アルノルト 8
くそっ、事件処理が長引いている。
証拠の確保、王への報告、副隊長と商人の拘束。
——すべてが完了するまで、夜明けまでかかるだろう。
そのあと諸々の処理…
ため息しかでない。
「頼み事をいいか?屋敷に行って、仕事の都合で帰れそうにない。1度着替えに戻ると、そう伝えて欲しい。」
屋敷に戻った時、空はもう白み始めていた。
着替えを済ませようと、アルノルトは階段を上る。
ヴィオラはちゃんと眠っているだろうか
今日はしっかり食べただろうか、
今日もきっと可愛い妻に違いないのに…
仕事とはいえ、
また何も言わずに出ていってしまうことが、
少し気になった。
だが、夜明け前の帰宅だ。眠っているだろう。
会いたい——
階段の途中で、人影が見えた。
ヴィオラだった。
寝室から降りてきたのか、
いつ現れたのか分からない。
だが、確実に彼女がこちらを見つめていた。
「アルノルト様…」
土埃で汚れた自分を見ても、ヴィオラは逃げない。
むしろ、彼女の視線がより深くなっていった。
アルノルトは、意識的に笑った。
「起きていたのか。すまない、こんな時間に」
「……お帰りなさい」
ヴィオラの声が、震えていた。
「どうした? 顔が赤いが」
「なんでも――」
言いかけて、ヴィオラは沈黙した。
その目が、アルノルトを真っ直ぐ見つめていた。
いつもの、透明で冷たい瞳ではない。
そこには、初めて見る感情が宿っていた。
(愛している)
危険な任務だったからこそ、
アルノルトは今、はっきりとそう思った。
もし自分が帰れなかったら。
そう考えた瞬間、
胸を締めつけられるような痛みを覚えた。
この女性を残してなど、死ねない。
(守らないとな)
この女性を失うことなど、
アルノルトは絶対に許さない。
ただ、この女性を自分のものにしたい。
もっと完全に。
ずっと、永遠に。
その重い愛が、アルノルトの全身を包み込んでいた。
彼は妻の元へ歩み寄った。
「俺は、絶対にお前を手放さない」
その言葉は、もう脅迫に近かった。
愛という名の、重い、重い執着。
だが、ヴィオラはそれを拒まなかった。
むしろ、彼女の瞳に映るものは——
恐れではなく、安堵だった。




