマ数秒の迷いをすべて削除し、

魔力の伝達を最適化しろという、至高の戦闘訓……!

私、寝る間も惜しんでこの図を体現してみせます!」

「おおお……! これぞ伝説の『無言の洗礼』か!」

他国のエリート魔導師たちも、狂信的な目で書類にしがみついた。

「安易な答えを求めず、己の限界を自力で突破させるための極限の教材!

アルベルト閣下は、我々をただの弟子ではなく、

自立した『一騎当千の魔導師』に育てるために、あえて突き放してくださったのだ!」

天才たちの脳内では、

誠の「質問対応がめんどくさいから作った、意味不明な放置用資料」が、

個人の潜在能力を極限まで覚醒させる「至高の自己啓発マニュアル」へと、

完璧に超解釈されていた。

結果、弟子たちは不眠不休でマニュアルの解読に挑み、

勝手に魔術のブレイクスルーを起こして、次々と超常の魔法を習得し始めたのだった。

一週間後、王立アカデミーの部室。

「ふぁ〜あ。今週は一回も弟子たちに話しかけられなかったな。

静かで最高に有意義な定時退社ウィークだったぞ」

俺はソファでゴロゴロしながら、

マルクが買ってきてくれた特製のお煎餅をパリパリとかじっていた。

「……なぁ、アルベルト」

部室のドアを開けて入ってきたマルクが、

本日最高峰の、もはや神仏を見るかのような虚無の目で俺を見下ろした。

「何だよマルク。完璧に弟子を放置できただろ。

これで俺の教育コストはゼロだ」

「お前がただ、新人の相手をするのが嫌で、

前世の難解なシステム用語を書いた紙を押し付けて逃げ出しただけなのに」

マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、

訓練場から届いた「成果報告書」をデスクに置いた。

「お前の『放置マニュアル』を解読しようと狂ったように修行した弟子たちが、

全員、従来の三倍以上の速度で上位魔法を習得して、

『アルベルト学派の超人集団』って呼ばれる最強の魔法部隊が爆誕したんだけど、これどうするの?」

「なんでそうなるんだよおおお!!!」

前世の「OJT放置技術マニュアルセルフサービス」を

異世界で応用した結果、

なぜか一瞬で天才たちを覚醒させる「大陸最高の神教官」として、

さらに神格化されてしまった誠。

周囲からの評価は、

甘えを許さず、自立の精神を叩き込む、寡黙にして最強の指導者。

しかし実態は、

「部下の教育なんて残業の温床だから一秒もやりたくない」という一心で、

お煎餅をかじりながら完全に引きこもっていた、精神年齢だけがアラサーの十歳児二人組。

今日も今日とて、誠の全力のサボり術は、

周囲の超解釈によって、無敵の教育伝説へと書き換えられていくのだった。

(第四十話・完)

✍️ 次回予告(第四十一話)

弟子たちが最強の「アルベルト学派」として名を馳せた結果、

彼らを率いる「総帥」として、ついに学園を代表する『学園対抗・魔導大演習』の総指揮官に任命されてしまう!

「総指揮!? 団体戦のマネジメントなんて、

前世の『デスマーチ中のプロジェクトマネージャー(PM)』並みに地獄だろ!

トラブルの全責任が俺に降ってくるじゃないか!」

絶対に指揮官としての重責(と残業)を背負いたくない誠は、

前世の「アジャイル開発」と「タスクの丸投げ(自律分散型チーム)」を応用した、

最強の『指揮権バックレマニュアル』を作成するが――!?

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