第二十八話『国王からの召喚状と、おっさんの転職活動』
「無理だマルク、俺の人生はここでチェックメイトだ。ついに『本社の社長(国王陛下)』から直接、呼び出し状(実質の赤紙)が届いちまった……!」
放課後。魔導管理委員会の部室で、俺は金縁の豪華な手紙を両手で震わせながら、絶望の声をあげていた。
手紙には【先の合同演習におけるテロ討伐の功績を称え、城にて謁見を賜る。追って、国家最高安全顧問の就任について打診する】と書かれている。
「完全に終わったな、アルベルト最高顧問」
マルクは冷徹に書類を整理しながら、もはや職人のような手つきで胃薬を煽った。
「国家最高安全顧問なんて言ったら、週休ゼロ日、24時間体制で王国の有事に呼び出される最高峰のブラックポストだぞ。お前がサボるためにテロリストを完封なんてするから、社長直々にヘッドハンティングされる羽目になるんだ」
「そんなこと言ったって、あの時は爆発されたら定時退社が潰れるから必死だったんだよ!」
頭を抱え、冷や汗をダラダラと流す。
普通の十歳児貴族なら、国王からの直々のオファーに狂喜乱舞するところだろう。だが、俺の中身は三十代のプロ社畜だ。名誉ばかり重くて、プライベート(サボり時間)が1ミクロンも残らないような役職など、絶対に御免被る。
しかし、断れば不敬罪でお家断絶のリスクすらある。
追い詰められた俺の脳内に、前世で何度も見てきた、あの「優秀な中間管理職の生存戦略」が電撃のように閃いた。
(……待てよ? 会社(国家)がどうしても俺を囲い込みたいのなら、これを逆手にとって『転職活動』のフリをすればいいんじゃないか?)
「マルク。俺、これから城に行って『転職の条件交渉(キャリアアップ面接)』をしてくる」
「は? お前、国王相手に何言ってるんだ?」
「いいか、マルク。前世のビジネスにおいて、他社から高待遇のオファーが来ている優秀な人材は、現職に対して『今の条件を改善してくれないなら、他所に移りますよ?』という強い交渉権を持てるんだ。俺は国王陛下に『国家顧問を引き受けてもいいですが、その代わり週休三日、残業ゼロ、学園での完全なサボり権を保証してください』と、強気の条件を突きつけてやる……!」
マルクは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、完全に憐れみの目を俺に向けた。
「……国王陛下を相手に、有給と定時退社の交渉をする十歳児。お前、本当にいつか処刑されるぞ」
翌日、王城のきらびやかな謁見の間。
赤い絨毯の先には、王国の絶対権力者である国王陛下が威厳たっぷりに玉座に腰掛けていた。周囲には、我がムルターシュ家の家長である親父や、軍の重鎮たちがズラリと並び、重苦しいプレッシャーを放っている。
「よくぞ参った、アルベルト・フォン・ムルターシュよ。中等部の一年生でありながら、テロ組織の陰謀を書類一枚で未然に防いだというその智慧、実に見事である」
国王の低く響く声が、謁見の間を支配する。
「これほどの器、学園に留めておくのは国家の損失だ。どうだアルベルト、今すぐ我が直属の『国家最高安全顧問』となり、その類稀なる管理術で我が国を導く気はないか?」
親父が背後で「光栄の至り!」と言わんばかりに目を輝かせ、重鎮たちも「新時代の神童が、ついに国の中枢へ……!」と固唾を呑んで見守っている。
(よし、ここだ。前世の『強気な転職エージェント』になりきれ、俺……!)
俺は一歩前に出ると、前世の役員面接で培った完璧な姿勢と、凛とした通る声で告げた。
「――恐れながら、国王陛下。拝命にあたり、私から国家の労働環境……いえ、防衛体制の持続可能性について、いくつかの『最低条件』を提示させていただきたく存じます」
「条件、だと……?」
謁見の間が、一瞬で凍りついた。国王を相手に、十歳の子供が「条件を突きつける」など、前代未聞の不敬だからだ。
しかし、俺は動じない。懐から、マルクと徹夜で推敲した『労働条件要求書(ただのサボり要望)』を取り出し、堂々と読み上げた。
「一、私の着任は、学園卒業後とすること。それまでは『学園内での防衛マニュアル策定(引きこもり)』を最優先とする」
「二、国家顧問としての業務は、週に最大4日までとし、定時(17時)以降の緊急呼び出しは、原則として『事前承認なき場合は対応不可』とすること」
「三、私に、独自の『有休(完全な休息日)』の設定権限を与えること。これらが満たされない場合、私は我がムルターシュ家の領地に引きこもり、一切の国家業務をボイコット……いえ、お祈りさせていただきます」
(どうだ! ここまで生意気で、我がままで、やる気のない条件を突きつければ、さすがの国王も『こいつは面倒な奴だ、やっぱり顧問にするのはやめよう』と、白紙撤回(お祈り)してくれるはずだ!)
俺が完璧な「お断り(ハッタリ)」をキメて、心の中でガッツポーズをした、その瞬間。
謁見の間にいた国王、そして重鎮たちの顔が、驚愕と感動のあまり、ハッと同時に見開かれた。彼らの脳内(超解釈)では――。
「な……なんという事だ……!」
国王陛下が、震える手で玉座の肘掛けを掴んだ。
「アルベルト……お前は、目先の名誉や権力に一切惑わされず、国家の最高顧問という激務によって己の『魔力の研鑽(学園生活)』が疎かになるリスクを、これほど冷徹に見抜いていたというのか……!」
「……え?」
軍の団長も、涙を流して深く深く頷いた。
「しかも、あえて『週4日勤務』や『定時での業務終了』を突きつけることで、周囲の官僚たちに『徹底的な時間管理と業務の効率化』を促す手本になろうとしている……! 休息を戦略的に取り入れることで、常に100%のパフォーマンスを発揮する……これぞ、新時代の『持続可能な国家防衛』の境地だ……!!」
(違う! 17時以降は家でアニメ見たりゴロゴロしたいだけなんだよ!!)
「素晴らしい! 素晴らしいぞ、アルベルト!」国王陛下は立ち上がり、激しく拍手を送った。「その傲慢なまでの絶対的な自信、まさに国家を背負うにふさわしい器だ! お前が提示した条件(サボり環境)、すべて無条件で受け入れよう! お前は卒業まで学園で存分に引きこもり、完璧なマニュアルを完成させるが良い!」
「は、はぁ……。ありがたき幸せ……(なんで交渉成立しちゃったのぉぉぉ!?)」
こうして、俺は「条件を吊り上げてお断りする」という前世の転職テクニックを使った結果、なぜか**『国王公認で、週休三日と定時退社を法律で保障された無敵の国家顧問』**という、前代未聞の超絶ホワイト特権階級に就任してしまったのだった。
謁見が終わり、学園へと戻る馬車の中。
俺は座席に崩れ落ち、特製胃薬の瓶を握りしめながら、魂の抜けた顔で天井を見上げていた。
「……なぁ、アルベルト」
隣に座る相棒のマルクが、もはや畏怖を通り越して、ゴミを見るような冷ややかな目で俺を睨みつけていた。
「何だよ、マルク……。俺、一応『週休三日』と『残業ゼロ』を国王に認めさせたんだぞ。これで俺たちのホワイトサボりライフは約束されたじゃないか」
「あのさぁ、全員ちょっと落ち着いてお前の行動を振り返ってみてほしいんだけど」
マルクは眼鏡をピシッと押し上げると、容赦ない「格下げツッコミ」を叩き込んできた。
「何が持続可能な国家防衛だよ。こいつ、昨日部室で『うわぁぁん国王怖いよぉ、行きたくないよぉ!』って僕の制服の袖で涙と鼻水拭きながら暴れてただろ。この要求書も、お前が『これくらい無茶な条件出せば、向こうから勝手に不採用にしてくれるはずだ』って、ただビビってバックれようとしただけの、最低の就職拒否マニュアルだからね?」
「マルク、声が大きい、声が大きい!」
「それを国王陛下たちが勝手に『なんて最先端の戦略的休息だ!』って脳内バグを起こして、法律まで書き換えてお前を特別扱いし始めたんだよ。お前さ、サボるためのキャリア交渉のついでに、**『王国の全貴族の中で、最も働かずに最も高い権力を持つ、合法的なニートの神』**みたいなポジションに収まったの、自覚ある?」
(なんでそうなるんだよおおお!!! 俺はただの、一介の平社員(十歳児)として静かにサボりたかっただけなんだよおおお!!!)
前世の「強気な転職活動(お断りのハッタリ)」を国王相手にブチかました結果、まさかの条件が100%丸呑みされ、国家公認の「合法的なホワイト最高権力者」へと上り詰めてしまった誠。
「まぁ、いいさ。お前が『週休三日』を勝ち取ったおかげで、僕の書類仕事のデッドラインも大幅に緩和された。……明日からの有給、お互い泥のように寝て過ごそうぜ、最高顧問」
マルクが、もう手遅れだと言わんばかりの苦笑いを浮かべ、自分の分の胃薬の小瓶を俺の瓶とカチンと合わせ(乾杯し)た。
周囲からの評価は「国家の未来を100年先まで見据える、冷徹で合理的な若き天才」、しかし実態は「国王をハッタリで脅して、週休三日と定時退社をむしり取った十歳児おっさん二人組」。
王都の夕日に照らされながら、誠の「サボるための社内政治」は、ついに国家の法律すらもホワイト化(手抜き化)させていくのだった。
✍️ 次回予告(第二十九話)
国王から「週休三日」の特権をむしり取り、名実ともに学園の「サボりの覇王」となった誠。
しかし、そんな彼の快適な有給休暇(引きこもり生活)を阻む、新たなる刺客が現れる。
それは、誠がホワイト化しすぎたせいで「最近、アルベルトが冷たい……私に興味がなくなってしまったのですわ!?」と重度のメンヘラ(勘違い)をこじらせたエレノアと、誠の部屋への夜這いを画策するカレンだった。
「アルベルト最高顧問! 貴方の有休(お休み)、我が風紀委員会が『安全巡視』として全面的に監修させていただきますわ!」
おっさん誠、せっかく勝ち取った有給休暇を、ヒロインたちの「過剰な福利厚生」によって丸潰れにされそうになり――!?




