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第二十九話『初めての有給休暇と、おしかけ福利厚生』


「ふはははは! 見ろよマルク、これが国王公認、国家の法律すら書き換えさせて勝ち取った、俺の記念すべきファースト『有給休暇』の申請書だ! 明日は一歩もベッドから出ずに、泥のように眠りこけてやるぜ!」

放課後。魔導管理委員会の部室で、俺は自分の名前が書かれた休暇届を天にかざし、前世の社畜時代にはあり得なかった「完全な自由」に打ち震えていた。

しかし、委員長のマルクは、机の上の書類を淡々と整理しながら、眼鏡の奥の目をこれ以上ないほど冷ややかに細めた。

「静かにしろよ、アルベルト最高顧問。国王陛下をハッタリで脅してむしり取った週休三日の初日だからって、そんなに浮かれるな。……それに、お前がホワイト化(手抜き)を推進しすぎたせいで、別の方向から『深刻な不具合バグ』が発生してるぞ」

「不具合?」

俺が首を傾げた、その瞬間。

バァン!!と、もはやお馴染みとなった勢いで部室の扉が開け放たれた。

入ってきたのは、金髪の縦ロールを激しく逆立て、今にも泣き出しそうな顔をしたエレノアだった。その背後には、相変わらず無表情のまま、なぜか手形を大きく広げたカレンが静かに控えている。

「アルベルト! 納得がいきませんわ! 明日、貴方が『ゆうきゅうきゅうか』とかいう謎の長期休暇を取って、一日中部屋に引きこもるとお聞きしましたわ! 最近の貴方は、学園のルールを綺麗にしすぎて、私に注意(お説教)すらしてくれませんのね……! 私に興味がなくなって、他国へ転職(亡命)する準備でも進めていらっしゃいますの!?」

(重い! 勘違いの方向性がめちゃくちゃ重い!!)

前世の社畜時代、有能すぎる総務部員がすべての手続きをオンライン化し、社内ルールを完璧に整備した結果、それまで毎日のように窓口へ文句を言いに来ていた他部署のお局さんから「最近冷たいじゃない、私に会いたくないの!?」と理不尽に詰め寄られたあの悪夢のデジャヴである。

「エレノア、落ち着け。これはただの休暇だ。他国へ行く予定なんてない」

俺が冷や汗を流しながら営業スマイルで宥めようとすると、カレンが一歩前に出た。

「……アルベルト、分かってる。……過労。……だから、私が明日はあなたの部屋に行って、一日中【福利厚生(お世話)】をする。……耳掃除、膝枕、添い寝、全部マニュアル通りに執行する」

「執行しなくていい!! 頼むから一人で寝かせてくれ!!」

俺が本気で拒絶すると、エレノアがハッと目を見開いた。

「カレン、抜け駆けは許しませんわ! アルベルトの『有休(聖域)』の安全管理は、我が風紀委員会が【安全衛生巡視】として全面的に監修させていただきますわ! 明日の朝一番に、特製のお弁当を持って貴方の部屋へ押し掛け……いえ、パトロールに伺いますわ!」

(俺の、俺の完全な引きこもりサボりライフが、ヒロインたちのおしかけ福利厚生デートによって丸潰れにされる――!?)

明日を逃せば、また次の出社(登校)が始まってしまう。それだけは絶対に阻止せねばならない。

俺はゴクリと唾を呑み、前世の「厄介なクレーマーを言葉巧みに別の場所に誘導する」という、大人のビジネススキルを発動させることにした。

「――待ってくれ、二人とも」

俺はフッと目を伏せ、いかにも『すべてを見通した、冷徹な最高顧問』としての重々しいトーンで語りかけた。

「君たちのその熱い福利厚生(気遣い)には感謝する。だが、今回の私の有休には、実はもう一つの『極秘任務』が含まれているんだ」

「極秘、任務……?」エレノアが息を呑む。

「ああ。私が明日、一日中部屋に引きこもるのは、先のテロ組織が遺した魔力の残滓が、私の部屋の結界に影響を及ぼしていないかを『24時間体制で監視(要するにゴロゴロするだけ)』するためだ。もし、君たちが不用意に私の部屋に立ち入れば、その微細な魔力の揺らぎによって、監視データ(睡眠時間)がすべて狂ってしまう」

俺はマルクに目配せをした。マルクは(またその場しのぎの嘘を……)という顔をしつつも、完璧なコンビネーションでツッコミ気味のアシストを入れてくれた。

「その通りだよ」マルクが眼鏡をキリッと押し上げる。「アルベルト顧問の部屋は、現在『立ち入り禁止の実験区域(ただの汚部屋)』だ。二人が行くべきなのはそこじゃない。……本当にアルベルトを助けたいなら、明日一日、学園の防衛線の巡回を強化して、こいつが安心して引きこもれる環境(静寂)を外側から守るべきだろ」

(よし! 完璧な役割分担アウトソーシングだ! 二人には学園のパトロールを押し付け、俺は内側から鍵をかけて100%サボる!)

俺たちの「もっともらしい建前(お断り)」を聞いたエレノアとカレンは、一瞬の静寂の後、ハッと同時に目を見開いた。その脳内(超解釈)では――。

「な……なんという事ですの……!」

エレノアは感動のあまり、頬を赤く染めて身震いした。

「アルベルト……貴方はお休みの日でさえ、私たちの見えないところで一人、国難の残滓と戦っていらっしゃったのですわね……! それを私たちは、自分の寂しさだけで邪魔をしようとするなんて……! わかりましたわ! 明日は我が風紀委員会の全戦力を以て、学園の外郭を完璧に封鎖パトロールし、貴方の戦い(睡眠)を絶対に邪魔させませんわ!」

「……アルベルト、尊い。……一人で結界を維持するなんて、健気。……明日、誰もあなたの部屋に近づけないよう、私がドアの前に『肉体の障壁(仁王立ち)』として24時間警備する」

「いや、ドアの前にも来ないで!! 遠くで見守ってて!!」

なんとか二人の「おしかけ」を学園の警備へと誘導し(超解釈させ)、ヤル気に満ち溢れたヒロインたちを見送った。

嵐が去った部室。

俺はドサリと椅子に座り、特製胃薬の瓶を握りしめて深くため息をついた。

「……なぁ、アルベルト」隣で腕を組んでいたマルクが、もはや呆れを通り越して、哀れみの目で俺を見た。

「何だよ、マルク。上手くいっただろ。これで明日は誰にも邪魔されずに、ベッドの中で有給を満喫できるぞ」

「お前さ、自分の引きこもりを正当化するために、**『学園の二大美少女を、自分の部屋を聖域として崇めるガチの衛兵ガードマン』**に仕立て上げたの、自覚ある?」

「……え?」

「お前が『24時間監視してる』なんて嘘をついたせいで、エレノアたちは『アルベルト様が命がけで部屋に引きこもっている……!』って超解釈したんだよ。明日、お前が部屋の中でちょっと寝返りを打ってベッドのギシッて音が響いただけで、ドアの外の防衛線が『アルベルト様が敵と交戦されているぞ!!』って大騒ぎして、一斉に攻撃魔法で壁ごと粉砕されると思うよ」

(なんでそうなるんだよおおお!!! 一ミリも寝返りすら打てない、超緊迫した有給休暇になっちゃったじゃねえかアアアア!!!)

前世の「厄介クレーマー対応(お断りの建前)」を応用した結果、自分の部屋の周りに無敵の軍隊(メンヘラ衛兵)を配置してしまい、逆に一歩も身動きが取れなくなってしまった誠。

周囲からの評価は「休日すらも国家の防衛のために引きこもる、孤高の若き天才」、しかし実態は「明日、ベッドの中でオナラ一つ音を立てたら部屋ごと爆破されるんじゃないかと、恐怖でガタガタ震えている十歳児おっさん二人組」。

静まり返る部室の中で、誠の「初めての有給休暇」は、世界で最も息苦しい『絶対安全(という名の軟禁状態)』の中で、静かに幕を開けようとしていた。

✍️ 次回予告(第三十話)

息を潜めるようにして「有給休暇(軟禁生活)」を終え、逆に精神的にボロボロになって登校してきた誠。

そんな彼の元に、今度は『王立アカデミー』の最高権力者である学園長から、直々の「特命」が下る。

「アルベルト君、近々我が校に、他国の『超VIPな留学生(王族)』が来ることになった。ついては、君のその完璧なマニュアルで、彼女の【おもてなし(安全管理)】の総責任者を務めてほしい」

絶対に目立ちたくない、これ以上の顧客対応(VIP接待)は御免被りたいおっさん誠、前世の「めんどくさい取引先の接待マニュアル」を引っ提げ、異世界の王族を相手に、適当な手抜きおもてなしを仕掛けることになり……!?

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