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数日が経つが、
あれからアルノルトはまだ忙しく
処理に追われている。
そんな中、ヴィオラは宰相に呼び出された。
「グレイソン補佐官の件は片付いた」
「はい」
ヴィオラは静かに頷く。
あの夜の光景が脳裏によみがえった。
月明かりの下で剣を抜いたアルノルト。
部下へ的確に指示を飛ばす姿。
「脅していたのは、商人と結託していた
第三騎士隊の副隊長だ。
証拠が揃い、王命により拘束した」
あっけない報告に、
ヴィオラは思わず聞き返した。
「あの、では……アルノルト様が接触していた商人は」
「ああ、それか」
宰相はふっと笑った。
「アルノルト自身が、
独自に不審な動きに気づいて内偵していたそうだ。
あの日渡されていた包みは、証拠の書類だった」
「……そう、だったのですね」
拍子抜けするほど、あっさりとした結末だった。
あれだけ思い悩み、疑い、覚悟を決めた夜
まであったというのに。
「君の一家の動きも、大いに役立った。
感謝する」
宰相の言葉に、
ヴィオラは曖昧に頭を下げるしかなかった。
宰相は穏やかに微笑む。
「副団長も、君も」
「……え?」
「互いに知らぬまま同じ事件を追い、
同じ真実へ辿り着いた」
ヴィオラは思わず目を伏せた。
「夫婦というものは、不思議なものだ」
宰相の口元に、意味深な笑みが浮かぶ。
その笑みを見た瞬間。
ヴィオラの中で、
これまでの出来事が一本の線でつながった。
(まさか……。)
王命。
婦人会。
あの日の助け舟。
アルノルトへの意味深な忠告。
(全部……。)
(この古狸、最初から全部見えていたのね。)
宰相は何も言わない。
ただ、すべてを見透かしたように
紅茶を一口含むだけだった。
ヴィオラは小さくため息をつく。
「敵に回したくない方ですわね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
その一言に、ヴィオラは肩をすくめた。
(……だから古狸は嫌なのよ。)
屋敷に戻る馬車の中、ヴィオラは一人、
小さく笑ってしまった。
(なんだったのかしら、あの緊張は)
だが同時に、確かなものも残っていた。
あの夜、
アルノルトを組み敷きながら固めた決意――
それは、任務が片付いても消えることはなかった。
屋敷に着くと、アルノルトが庭先で出迎えてくれた。
「おかえり、実家のみなさんは元気だった?」
宰相からの呼び出しは、表向きには
「実家への帰省」という名目で屋敷を出ていた。
いつもの、あの浮かれた笑顔。
ヴィオラはその顔を見つめながら、静かに思う。
(この人を、本当の家族として――)
「どうした?」
「――いいえ。ただいま帰りました」
ヴィオラは、初めて自分から、
アルノルトの胸に寄り添った。
その温もりに、政略も任務も、もう関係なかった。




