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第二十話『放課後の委員会決めと、押し付けられた役職』


初日の授業がすべて終わり、待ちに待った放課後。

しかし、俺たちSクラスの生徒は誰一人として席を立っていなかった。

なぜなら、教壇の前で鬼担任のコーデリア先生が、腕を組んで冷徹な視線をこちらに送っているからだ。

「これより、中等部で一年間活動してもらう『専門委員会』の選出を行う。我がSクラスの生徒たるもの、学園の模範となる委員会に所属し、責任を果たすように」

(出たな、サービス残業の押し付け合い……!)

前世の社畜時代、誰もやりたがらない「社内美化委員」や「忘年会幹事」の擦り付け合いに何度も身を投じてきた俺にとって、この空気は非常に馴染み深く、そして心底ヘドが出るものだった。

黒板には、いくつかの委員会名が並べられている。

『風紀委員会』『魔導管理委員会』『行事実行委員会』……どれも文字を見るだけで目眩がするほど激務そうなブラック部署ばかりだ。

(絶対に嫌だ。放課後は一秒でも早く帰って定時退社サボりをキメるんだ。俺が狙うべきは、ただ一つ。名前だけで中身がスカスカの『名ばかりホワイト委員会』だ……!)

俺が鋭い目で黒板を凝視していると、隣の席のマルクがボソリと声をかけてきた。

「おい、アルベルト。目が血走ってるぞ。どの重要委員会に立候補して学園を支配するつもりだ?」

「バカ言えマルク。俺が狙うのは一番下の隅っこにある、あの『図書整理委員会』だ。あそこなら放課後に静かに本を読んでるだけで『業務(仕事)』が終わる。最高の完全週休二日制、残業ゼロのホワイト職場だぞ」

マルクは眼鏡の位置を直しながら、「なるほど、徹底して楽をしたいわけか」と呆れ顔で頷いた。

しかし、現実は非情だった。

教壇のコーデリア先生が、パンと手を叩いて教室を見渡したのだ。

「では、まず最も重要かつ激務である『魔導管理委員会』の委員長および副委員長を選出する。この役職は、学園内の魔導具の管理や、演習場の安全確認を一手に引き受ける、まさにSクラスのエリートにふさわしい役職だ。……推薦、または自薦はあるか?」

教室がざわつく。誰もがその激務ぶりに怖気づいているようだ。

エレノアがフンスと胸を張り、立候補しようと手を挙げかけたその瞬間。

(待て。ここでエレノアやカレンのような『動く破壊兵器』が委員長になったらどうなる? 毎日のように演習場が爆破され、そのたびにクラス全員が連帯責任で『残業(復旧作業)』に付き合わされるぞ……!)

前世で、無能な上司が起こしたトラブルの尻拭いで何度も休日出勤をさせられたトラウマが、俺の脳裏をよぎった。

リスクマネジメント(危機管理)の観点から言えば、このブラック部署のトップには、最も「安全第一」を理解し、トラブルを未然に防げる人間――つまり、俺の味方であるマルクのような常識人を据えるのがベストだ。

俺は即座に立ち上がり、前世の「社内政治(根回し)」で培った完璧な発声と、通る声で告げた。

「先生、推薦があります! 筆記次席のマルク・フォン・ブライトナー君こそ、この『魔導管理委員会』のトップにふさわしいと考えます!」

「なっ、アルベルト!?」

マルクが驚愕して椅子から飛び上がった。

俺は構わずに、前世の営業プレゼン用の笑顔をマルクに向け、クラス全員に聞こえるように熱弁をふるった。

「マルク君は極めて冷静で、物事を客観的に見る目を持っています。派手な魔法で周囲を圧倒する天才たちが多いこのSクラスにおいて、彼のような『緻密な管理能力』と『リスク管理の意識』を持った人間こそが、学園の安全を守る管理委員長に最適です。彼なら、一人の負傷者も出さずに完璧に業務を遂行するでしょう!」

(よし、マルク! お前が委員長になれば、俺は図書室からお前に『安全な書類仕事のコツ』をアドバイスするだけで済む。お前なら演習場を爆破したりしないし、俺のサボりも適度に見逃してくれるはずだ!)

俺の「完璧な推薦理由(体裁のいい押し付け)」を聞いた教室の生徒たちは、一瞬の静寂の後、ハッと目を見開いた。

「す、素晴らしい……! 的確な人材配置だ……!」

「アルベルト様は、すでにクラス全員の特性を見抜き、誰がどの役職に適しているかを完全に把握されているというのか……!?」

教壇のコーデリア先生も、深く深く頷いた。その脳内(心の中)では――。

(ひ、ひぃぃぃ! リーゼ先輩の息子さんが、直々に『この男をトップに据えろ』と人事を指定してきたわ……! これを断ったら『私のアルの人事に文句があるのかしら?』って先輩が殴り込んできちゃう! でも、確かにブライトナー家の次男なら真面目だし適任ね! ここは先輩の息子の顔を立てて、全面的に受け入れるわ!)

コーデリア先生はキリッとした表情に戻ると、教壇を叩いた。

「素晴らしい提案だ、アルベルト君。では、魔導管理委員会の委員長はマルク・フォン・ブライトナーに決定する!」

「え、あ、ちょっと待ってくださ――」

マルクの異議申し立ては、クラス全員の盛大な拍手によって完全に掻き消された。

「そして!」と、コーデリア先生はニヤリと笑った。

「それほどまでに管理の大切さを理解し、マルク君を導いたアルベルト君。貴方には当然、彼を支える『最高顧問(または副委員長)』として、魔導管理委員会に入ってもらう!」

「……は?」

俺の脳内が真っ白になった。

最高顧問? 副委員長?

いや、俺は図書整理委員会に行って、放課後は定時退社して寝る予定だったのだが。

「流石は先生ですわ!」エレノアが立ち上がって拍手を送る。「首席のアルベルトと次席のマルク、この二人が揃えば、我が学園の魔導管理は歴史上最も強固なものになりますわね! 私も『風紀委員長』として、全面的に貴方たちと協力マークさせていただきますわ!」

「……アルベルトが管理する演習場。……いつでも、全力で暴れられる。……嬉しい」

カレンも琥珀色の瞳を怪しく光らせて、コクコクと頷いている。

(違う! 暴れさせないためにマルクを置いたんだよ! なんで俺まで巻き込まれてブラック部署の役職持ちになってるんだよおおお!!!)

役職が決まり、放課後の教室でようやく解散となった。

生徒たちがそれぞれの寮へ戻っていく中、俺は自分の席で完全に燃え尽きていた。

「おい、アルベルト」

影が差し込み、見上げると、そこには完全に死んだ目をしたマルクが立っていた。

彼は眼鏡を外し、眉間を激しく揉みほぐしながら、ドサリと俺の前の席に座った。

「……お前、僕を隠れ蓑にして自分だけ図書室でサボろうとしただろ」

「ゲッ」

「『マルク君はリスク管理の意識を持った人間です(意訳:こいつに面倒な仕事を押し付ければ安心です)』。……お前の腹の内なんて、全部分かってたよ」

マルクは深ーーいため息をつくと、制服のポケットから、昨日よりも一回り大きな小瓶を取り出し、俺の机にドンと置いた。

「これ、何……?」

「我が家の、さらに強力な特製胃薬。……お前のせいで、僕の放課後の平穏も終わった。だが、お前も『最高顧問』として僕と一緒に残業確定だ。……お互い、胃を壊しながら頑張ろうな、『同僚』」

マルクは呆れ果てたような、しかしどこか親近感の籠もった苦笑いを浮かべ、俺に手を差し出してきた。

「マルク……! ごめん、本当にすまない……! でも、お前と一緒にホワイトな環境(定時退社)を作るために、俺は全力で書類仕事を効率化するからな……!!」

俺は涙目でマルクの手をガシッと握りしめた。

前世の「社内政治(押し付け合い)」が見事にブーメランとなって自分に突き刺さり、初日から「魔導管理委員会・最高顧問」という超重要ポスト(激務)に祭り上げられてしまった誠。

味方であるマルクを盛大に巻き込み、ヒロインたちの監視の目もさらに強まる中、おっさん二人の「血と涙の業務効率化(サボるための戦い)」が、ここに幕を開けるのだった。

✍️ 次回予告(第二十一話)

魔導管理委員会の役職に就かされてしまった誠とマルク。

初仕事として、演習場の魔導具の点検(安全点検)に向かった二人だったが、そこで誠の前世の「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」と「危険予知(KY活動)」のスキルが炸裂。

ただ作業を早く終わらせて帰りたかっただけの誠の行動が、またしても学園の職人たちや教師陣を震撼させる事態に発展し……!?

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