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第二十四話『ホワイト化の弊害と、他部署からのクレーム』


「アルベルト! 責任を取りなさい! 貴方のせいで、我が風紀委員会の存在意義が危ういですわ!」

放課後、魔導管理委員会の部室。

完全定時退社をキメて寮へ帰ろうとしていた俺とマルクの前に、お馴染みの金髪縦ロール――エレノア・フォン・ヴァルハイト公爵令嬢が、怒髪天を突く勢いで乗り込んできた。

「おいおい、エレノア。大声を出すな、ここは『安全第一・静粛第一』の魔導管理委員会だぞ。それに、俺たちは今ちょうど業務終了(定時)のチャイムが鳴ったから帰るところだ」

俺が前世のベテラン平社員のごとく鞄を肩にかけようとすると、エレノアは机をバン!と叩いて、涙目で訴えてきた。

「その『定時』が問題なのですわ! アルベルト、貴方が昨日、国軍の偉い方々を巻き込んで学園内に【5S】とかいう規律を徹底させたせいで……学園中の生徒たちが、怯えたように5分前行動をし、格納庫や廊下をピカピカに掃除し、不審な魔力暴発もゼロになってしまいましたわ!」

「……え、めちゃくちゃ良いことじゃないか?」

隣でマルクが「本当だよ。おかげで僕たちの書類仕事も減った」と胃薬を飲みながら頷く。

「良くありませんわ!」エレノアは悔しそうに地団駄を踏んだ。

「我が『風紀委員会』は、学園の風紀の乱れを取り締まるのが仕事ですの! なのに、全員が規律を遵守しすぎて、取り締まるべき案件が今日一日で『ゼロ』! 違反者が一人もいませんのよ!? 風紀委員の生徒たちがみんな『やることがありませんわ……』『定時で帰るしかありません……』と、暇を持て余して泣いていますわ!」

(ホワイト化しすぎて他部署の仕事(残業)を奪ってしまっただと……!?)

前世の社畜時代、有能すぎるIT部門が業務システムを自動化したせいで、手作業で書類をパチパチ叩いていた他部署のお局さんたちから「私たちの仕事を奪う気!?」と理不尽なクレームをつけられたあの悪夢がよみがえる。

「なるほどね」マルクが眼鏡の位置を直し、冷静に分析を始めた。

「風紀委員会は、実績を上げて内申点を稼ぎたい上位貴族の子息が多いからな。仕事がない=存在価値がない、と焦っているわけだ。……どうする、最高顧問? これ、ビジネス(社内政治)で言うところの『セクショナリズム(部署間の対立)』だよ」

(うわぁ……一番面倒くさいやつだ。ここでエレノアたちを放置すると、彼女たちのフラストレーションが爆発して、俺のサボりライフ(定時退社)の邪魔をされるリスクがある。顧客満足度(CS)を向上させ、他部署に『新しい無害な仕事』を発注して丸く収めるしかない!)

俺はフッと目を伏せ、前世の「クレーム対応専門のベテラン相談役」のような、極めて落ち着いたトーンで口を開いた。

「――エレノア。君の言いたいことは分かった。風紀委員会の熱いパッション(労働意欲)を無駄にしてしまったことは、我々の『過剰な業務効率化』の弊害だ。お詫びする」

「……あ、あら? 素直に謝るなんて、珍しいですわね」

エレノアが毒気を抜かれたように、パチパチと青い目を見開く。

「そこでだ、エレノア。君たち風紀委員会に、我が魔導管理委員会から、国家規模の『新規事業アウトソーシング』を発注したい」

「新規、事業……?」

「ああ。これからは、違反者を取り締まる『攻めの風紀』ではなく、学園の安全環境を維持する『守りの風紀』……前世の言葉で言うなら【パトロール(安全衛生巡視)】にシフトするんだ」

俺は即座に白紙の羊皮紙を取り出すと、前世の工場で使われていた『安全巡視チェックリスト』をスラスラと書き殴った。

『一、廊下に私物が放置されていないか(5Sの確認)』

『二、魔導具の保管場所に、湿気や直射日光がないか』

『三、生徒たちがメンタルの不調(過労)を訴えていないか』

「これを風紀委員の皆さんに配り、放課後に学園中を巡回してチェックシートを埋めてもらう。もし不備があれば、我が魔導管理委員会に報告書として提出するんだ。……どうだ? これなら、学園の平和を守るという風紀委員会のプライドも保たれ、仕事(残業)もたっぷり作れるぞ」

(よし! これでエレノアたちには『安全巡視』という無害なパトロール仕事を押し付け、俺たちは上がってきたチェックシートを眺めるだけで『仕事してる感』を出せる! 完璧なWin-Winの関係だ!)

俺の「完璧な代替案(大人の妥協点)」を聞いたエレノアは、そのチェックシートを震える手で受け取り、ハッと目を見開いた。その脳内(超解釈)では――。

「な……なんという事ですの……!」

エレノアは感動のあまり、胸元を押さえて戦慄した。

「アルベルト……貴方はわざと学園を一度ホワイト化させ、旧時代の風紀委員会を解体したのですわね。そして、この『チェックシート』という名の【絶対的な管理網】を用いて、我が風紀委員会を貴方の『直属の目(監査組織)』として再編しようというのですわ……! 違反者を探すのではなく、違反が起きない世界を私に管理させるなんて、なんてスケールの大きな男……!」

(違う! ただのルーティンワーク(暇潰し)を与えただけだ!!)

「分かりましたわ、アルベルト!」エレノアは頬を紅潮させ、チェックシートを大事そうに抱きしめた。

「我が風紀委員会は、これより貴方の提唱する『安全衛生巡視』を全面的に執行いたします! 貴方の理想とする完璧な学園ユートピアの構築、私が右腕として支えてみせますわ!」

「あ、うん。よろしく(これで明日からも定時で帰れるな)」

嵐のようなクレームを完璧に捌き(超解釈させ)、エレノアが満足げに部室を去っていくのを見送った。

静まり返る部室。

俺はドサリと椅子に座り、深くため息をついた。

「……アルベルト」隣でマルクが、もはや神の領域に達したような呆れ顔で、俺のポケットに特製胃薬の瓶をねじ込んできた。

「何だ、マルク。上手くいっただろ。クレームも解決したし、風紀委員会とも業務提携アライアンスを結べたぞ」

「お前さ、他部署のクレームを捌くついでに、**『学園の最大勢力である風紀委員会を完全に私兵化(直属の部下化)した』**の、自覚ある?」

「……え?」

「お前が『チェックシートを提出しろ』って言ったせいで、エレノアは『これからは毎日、アルベルトに放課後の活動報告デートができる……!』って超解釈して部屋を出て行ったぞ。明日から、お前のデスク、風紀委員会からの愛の籠もった報告書で山積みになると思うよ」

(なんでそうなるんだよおおお!!! 報告書を確認する仕事(残業)が増えたじゃねえか!!!)

前世の「クレーム対応(御用聞き)」の技術を応用した結果、他部署の美少女たちを自分の直属の監査部隊へと変貌させ、さらに自身の包囲網をブラック化させてしまった誠。

周囲からの評価は「他組織をも一瞬で掌握する冷徹な支配者」、しかし実態は「サボるために発注した仕事がブーメランとなって残業を増やす十歳児おっさん二人組」。

部室の窓から差し込む夕日の中、誠の「サボるための社内政治」は、さらに歪んだ方向へと拡大していくのだった。

✍️ 次回予告(第二十五話)

風紀委員会をも巻き込み、学園の「安全管理体制」を完全に掌握した誠。

しかし、そんな彼のホワイト改革に、ついに『本物のブラックな闇』が牙をむく。

学園の地下深く、長年封印されていたはずの『禁忌の魔導具』が、誠たちの過剰な5S(大掃除)のせいでうっかり発掘されてしまい、周囲の魔力を吸い取って暴走を始めてしまったのだ。

「誰ですか、こんな危険物を定位置アドレス以外に放置した不届き者は! 労災事故になる前に撤去コストカットします!」

最強のサボり魔おっさん誠、ついに学園の危機(定時退社の最大の敵)に本気でブチギレて――!?

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