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第三十五話『押し寄せる工場長オファーと、社畜の不良品押し付けマニュアル』


「絶対に嫌だ!

なぜ文化祭で劇をサボっただけの俺が、

週七勤務・夜勤ありの『防衛ゴーレム生産工場長』に就任しなきゃならんのだ!」

記念祭が明けた翌週。

王立アカデミーの部室に、俺の悲痛な叫びが響き渡っていた。

デスクの上には、近隣の有力領主たちから届いた

分厚い推薦状と契約書の山。

そのすべてに『アルベルト様を我が領の最高製造責任者に』と書かれている。

「あきらめろ、アルベルト。

お前が文化祭で披露した、

『一切の無駄を省き、遠隔で自律人形を完璧に統制する技術』……

あれは軍事関係者や領主たちにとって、喉から手が出るほど欲しい超技術だ」

マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、

容赦なく現実を突きつけてきた。

「しかも、紹介状の中にはエレノアの実家である

ヴァレンシュタイン公爵家からのものもある。

『アルベルト様の生産管理能力を、ぜひ我が領の魔導鎧開発に活かしていただきたい。

夜勤用のふかふかベッドも用意しますわ!』とのことだ」

「エレノアのやつ、良かれと思って地獄のシフトを勧めてきやがったな!

いいかマルク、工場勤務の三交代制スリーシフトを舐めるなよ。

前世のブラックメーカー時代、生産ラインの調整で

自律神経を完全破壊された先輩を俺は何人も見てきた。

十歳の体に、あの徹夜のダメージは耐えられない!」

定時退社とスローライフを守るため、

俺の脳細胞は、前世の社畜サバイバル術を高速で検索し始めた。

引退間近の体に鞭打つ必要はない、この十歳のピチピチ(中身は元デスクワーク社畜)の胃腸と自律神経は、絶対に守り抜く。

そして、一つの「最悪にして最強のライフハック」にたどり着く。

「よし、マルク。

こういう厄介な仕事のオファーが殺到した時は、

前世のサラリーマンが使っていた究極の防衛策……

『不良品の他部署押し付け(パス・ザ・バック)』を発動する」

「……また他人に責任をなすりつける、最低の業務効率化だな?」

「人聞きが悪いな!

『適材適所の再配置』と言ってくれ。

いいか、この手のオファーをただ断ると角が立つ。

だから、『自分よりも適任で、かつ断りにくい巨大な相手』に書類をすべて転送パスするんだ」

俺はニヤリと笑い、

魔力を込めたペンを走らせた。

「宛先はすべて、隣国の『ルクレツィア王女殿下』だ。

『我が国の防衛技術の粋を集めたゴーレム工場長には、

先日、我が身代わり人形の一撃をその身で受け止め、

高度な魔力解析を行ったルクレツィア殿下こそがふさわしい。

彼女こそ、魔導製造業の最高顧問である』と推薦状を書いて、

全ての書類を添付して隣国大使館へ送る!」

ルクレツィアは先の記念祭で、

俺の操作ミスによる鋼鉄の右ストレート(物理)を至近距離で食らい、

恐怖でひざまずいたばかりだ。

「これなら角も立たない。

隣国の王女を名指しで『工場長』に推薦すれば、

うちの領主たちも手出しできなくなるし、

ルクレツィア側も『アルベルトからの直々の親書』を無視できず、

勝手に会議で頭を抱えてくれるはずだ!」

マルクは冷ややかな目で、俺の邪悪な推薦状を見つめた。

「お前、本当にいつか国際問題を起こして

裏路地で消されるぞ……」

数日後。

隣国・ロザリア王国の王宮。

ルクレツィア王女は、アルベルトから届いた

山のような「工場長推薦状」を前に、青ざめて震えていた。

「な、何という先手……!

何という底知れぬ智謀ですの、アルベルト様……!」

ルクレツィアは額の汗を拭い、

緊迫した表情で背後の側近たちを見上げた。

「アルベルト様は、私が文化祭で

彼の自律人形の戦闘スペックを盗み見ようとしていたことを見抜いていたのですわ。

だからこそ、あえて『お前が工場長をやれ』と、

我が国の最先端技術を彼の監視下に置くための、宣戦布告をしてこられたのです!」

「なんと……!

では、あの『不良品押し付けマニュアル』と書かれた書類は……!?」

側近が恐る恐る尋ねる。

それは誠が「適当な言い訳用」に添付した、

前世の『製造トラブル時のクレーム回避手順書』だった。

ルクレツィアは、その書類を震える手で掲げた。

「これこそ、彼が作った『完璧な罠の設計図』ですわ!

『初期不良を他国に押し付け、国際社会での優位性を保つための心理戦マニュアル』……!

これを我が国に送りつけることで、

『お前たちの悪巧みなど、すべてこのマニュアル通りに処理してやる』と

脅迫しているのです!

ああ、恐ろしい男……! 彼の前では、我が国の外交官など赤子同然ですわ!」

ルクレツィアの脳内では、

誠の「サボり用のたらい回し」が、

大陸を揺るがす「超弩級の外交威嚇カード」へと完全翻訳されていた。

結果、隣国は恐れおののき、

「我が国は、アルベルト様のゴーレム事業に一切の干渉をせず、

むしろ無償で資材を提供いたします!」

という、まさかの『全面降伏(技術支援)の誓約書』が学園に届いた。

「……なぁ、アルベルト」

部室で、届いた誓約書を読んだマルクが、

本日一番の、死んだ魚のような目で俺を見た。

「何だよマルク。

これで工場長にならなくて済んだだろ。定時退社万歳だ」

「お前がただ仕事をサボりたくて、

面倒な書類を隣国に丸投げしただけなのに」

マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、

静かにため息をついた。

「なぜか隣国が恐怖に平伏して、

我が国に最新の魔導資材をタダで献上してきた上に、

お前が『隣国の技術介入を書類一枚で防いだ、若き冷徹な外交の支配者』って

噂になってるんだけど、これどうするの?」

「なんでそうなるんだよおおお!!!」

前世の「他部署へのたらい回し」を

国家規模で応用した結果、

なぜか隣国を無血開城させ、

伝説の外交官として神格化されてしまった誠。

周囲からの評価は、

書類一枚で一国を震え上がらせる、孤高の天才策士。

しかし実態は、

「夜勤だけは絶対にやりたくない」という一心で、

必死に仕事を押し付け合っていた、精神年齢だけがアラサーの十歳児二人組。

今日も今日とて、誠の全力のサボり術は、

周囲の超解釈によって、無敵の英雄譚へと書き換えられていくのだった。


✍️ 次回予告(第三十六話)

隣国からの全面支援を取り付けたことにより、

ついに「アルベルト様の外交手腕を称える祝賀パーティー」が

王宮で開催されることに!

「パーティー!?

ただでさえデリケートな俺の胃袋は、もう脂っこい宮廷料理や、

中身のない社交辞令の会話に耐えられないんだよ!」

胃薬を片手に、参加を全力で拒否したい誠は、

前世の「忘年会スルー」と「架空の出張」を組み合わせた、

最強の『祝賀会バックレマニュアル』を作成するが――!?

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