五、
その晩、私はなかなか眠りにつかれへんかった。
制服のポケットに入れた、あのキーホルダーの石が気になって仕方なかったからや。
雪美が、無くして泣いてしまう程、大切にしていた物。
それほどあの浅野とかいう子のことが好きやということなんかもしれへん。
ふと、ふんわりとした柔らかい雪美の髪を思い出した。
あかん、寝れん。
私は、さっとジーンズに着替えると、こっそり家を抜け出した。
時間は、11時半を少し回ったところ。
コンビニにでも行って、あったかい飲み物でも買ってくるか。
そう思った矢先、通りがかった公園のブランコで、うちの制服を来た子がぶらぶらしとる。
人のことはどうでもええんやけど、
時間が時間だけに、どうも気になる。
目を凝らして見ると、あれは、雪美や。
「篠原さん!」
気付いたときには、雪美めがけて走っている自分がいた。
「お、大江さん・・?」
驚いた顔で振り向いた雪美の頬は、林檎みたいに真っ赤や。
夜になると、結構冷え込むもんやから、きっと身体が冷え切っているに違いない。
「あんた、こんなとこで何してるん?」
「何してるって・・・、ブランコ乗ってるねん。」
ばっと目を逸らして、雪美が俯いた。
「そんなん見たら分かるわ。私が聞いてんのは、あの後家帰らへんかったんかってことや。」
自分でもびっくりする程、声が怒気を帯びている。
雪美が、潤んだ目で見上げる。
はあ、また泣く。
「大江さん、怒ってる・・・?」
「そりゃ怒るわ!女の子がこんなとこ1人でおったら危ないやろ?」
「大江さんかて、1人でおるやん。」
「わ、私はええねん。もともと1人やし。」
ぷっと吹き出す雪美。
本当に、この子には振り回されて、調子が狂う。
「もしかして、これ探してたんちゃう?」
私は、ジーンズのポケットをごそごそと弄った。
「え、これ・・・。」
びっくりする雪美。
私が取り出したピンクの石に、目を丸くしてる。
「これな、今日あんたと探してるときに、体育館の裏で見つけたんや。」
家を出る前、制服のポケットからジーンズのポケットに移してそのまま持ってきてしまったんや。
「ああ、よかった・・・。ありがとう、ありがとう・・・。」
雪美は、それを受け取ると、ぎゅっと大切そうに握り締めた。
「ほんまはまだ好きなんやろ?」
なんでこんなに面倒臭いのに、人を好きになったりするんや、到底私には理解できへん。
「ううん、これはな、優ちゃんと初めて友達になったときに交換したもんやねん。
今は、もう恋人やないけど、優ちゃんとはずっと友達やから・・・・。」
友達。
あれだけ冷たい態度とられても、この子はまだあの浅野って子を友達と思ってるんか。
変わった子。
けど、見つけてすぐに、渡してあげたら良かったかもな・・・。
そしたら、こんなとこで面倒臭い会話せんでもすんでたかもしれへんのに。
「なあなあ、美也ちゃんて呼んでもいい??」
何を言い出すか、この子は。
「その代わり、うちのことは雪美でいいからさ。」
ほんまに、理解できへん、この子は。
「なんでも構わへんから、はよ家帰るで。家どこ?送ったるから。」
人と関わりたくない自分。
けど、なんでか雪美に関わってしまう自分。
なんでやろ。
ほんまは、ずっと、待ってたんかもしれへん。
ずっと、ずっと、自分の存在に気付いてくれる人を、待ってたんかもしれへん。
「なあ、美也ちゃん、手つないでもいい?」
何を言い出すか、この子は。
雪美は、私が何も言わへんかったら、勝手に左手を握ってきた。
ひやっと冷たい手。
前を向いたまま、嬉しそうに微笑む雪美の白くてちっちゃい顔。
変な子。
私は、きゅっとその手を握り返した。




