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【完結】暗殺一家の令嬢ですが、政略結婚した騎士団副団長の愛が重すぎます。  作者: ほしよみ


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3/18

3

任務はアルノルトが騎士団として働いている

時間帯のみ、行っていた。


もちろん、何かにつけて王宮へ上がり、

調査も進めている。


今回の任務は、ある上位貴族が武器の横流しに

関与しているとの情報があり、

ヴィオラは町へ調査とプレゼント探しに

出ていた。


だが、潜入するにはまだ情報が足りない。


(もう少し、証拠を掴まないと――)


裏通りの商会を張り込んでいたヴィオラは、

ふと視線を感じて足を止めた。


振り返ると、そこにいたのは。


「――何をしている」


低い声に、ヴィオラの心臓が跳ねた。


(嘘でしょう。なんでここに)


「アルノルト様……」


騎士団の制服のまま、

アルノルトが路地の入口に立っていた。

腕を組み、鋭い眼差しをこちらへ向けている。


「こんな時間に、こんな場所で、

一人で何をしている」


まずい。

今日は王宮で武器庫の監査任務だったはず。

わざわざ巡回の日を外して、

予定表まで確認していたのに。


「散歩、です」

「この裏通りが散歩コースか」

「……近道を探しておりまして」


アルノルトは黙ったまま歩み寄る。

ヴィオラは思わず一歩下がった。


(しまった。任務が……)


するとアルノルトは真顔で口を開いた。


「……俺以外に男か」

「え?」

「人目のない裏通り」

「そんな変装」

「しかも俺に黙って外出」

「浮気相手と会う条件は十分だ」


(……そっち?!)


ヴィオラは思わず額を押さえた。


「黙るということは肯定か?」

「違います!」

「では説明してくれ」

「まず、アルノルト様以外に

男も旦那様も必要ありません」

「……。」

「アルノルト様がいらっしゃるのに、

他の方を見る理由がありません」

「…………。」

「アルノルト様(と任務)でいっぱいです!」

「………………。」


アルノルトは数秒固まった。

そして耳まで赤く染める。


「な、なんと言った……?

俺でいっぱいと?!」


(違う、そうじゃない。)


アルノルトは満足そうに頷くと、

当然のようにヴィオラの手を握った。


「帰るぞ」

「えっ、ちょっと!」

「危険な場所だ」

「まだ用事が……!」

「却下」


そのまま有無を言わせず歩き始める。

ちょうどその時、

同行していた騎士たちが路地へ駆け込んできた。


「副団長!」

「こちらにおられましたか!」


アルノルトは振り返り、真剣な表情で命じる。


「俺は帰る」

「は?」

「妻の具合が悪い」


ヴィオラは目を丸くした。


(誰が?!)

「助けを求めてここまで来た」

(来てない!)

「だから屋敷へ連れて帰る」


若い騎士は青ざめた。


「えっ!?奥様が!?」

「そんなにお悪いのですか!」

「医師は!?馬車を!」

「団長へは私から!」


アルノルトは力強く頷く。


「ああ、頼んだ」

「副団長!!こちらはお任せください!!」


騎士たちは慌ただしく持ち場へ戻っていく。

ヴィオラは呆然とその背中を見送った。


「……。」

「……。」


路地に静寂が戻る。

ヴィオラはゆっくりアルノルトを見上げた。


「アルノルト様」

「なんだ」

「私、どこが悪いのでしょう」


アルノルトは真面目な顔で答えた。


「危険な場所へ一人で来る癖だ」

「それは病気ではありません」

「俺にとっては重症だ」


そう言って当たり前のように手を握り直す

アルノルトに、ヴィオラは抵抗する気力を失った。


(証拠……あと少しだったのに。)


そう思いながらも、

少しだけ握られた手を握り返してしまった

自分に気づき、

ヴィオラは誰にも聞こえないほど小さく

ため息をついた。


「……本当に、参ったな」


屋敷に戻る馬車の中、

ヴィオラは黙って窓の外を眺めていた。

隣に座るアルノルトは、いつもの上機嫌さを取り戻し、何やら上機嫌に話しかけてくる。


「今度、俺の休みに合わせて出かけないか。

この間話した観劇の件だが」

「……はい」


上の空で返事をしながら、

ヴィオラの頭の中は張り込みのことでいっぱいだった。


(また一からやり直しだわ。次はいつ抜け出せば――)

「聞いているのか?」

「え、ええ。もちろんです」

「本当か? さっきから心ここにあらずだが」


鋭い指摘に、ヴィオラは思わず身を固くした。だがアルノルトは追及するでもなく、

ふっと表情を緩める。


「まあいい。俺はヴィオラの旦那だからな。

唯一の生涯たった一人の男というわけだ」


楽しそうに勘違いセリフを可愛く吐くアルノルト。

その優しさが、かえってヴィオラの胸を重くした。


(この人を、欺き続けている)


屋敷に戻り、湯浴みを済ませたヴィオラは、

アルノルトが来るまで、

寝室で一人、任務のことを考えていた。


証拠を掴むにはあと一歩。

だが、アルノルトの目を盗んで抜け出すのは、

これ以上難しくなるかもしれない。


そこへ、部屋の扉が控えめ開いた。


「まだ起きていたのか」


アルノルトの声だった。

ヴィオラが返事をする前に、

扉がゆっくりと閉まる。


手には、小さな包みを持っていた。


「巡回中につい買ってしまった。

君に似合うと思って」


差し出されたのは、可愛らしい髪飾りだった。

あの裏通りの、すぐ近くの店のものだと、

ヴィオラはすぐに気づいた。


(わ、わたくしのために……)

「……ありがとうございます」

「気に入らないか?」

「いいえ。とても」


素直に受け取ると、

アルノルトは満足げに笑った。

その笑顔を見ながら、

ヴィオラは複雑な気持ちを抱える。


(優しくされるほど、罪悪感が増えていく)


だが同時に、その優しさに、

少しずつ心が絡め取られていくのを、

ヴィオラ自身も感じ始めていた。


(人からプレゼントってこんなに嬉しいものなのね。

どんな顔でこれを選んだのかしら)


「アルノルトさま、嬉しいわ」


ヴィオラは、

自分でも驚くほど自然にそう口にしていた。

アルノルトは一瞬、目を丸くする。


「……今、何て?」

「え?」

「もう一度」

「その……嬉しい、と」


アルノルトはしばらく黙ったままヴィオラを

見つめると、小さく笑った。


「今日はいい日だ」

「髪飾り一つで、ですか?」

「違う」


一歩近づき、優しく髪飾りを受け取る。


「付けてもいいか」


ヴィオラが小さく頷くと、

アルノルトは壊れ物に触れるような手つきで、黒紫の髪へそっと飾りを差した。


「……似合う」

「ありがとうございます」

「いや」


アルノルトは照れたように笑う。


「ありがとうは俺の方だ」

「?」

「君が喜んでくれた」

「それだけで十分だ」


ヴィオラは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。


(……どうして。)


任務で贈り物を受け取ったことは何度もある。

宝石も、金貨も、豪華な装飾品も。

だが、こんなにも心が温かくなったことは

一度もなかった。


(この人は、本当に私のために選んでくれた)


その事実が、何より嬉しかった。



【Side Story】

「エマ」


ヴィオラは真剣な表情で切り出した。


「私、気配を察知する力が弱くなっているの

かもしれないの」

「……と、おっしゃいますと?」

「暗器の件もそう。

町でアルノルト様に見つかった時も、

全く気配を感じなかったの」


エマは少し考える。


「お嬢様」

「なに?」

「察知能力は一ミクロも落ちていないかと」

「そう?」

「先ほども、廊下を歩く使用人三人を、

足音だけで言い当てておられました」


ヴィオラは腕を組む。


「では、なぜ……」

 

エマは少し首を傾げる。


「旦那様限定ではないでしょうか」

「限定?」

「無意識に」

「"警戒しなくてもいい人"と、 お身体が判断

しているのかもしれません」


ヴィオラは目を瞬かせた。


「…………。」

「それは?」

「それはとは?」

「え?」


エマは微笑む。 


「心から信頼している方ですね」

「…………。えっ?////」

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