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第三十三話『バカンスと、うっかりコストカットされた古代龍』


「ついに……ついに来たぞ、マルク!

俺たちの、待ちに待った『有給(夏休み)』だ!」

学園の長期休暇。

俺、アルベルト・フォン・ムルターシュは、

王都から遠く離れた山奥の避暑地にある、

我が家の別荘の庭で、天を仰いで叫んでいた。

「静かにしろよ、アルベルト。

近所迷惑だし、そんなに大声を出すと

また余計なフラグ(残業)が立つぞ」

隣で木陰のベンチに座り、

冷たい麦茶を優雅にすすっているのは、

お馴染みの相棒、マルクだ。

「何を言うんだマルク!

ここには、狂信的なエレノアも、

夜這いを狙うカレンも、あの重い王女もいない!

あるのは静寂と、豊かな自然。

そして、一ヶ月間完全に音信不通オフライン

サボり続けられる、極上のバカンスだけだ!」

「はいはい、よかったね。

僕も、お前の奇行に毎日ツッコミを入れる

激務から解放されて、本当に清々しいよ」

マルクは眼鏡をピシッと直すと、

これ以上ないほどリラックスした顔で

背もたれに体重を預けた。

二人は今、完全なる「サボりの聖域」にいた。

――はずだった。

同じ頃。

別荘の敷地の、ちょうど真下。

暗く冷たい、地下深くの巨大な空洞にて。

そこには、数千年にわたって封印されていた、

世界の終末をもたらすとされる伝説の魔獣、

古代龍アビス・ドラゴン』が眠っていた。

(おのれ……人間どもめ……。

我が封印の結界、あと少しで突破できる……。

この夏、我は復活し、

この地上のすべてを暗黒の炎で焼き尽くし、

真の絶望(ブラック労働)を教えてやるわ……!)

古代龍は、禍々しい暗黒の魔力を滾らせ、

封印の結界のヒビを、

内側からじわじわと押し広げていた。

あと一歩。

あとほんの少しの魔力の刺激が、

外側から加わるだけで、封印は完全に破壊され、

世界に終末デスマーチが訪れるはずだった。

そんな、本物の「世界の危機シリアス」が、

アルベルトの足元で今まさに、

秒読み段階を迎えていた。

地上の、別荘の庭。

「よし、サボる前の『環境整備(5S)』だ。

この、別荘の庭に生い茂った

雑草(リスクの芽)を一掃するぞ!」

俺は、袖をまくり上げて庭を見渡した。

さすがに一等地の別荘だけあって、

庭のあちこちに、見たこともないほど

生命力の強そうな、黒いトゲトゲした雑草が

びっしりと生い茂っている。

「手でむしるのは、面倒(コスト高)だな。

一網打尽にするための『除草剤』を作ろう」

俺は、前世の化学知識(※実家の物置の除草剤の成分)

を思い出しながら、自分のバグった魔力を

手元の一本のボトルへと注ぎ込んだ。

「ええっと、まずは植物の細胞壁を破壊する、

高濃度のアルカリ性魔力。

それから、根っこから再起不能にするための、

魔力吸収ブロックの術式。

仕上げに、二度と生えてこないように、

『この一帯の有害な生命反応を完全に消去する』、

高強度の滅菌コストカット魔術をブレンドして……」

隣でそれを見ていたマルクが、

持っていた麦茶のコップを落としそうになりながら、

凄まじい勢いで立ち上がった。

「おい、待て!!

お前、ただの草むしりに

何て恐ろしい魔術をブレンドしてるんだ!?

それ、除草剤(薬品)じゃなくて、

大地ごと生命を消滅させる、

超高密度の『質量破壊兵器デス・スペル』だろ!!」

「大げさだな、マルク。

ビジネス(サボり)において、

『徹底的な効率化』は基本中の基本だろ?」

俺はフッと笑うと、

完成した「ただの強力な除草剤(魔力液)」を、

庭の地面に向かって、勢いよくドバドバと散布した。

「いけっ!

スーパーウルトラ除草剤・定時退社スペシャル!」

ジューーーーーッ!!!

魔力液が地面に染み込んだ瞬間、

庭の雑草が、一瞬で光の塵となって蒸発した。

だが、それだけでは終わらなかった。

アルベルトの放った、

『有害な生命反応を根絶やしにする』という、

極限まで効率化されたバグ魔力。

それは、地面の土壌をあっさりと突き抜け、

そのまま、真っ直ぐ地下深くへと

染み込んで(浸透して)いった。

地下深くの、封印の間。

「ククク……!

あと一歩……あと一歩で、我は復活を――」

古代龍が、勝利を確信して咆哮しようとした、

まさにその瞬間。

天井の岩肌から、

ピチャリ、と一本の「透明な液体」が、

古代龍の、一番デリケートな脳天(逆鱗)へと

容赦なく滴り落ちた。

ジュワァァァァァッ!!!

「ギャ、ギャアアアアアアアッ!?!?

熱い! 痛い! 何だこの、

己の存在(魔力)そのものを

『不要なコスト』として強制消去してくる

冷徹極まりない概念魔術はァァァァ!!!」

古代龍の体から、

暗黒の魔力が、凄まじい速度で

「コストカット(除草)」されていく。

「ま、待て! 我は伝説の古代龍だぞ!?

世界の終末をもたらす、

もっとも高貴で恐ろしい――」

シュウウウウウ……。

「絶対の二者択一(除草)」の魔力を前に、

古代龍の抵抗など、ただの「しつこい雑草」

と同等でしかなかった。

古代龍は、一度も地上に姿を現すことなく、

おっさんの「草むしりめんどくさい」という

怠惰の結晶(除草剤)によって、

文字通り、分子レベルで綺麗に除草(消滅)されてしまった。

チーン……。

静まり返る地下空間に、

ただの「綺麗な空気」だけが残された。

地上の、別荘の庭。

「よし! 完璧に綺麗になったな!」

俺は、スッキリとした庭を見渡して

満足そうに汗(※一滴もかいていない)を拭った。

その直後。

地響きと共に、別荘の前に、

国家魔導騎士団の馬車が、もの凄い砂煙を上げて

キキーーーッ!と急停車した。

「アルベルト最高顧問!! ご無事ですか!!」

馬車から飛び出してきたのは、

先の戦いで洗脳が解け、今や誠の熱狂的な

ファン(秘書)となった、隣国の王女ルクレツィアだった。

「ルクレツィア様!?

なんでこんな静かな別荘に……」

俺が呆然とする中、彼女は涙を流して、

俺の両手をぎゅっと握りしめた。

「たった今、この地の底に封印されていた、

国を滅ぼすレベルの『古代龍』の魔力反応が、

完全に、一瞬で消滅いたしましたわ!

まさか、アルベルト様……!

貴方は、我が国に災厄をもたらす古代龍の復活を

事前に察知し、あえてこの別荘に『バカンス』

と称して罠を張り、

庭いじりをするフリをして、

地下の魔獣を、戦う前に完封コストカット

されたのですわね……!!」

「……え?」

「素晴らしいですわ!

これぞ、戦う前に勝つ、

究極の『安全衛生管理リスクマネジメント』!

やはり貴方は、世界の平和を裏で操る、

真の絶対支配者ですわ……!!」

(違う!! 俺はただ、

庭の草むしりがめんどくさくて、

強力な除草剤をまいただけなんだよおおお!!!)

冷や汗を滝のように流す俺の横で。

マルクが、もはや諦めの境地に達した顔で、

特製胃薬の瓶をそっと俺のポケットにねじ込んだ。

「……なぁ、アルベルト」

「何だよ、マルク……」

「お前さ、ただ自分の夏休みを

快適にゴロゴロ過ごしたかっただけの怠惰で、

『地上を一度も見ることなく、

草むしりのついでに除草された、

世界一哀れな伝説の龍』

を生み出したの、自覚ある?」

「なんでそうなるんだよおおお!!!」

おっさん誠の、サボるための「手抜き除草剤」が、

ついに世界の終末(古代龍)すらも

不要なゴミとして一瞬でゴミ箱へとコストカットしてしまった。

周囲からの評価は

「世界の危機を、バカンスのついでに解決する、

冷徹で絶対的な裏の支配者」、

しかし実態は、

「草むしりがめんどくさすぎて、

強力すぎる薬品を作って冷や汗を流している、

十歳児おっさん二人組」。

眩しい夏の太陽の下で、

誠の「命がけのバカンス」は、

さらに混沌としたホワイト(手抜き)の深淵へと、

サクサクと突き進んでいくのだった。


✍️ 次回予告(第三十四話)

バカンスから戻り、相変わらず

「いかにサボるか」だけを追求する誠。

そんな中、王立アカデミーに、

年に一度の【学園創立記念祭(文化祭)】

の季節がやってくる。

「アルベルト最高顧問!

我がクラスは、劇『白雪姫』を行いますわ!

当然、アルベルト様が【王子様】、

私が【お姫様】ですわね!」

と息巻くエレノア。

しかし、目立ちたくないおっさん誠は、

劇の手間と残業(練習時間)を削減するため、

前世の『代役システム(AI音声&影武者)』を導入するが――!?

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