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第三十二話『王都からの招集と、リモートワーク(魔導会議)』


「行かない。俺は絶対に王都の城なんか行かないぞ。マルク、学園長に『アルベルトは現在、原因不明の重い出社拒否(メンタル不調)に陥っているため、対面での面接は不可能です』と伝えてくれ」

中間考査の翌日。魔導管理委員会の部室で、俺は頑なにデスクの脚にしがみついていた。

国王陛下から届いた【国家最高効率化全権大臣・就任要請に付き、早急に王城へ出頭せよ】という命令書を前に、俺の社畜ゴーストが「それ、絶対に関わったら深夜残業確定のデスマーチ案件だぞ」と全力で警報を鳴らしていたからだ。

「往生際が悪いぞ、アルベルト。国王の招集を二連続でバックれたら、今度こそ不敬罪で僕らの首が飛ぶ」

マルクは冷徹に書類をトントンと揃え、いつもの特製胃薬の瓶を俺の前に置いた。

「お前が『マークシート』なんていう、採点業務を3分で終わらせるチートシステムを開発するからだ。国中の官僚たちが『あの神童を我が省に!』って血眼でヘッドハンティングに来てるんだよ。諦めて王都へ行って、社長(国王)に頭を下げてこい」

「嫌だ! そもそも王都まで馬車で片道三日だぞ!? 往復で一週間も通勤時間に取られたら、俺のプライベートなサボり時間が消滅するだろ!」

俺は冷や汗をダラダラ流しながら、前世のあの「快適だった引きこもり時代」の記憶を呼び覚ましていた。

そうだ。わざわざ対面で会議に出席するから、移動時間という名の「無駄なコスト」が発生するんだ。前世の令和の時代には、わざわざ会社に行かなくても、画面越しに仕事をする最強のシステムがあったじゃないか。

「……よし、マルク。王城へ行かずに、ここで『城の重鎮全員と会議』をするぞ。前世の秘技【りもーとわーく(魔導遠隔Web会議)】の執行だ!」

「……は? 遠隔会議だと?」

不審がるマルクの前に、俺は一対の『双方向通信の魔石』を取り出した。本来は一対一の通話に使う軍事用の魔導具だが、俺のバグった魔力で回路を並列に繋ぎ変え、部室の壁一面に「大きな光のスクリーン」を展開した。

「いいか、マルク。この画面越しに王都の会議室と回線(魔力)を繋ぐ。俺はここから一歩も動かず、パジャマ姿のまま画面越しに『大臣の件は、前向きに善処します(=何もしない)』とだけ言って、定時になったら一方的に回線を切断ミュートするんだ。これなら通勤時間はゼロ、サボり環境も100%維持できる!」

マルクは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、呆れ果てたため息をついた。

「国王陛下を相手に『画面越しでいいすか?』って引きこもりを決め込む十歳児……。お前、本当にいつか国家反逆罪で指名手配されるからな」

一方、王都の城・大作戦会議室。

そこには、国王陛下を筆頭に、王国の全財政を握る財務大臣、軍を統べる将軍、そして国家魔導師団の長といった、王国の最高権力者たちが居並んでいた。彼らは皆、学園から届いた「アルベルト君は遠隔魔術にて謁見を希望しております」という前代未聞の申し出に、眉をひそめていた。

「フン、いくらテロを阻止し、試験を大改革した神童とはいえ、国王陛下の召喚に画面越しで済ませようとは……。若輩者が、少々調子に乗っているのではないか?」

保守派の財務大臣が不機嫌そうに髭を揺らす。

だが、会議室の中央に設置された巨大な魔導スクリーンが起動し、アルベルトの姿が映し出された瞬間、その場の空気が一変した。

『――あ、あー。聞こえますか? マイク……じゃなくて、魔導音声の音量、大丈夫ですか?』

画面に映ったアルベルトは、王立アカデミーの自室(宿舎)のベッドの上に座り、なんと「上着だけ制服を着て、下半身はパジャマのズボン」という、前世のリモートワークのプロ特有の、極限までやる気のないスタイル(※画面には上半身しか映っていない)で、眠そうにハーブティーをすすっていた。

しかし、王都の重鎮たちの目(超解釈)には、その姿が全く違うものに映っていた。

「な……何という事だ……!」

国家魔導師団の長が、ガタガタと震えながら画面を凝視する。

「アルベルト殿は……王都へ赴く移動時間すらも『国家の損失(コスト無駄)』と切り捨て、学園の結界内から一歩も動かずに、これほど鮮明な多人数同時接続の通信魔術を維持しているというのか……! なんという合理性、なんという圧倒的な魔力制御……!」

さらに、財務大臣の目が、アルベルトの背後に映り込んでいる「部屋の景色」に釘付けになった。

アルベルトの後ろの棚には、彼がただ「取りやすいから」という理由で、適当な高さに乱雑に並べられた魔導書や、結界の魔石が置かれていた。だが、それが画面の画角に収まった瞬間、重鎮たちに衝撃が走る。

「ま、待て……! あの背後の魔石と書の配置……! 古代の幾何学魔術における『完璧な魔力還流の陣(黄金比)』ではないか!!」

財務大臣が机を叩いて立ち上がる。

「あえて自身のプライベートな空間を画面に映し出すことで、我々王都の官僚に対し、『私の周囲は、常に世界最高峰のセキュリティ(安全管理)で満たされている。お前たちのセキュリティなど、私の部屋の配置以下だ』と、無言で警告マウンティングしているのか……!!」

(違う!! ただ昨日片付けるのがめんどくさくて、棚に突っ込んだだけだ!!)

画面の向こうで、アルベルトが「(早く終わらせて寝たいな……)」と虚無の目で呟いた一言が、魔導マイクを通して会議室に響く。

「……そろそろ、本題アジェンダに入りましょうか。国家の予算削減の件ですが、やるべきことはシンプルです。無駄な書類と移動を無くし、全員が『定時(17時)』に帰る。それだけで、国家の魔力消費コストは半分になります」

「定時に……帰るだけで、国家の予算が半分に……!?」

国王陛下が、ハッと目を見開いた。

彼らの脳内では、アルベルトの「早くサボりたい」という怠惰なセリフが、**【国家の全官僚の労働時間を半分にし、業務を効率化させることで、余剰魔力をすべて有事の国防に回すという、神の国家戦略ワークライフバランス】**として、完璧なドミノ倒しのように超解釈されてしまったのだ。

「素晴らしい……! 素晴らしいぞアルベルト!!」国王陛下は画面に向かって激しく拍手を送った。「わざわざ城に来ずとも、この『りもーと魔導会議』だけで我々の意識をここまで改革してみせるとは! お前の言う通り、明日から我が国の全省庁で『定時退社』と『遠隔業務』を試験導入しよう! お前はそのまま、その完璧な部屋から我が国を遠隔で支配コンサルするが良い!」

『あ、はい。それでは定時ですので、これにて失礼します(ブツッ)』

ツーツーツー……。

アルベルトが「17時ジャスト」になった瞬間に、国王の言葉を遮って容赦なく回線(切断)をミュートした。

王都の会議室には、「なんと引き際の鮮やかな男だ……。1秒の無駄な残業すら許さない、本物の効率化の神だ……!」という、割れんばかりの感動の拍手がいつまでも響き渡っていた。

「――というわけで、なんか画面越しに適当に『定時で帰れば安上がりすよ』って言ったら、国王たちが大泣きして感動して、明日から国中の役人がリモートワークすることになったわ、マルク」

学園の部室。画面を切った俺は、ベッドの上でパジャマのズボンを引きずりながら、特製胃薬の瓶を握りしめて魂の抜けた顔をしていた。

「……なぁ、アルベルト」

隣で一部始終を見ていたマルクが、もはや神を見るような目……ではなく、本当に底辺の生物を見るような冷徹な目で俺を睨みつけていた。

「何だよ、マルク。上手くいっただろ。城に行かずに済んだし、これで俺のホワイト引きこもりライフは守られたじゃないか」

「あのさぁ、お前が画面の向こうで『あー、画面共有しますねー』とか言いながら、下半身パジャマのまま、おせんべいボリボリ食べてたの、僕全部横で見てたからね?」

マルクは眼鏡をピシッと押し上げ、容赦ない「格下げツッコミ」を叩き込んできた。

「何が神の国家戦略だよ。こいつ、王都に行くのがめんどくさすぎて、昨日部室で『画面越しに笑顔でウンウンって頷いておけば、社長なんて適当に誤魔化せるんだよ』って、前世の最悪な手抜きサボりテクニックを自慢してただろ。後ろの棚の配置も、お前が『片付けるのダルいから、とりあえず画面に映らない隅っこに全部押し込め!』って言って作った、ただの**『ゴミの山(汚部屋)』**だからね? 神格化するのをやめろ」

「マルク、声が大きい! 画面はもう切れてるけど、防音結界に響くから!」

「それを王都の重鎮たちが勝手に『なんて完璧な風水結界だ!』って脳内バグを起こして、国家の労働システムまで書き換え始めたんだよ。お前さ、ただ自分の部屋から一歩も出ずにサボりたかっただけの執念で、**『王国の全官僚をパジャマで遠隔支配する、画面の向こうの黒幕』**みたいなポジションに収まったの、自覚ある?」

(なんでそうなるんだよおおお!!! 俺はただの、家から出たくないだけのインドア派のおっさん(十歳児)なんだよおおお!!!)

前世の「Web会議の手抜きテクニック」を国家最高権力者たちにブチかました結果、まさかの国中の役人たちが「アルベルト様を見習って、我が省もパジャマで遠隔勤務だ!」と大流行し始め、国家規模の『パジャマ引きこもりDX大革命』を引き起こしてしまった誠。

「まぁ、いいさ。お前が国中をリモートワーク化してくれたおかげで、僕も明日から部室に来ずに、実家から通信魔石でツッコミを入れられるようになったしな。……明日からの在宅勤務、お互いカメラをオフにして泥のように寝ようぜ、最高顧問」

マルクが、もうどうにでもなれと言わんばかりの苦笑いを浮かべ、自分の分の胃薬の小瓶を俺の瓶とカチンと合わせ(乾杯し)た。

周囲からの評価は「部屋から一歩も動かずに国家の労働環境を大改革した、冷徹で合理的な画面の向こうの支配者」、しかし実態は「上だけ制服を着て、下はパジャマのまま、一秒でも早く二度寝するために国王の回線をブツ切りした十歳児おっさん二人組」。

通信の魔石が静かに明かりを消す中、誠の「在宅サボりライフ」は、ついに王国の全官僚を巻き込んだ、史上最大のホワイト(手抜き)業務へと侵食していくのだった。

✍️ 次回予告(第三十三話)

国中がリモートワークに沸く中、王立アカデミーに「夏休み(長期休暇)」の季節がやってくる。

「やったぜマルク! まとまった有給(夏休み)だ! 避暑地の別荘で、一ヶ月間完全に音信不通バカンスをキメてやる!」

しかし、誠が静かにサボろうと訪れた避暑地の村には、実は「伝説の古代龍(インフレの象徴)」が封印されていた。

誠が別荘の庭で「あー、草むしりめんどくさいな。この除草剤(強力な魔力)で一気に枯らすか」と放った適当な魔術が、地下の古代龍の頭頭を直撃し、戦う前に完全消滅コストカットさせてしまい――!?

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