表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】あなたが泉に突き落としたのは、政務に秀でた王太子ですか?それとも、あなたを生涯溺愛する王太子ですか?  作者: 木風


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/4

第二話 わたくしは、まだあなたを許しておりません

「正直に申告したご褒美などは?」

「ありません」

「世知辛い女神様ですこと」

「規則ですので」


 右側の王太子は、見るからに優秀だった。

 きっと公務を押しつけることもなく、国王や臣下からも信頼される立派な王になるだろう。

 一方、左側はリノアしか見ていない。


「では、わたくしを溺愛する方で」

「後悔しませんか?」

「仕事は叩き込みますわ」


 女神が目を瞬く。


「よろしいのですか?彼の能力は現状のままですよ」


 政務能力は、今のローレンスと変わらないらしい。

 つまり、放っておけば仕事を人に押しつける。

 リノアはしばらく考えたあと、左側の光を指差した。


「半年間、わたくしに公務を押しつけるだけの知恵はあったのですもの。教えれば最低限は働くでしょう」

「なかなか手厳しいですね」

「仕事は努力と教育で身につけさせられます。ですが、わたくしを心から愛する気持ちまで、わたくし自身が教え込むことはできませんもの」


 リノアは左側のローレンスを見つめた。


「愛する婚約者に見限られたくなければ、死ぬ気で覚えるでしょう」

「……あなた、王妃に向いていますね」

「よく言われますわ」


 女神は小さく笑うと、右側の光を泉の底へ沈めた。

 沈んでいくシゴデキ王太子は、なぜか満足そうに親指を立てている。


「彼の記憶も人格も、そのままです」


 女神は左側の光を両手で包み込んだ。


「変わるのは、彼がこれまで見ないふりをしていた、あなたへの想い。失いかけて初めて気づくはずだった感情を、今ここで目覚めさせます」

「見ないふりをしていた?」

「あなたを愛していなければ、ここまで甘えてはいません。彼はあなたなら許してくれると、思い上がっていたのです」


 胸の奥に、鈍い痛みが走った。

 愛していたから甘えた。だからといって傷つけてもよいはずがない。


「彼は、これまでの自分があなたに何をしてきたのか、すべて覚えています。その記憶は、今後彼自身を最も苦しめるでしょう」

「それは何よりですわ」

「迷いがありませんね」

「ええ」


 女神が左側の光を泉へ落とした。

 水面が激しく揺れる。


「では、お返しします。あなたが選んだ、溺愛する王太子を」


 次の瞬間、泉の水が大きく跳ね上がった。


「リノア!」


 ずぶ濡れになったローレンスが泉から這い上がり、リノアへ駆け寄ってくる。

 その顔は真っ青で、唇は紫色だった。


「無事か!?どこか濡れていないか!?」

「濡れているのは主にあなたですわ」

「君のドレスの裾も濡れている。冷えてしまう。すぐに着替えを――」


 ローレンスは自分の上着を脱ごうとして、ずぶ濡れであることに気づき、絶望した顔になった。


「僕は何をしているんだ。こんなものを掛けたら、余計に君が濡れてしまう」

「殿下、落ち着いてくださいませ」

「待っていてくれ。今すぐ乾いた上着を持ってこさせる。いや、その前に侍医を――」

「殿下!!」


 リノアが両肩を押さえると、ローレンスはようやく口を閉じた。

 その瞳には、今まで見たことのない切実な熱があった。


「先に申し上げておきます。わたくしは、まだあなたを許しておりません」


 リノアは、まっすぐに彼を見返した。

 ローレンスの喉が動く。


「そして、泉に突き落としたことも、わたくしは反省しておりません」

「……分かっている」

「衛兵に突き出しても構いませんわ」

「そもそもの原因は僕なのだから、そんなことはしない!!」

「ええ、御自覚があるのならなによりです。イザベラ様とのことは、ご自分で責任を取ってください。あなたが始めた関係です。わたくしを愛するようになったからといって、何もなかったことにはさせません」

「もちろんだ」

「わたくしに押しつけていた公務も、すべてお返しします」

「ああ」

「そして、婚約を続けるかどうかは、一年後にわたくしが決めます」


 ローレンスは息を呑んだ。

 その顔に、一瞬だけ恐怖が浮かぶ。

 それでも、彼は逃げなかった。


「分かった。一年後、君に選んでもらえるようにする。それまでは何度でも謝るし、何でもする」


 震える手を握り締め、深く頭を下げる。


「何でもすると、簡単に仰らない方がよろしいですわ」

「なぜ?」

「明日から、溜まっている公務をすべて片づけていただきますから」

「すべて?」

「ええ。半年分」

「……一年後ではなく、明日には見限られないだろうか」

「働き次第ですわね」


 リノアが微笑むと、ローレンスは青ざめたまま背筋を伸ばした。

ブックマーク、★★★★★、リアクション

よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。



こちらの作品もよろしくお願いします
▶ 【連載版】伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する
異世界恋愛/婚約者の浮気/修羅場コメディ/証人集め/婚約解消/冷静令嬢/ざまぁ/ハッピーエンド
本作品の文章・タイトル・設定等の無断転載、無断複製、生成AIへの入力および学習利用を禁じます。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ