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エマから報告を受けたのは、翌日の夕刻だった。
「お嬢様。」
「どうだった?」
「例の商人ですが、今夜動きます」
ヴィオラの手が止まる。
「場所は?」
「第三騎士隊副隊長の私邸裏門」
「第三副隊長……」
ヴィオラの脳裏に、その男の顔が浮かぶ。
騎士団でも実直と評判の人物だった。
やはり。
胸の奥がざわつく。
アルノルトの姿が脳裏をよぎった。
あの日見た、商人との密会。
懐へしまわれた包み。
そして、いつもと違う冷たい横顔。
(確かめなければ)
ヴィオラは黒い外套を羽織る。
「エマ」
「はい」
「今夜は尾行だけ」
「承知しております」
「決して手は出さない」
「はい」
二人は夜の王都へ溶け込んだ。
第三騎士隊副隊長邸。
人気のない裏路地。
ヴィオラは屋根の上から静かに様子を窺っていた。
やがて、一人の男が現れる。
アルノルトと接触していた男ではない。
(違う人……)
アルノルトといた商人ではなかった。
男は周囲を警戒すると、小さな革袋を取り出す。
「待たせたな」
邸宅の裏口が開く。
姿を見せたのは第三騎士隊副隊長。
「例の品は」
「こちらにございます」
革袋が差し出される。
副隊長が受け取ろうとした、その瞬間だった。
「そこまでだ」
低く響く声。
闇の奥から、一人の男が歩み出る。
銀髪。
漆黒の騎士服。
腰には王国騎士の剣。
アルノルトだった。
「アルノルト……」
思わずヴィオラが息を呑む。
商人が後ずさる。
副隊長は顔色を変えた。
「副団長……なぜここに」
アルノルトは静かに剣を抜く。
月明かりを受けた銀の刃が、冷たく輝いた。
「王命だ」
「第三隊副隊長」
「貴様を武器横流し並びに国家反逆罪の容疑で
拘束する」
「囲め!」
副隊長の顔から血の気が引いた。
「まさか……」
アルノルトは剣先を向ける。
「すべて終わりだ」
建物の影から十数名の騎士が一斉に飛び出した。
逃げ道は完全に塞がれる。
「くっ……!」
副隊長が剣へ手を伸ばす。
だが、それより早く。
キィンッ!!
銀の刃が閃いた。
副隊長の剣が地面へ弾き飛ばされる。
一瞬だった。
ヴィオラは目を見開く。
(速い)
(迷いがない)
(一太刀たりとも無駄がない)
(これが……王国最強)
普段、自分だけに向けられる優しい笑顔。
その面影はどこにもない。
目の前にいるのは、
王国最強と名高い騎士団副団長だった。
「全員拘束しろ!」
アルノルトの声が終わるより先に、
動いたのは商人だった。
懐から短剣を抜き放ち、
脇にいた若い騎士へ斬りかかる。
「危ない――!」
ヴィオラの喉から、
声にならない悲鳴が漏れかけた。
だが、次の瞬間。
アルノルトの体が、風のように動いた。
一瞬で騎士と商人の間へ割り込むと、
剣の腹で短剣を弾き飛ばす。
金属同士がぶつかる甲高い音が、
夜の静寂を切り裂いた。
「悪あがきはよせ」
冷たく低い声。商人は腕を返され、
そのまま地面へ組み伏せられる。
「ぐっ……!」
アルノルトの膝が背に乗り、身動きを封じた。表情ひとつ変わらない。
まるで、この程度の抵抗など最初から
織り込み済みだったかのように。
その隙をついて、
副隊長が裏口へ駆け戻ろうとする。
「逃がすか」
アルノルトの声が響いた瞬間、
囲んでいた騎士の一人が退路を塞いだ。
副隊長は舌打ちし、腰に残っている短剣を再び構える。
「――王命に逆らうか」
アルノルトが一歩、
また一歩と間合いを詰める。
切っ先が、まっすぐ副隊長の喉元を捉えていた。
剣先は微動だにしない。
「お前が誰を脅していたか、すべて分かっている」
「な、何のことだ……!」
「グレイソン補佐官の娘だ。
まだ十にも満たない子供を人質に、
帳簿改竄を強要した」
副隊長の顔から、血の気が引いていく。
「証拠は、もうこの手の中にある」
アルノルトが革袋を軽く掲げてみせた。
副隊長の剣を持つ手が、目に見えて震え出す。
「くそ……!」
捨て鉢に振るわれた一撃を、
アルノルトは半歩引くだけで難なく躱す。
返す刀――ではなく、峰打ちが一閃。
「ぐあっ……!」
副隊長の膝が崩れ落ちた。
「拘束しろ」
短い命令とともに、騎士たちが一斉に動く。
抵抗する暇もなく、二人の男は縄を打たれていった。
一部始終を見ていたヴィオラは、
屋根の上で息をするのも忘れていた。
(強い……)
これまで見たことのない、
アルノルトの本当の顔。
優しい夫としての彼しか知らなかったが、
剣を握れば、これほどまでに研ぎ澄まされる。
その鋭さの奥に、確かな優しさが滲んでいることに、
ヴィオラは今、気づいてしまった。
ヴィオラは屋根の上で静かに目を閉じた。
(疑ってしまった)
胸が締め付けられる。
アルノルトは誰よりも先に真実へ辿り着いていた。
しかも、自分と同じように。
誰にも知らせず。
命を懸けて。
(ごめんなさい)
小さく唇が動く。
届くはずもない謝罪だった。
「お嬢様」
隣でエマが囁く。
「戻りましょう」
ヴィオラはもう一度だけアルノルトを見た。
部下へ次々と指示を飛ばす姿。
その背中は、誰よりも頼もしく見えた。
「ええ」
今夜は姿を見せない。
それでいい。
帰ったら、いつも通り
「おかえりなさい」と迎えよう。
それだけで十分だと思えた。
おはようございます( ¯꒳¯ )ᐝ
本日もお立ち寄り頂きありがとうございます!
本日は5話投稿予定です。
①7:30~②8:30~③12:30~④17:30~⑤20:30~
ぜひ1話でも読んで頂けると嬉しいです。
4話目でヴィオラ視点終了。
投稿最後の5話目よりアルノルト視点スタートです。
アルノルトの『重たい愛』をお楽しみ下さい。
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頑張りのエネルギーになります!
ぜひ、よろしくお願い致します٩(๑>∀<๑)۶




