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第二話 『おっさん、赤ん坊になる』

(……ふぁ〜あ、よく寝たなぁ。よし、もう吐き気も治ってるし、風呂にでも行くか!)

そう思って、俺はベッドから起き上がろうとした。

——が。

(……って、あれ? 体が全然動かねえ。っていうか、どこだよここ!? 俺んちじゃねーぞ!)

視界に飛び込んできたのは、無駄に広くて豪華な部屋の天井だった。映画でしか見たことがないような、アンティーク調の豪奢なベッドに俺は寝かされている。

(で、でけー部屋だな……。それよりも、なんだこれ。視界の端に見えるこの丸っこいパーツ……俺の手か? まるで赤ん坊みたいな手なんだが!?)

パニックになりかける俺の横で、誰かが動く気配がした。

見ると、見慣れない服を着た人物が、俺が目を覚ましたことに気づいて慌てて部屋を出ていく。

しばらくすると、足音を荒げて3人の大人が入ってきた。その中の一人が、愛おしそうな表情で俺をそっと抱き抱える。

「$%♪*=7#¥*……」

(何か喋ってるけど、1ミリも何言ってるか分かんねーよ! 夢のくせにやたらリアルだな……。抱っこされた感触も、肌の温もりも、全部本物みたいだ。……あ、クソ、なんかまた眠くなってき……寝たら、きっと、目が覚める、だろ……)

抗えない赤ん坊の睡眠欲に負け、俺は再び意識を失った。

     *

それから、丸一日が経過した。

(うわぁぁぁぁ!! 夢じゃなかったぁぁぁぁ!!!)

認めたくない。だが、認めざるを得ない。

俺は、紛れもなく赤ん坊になっていた。

(俺、どーなっちゃったのよ!? しかも昨日大人が喋ってたの、完全に聞いたことない言語だったぞ。……待てよ。これってもしかして、ラノベとかでよくある『異世界転生』ってやつか……!?)

その推測は、正しかった。

俺は、バルムルタン王国を支える名門、ムルターシュ侯爵家の長男『アルベルト・フォン・ムルターシュ』として生まれ変わっていたのだ。

ちなみに、母の名はリーゼ。父の名はカイゼン・フォン・ムルターシュ。

(しかし、赤ん坊の体ってのは本当に不便だなぁ……。すぐ眠くなるし、オムツを替えられた時なんて羞恥心で二度目の死を迎えるかと思ったわ! 最初は母さんと思われる人のおっぱいを飲むのすら躊躇したけど……背に腹は代えられないしな。ようやく慣れてきたけど、すでに俺の『元・40歳おっさん』としての精神力はゼロよ?)

     *

それから一週間ほどが過ぎた。

だんだんと視界がクリアになり、耳も周囲の音をはっきりと拾えるようになってくる。

(前にもうっすら思ったけど……やっぱりこの家、相当なゴリゴリの裕福家庭だな?)

父さんと母さん以外にも、執事やメイドらしき服を着た人間が何人も甲斐甲斐しく働いている。

ただ、部屋の明かりや家具を見るに、文明的にはあまり発展していないようだ。前世の地球でいうところの「中世ヨーロッパ」あたりの時代設定に近い。

(着てる服もいかにもドレスとか貴族服だしな。うん、間違いない。俺は貴族の坊ちゃんに転生したんだ!)

     *

さらに、怒涛の1ヶ月が過ぎた。

(この1ヶ月で、だいぶこの世界のことが分かってきたぞ!)

あの若い男女が俺の父さんと母さんであることは確定。しかも、揃いも揃って凄まじい美男美女だ。

(これは将来、どっちに似たとしても俺の容姿はイケメン間違いなしなのでは……? 前世の冴えないフツメン面とはおさらばだぜ!)

だが、そんな容姿のポテンシャルなんて些細な問題に思えるほど、俺はとんでもない事実を目撃してしまった。

(魔法ですよ、魔・法!! この世界、マジで魔法が存在しやがる!!)

ある日、メイドさんが指先から小さな火を出してランプに明かりを灯したのだ。

初めて本物の魔法というものを見たとき、俺はあまりの興奮に「ぎゃあああ!(すげえええ!)」と赤ん坊の限界ボリュームで叫んでしまい、メイドさんを本気で焦らせてしまったのは良い思い出である。



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