表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その秒針が錆びるなら  作者: 鷹羽諒
第十五章 三桜晴斗
PR
41/50

小幅

 最後の秋が来る。遠くで響く雀の短く折り重なった声々。春よりもずっと冷たい鰯雲。足元でカサカサと音を立てる落葉。晴斗の淡い願いを鼻で笑うかのように、秋は街を染めていく。



判定はE。飽きるほどに見たこの文字は、言うまでもなく最低評価。だがこの小さな文字に覚える切迫も、焦燥も、確実に強まりつつあった。時間がない、そう思いながら模試の成績表をしまう。



自分の人生をちゃんと考えて決めた志望校は、関西の国立大学だった。いわゆる難関校で、中でも難しい外国語学部を晴斗は狙っていた。簡単に行けると思っていたわけではない。それでもE判定ばかりで心は疲弊し、音をあげつつあった。


もっと追い込まないと。もっと時間をかけないと。もっと集中しないと。そんな思いが頭を占めて、それなのにそこに混ざる焦りで勉強が手につかない。



 だからなのだろうか。気付けば、晴斗は玄関から飛び出していた。部活で使っていたシューズを履き、屋外用のボールを持って。10月、休日の朝。張り詰めた空気は、未だ眠ったままの街を包んでいて、心地よい。

 その微かな心地よさをもっと感じたい。晴斗はボール片手に走り出している。ひんやりとした空気の塊が次々に肌に触れ、流れる。気持ちいい。顔を出した朝日が顔に当たる。いける。そんな気がする。分厚い大気に逆らって、鋭い陽光を無視して。どこまでも行けそうだ、悩みも現実も全て振り切って。成績も進路も、将来も、何もかも全部。

 

 公園に入る。足元がアスファルトからきめの細かい砂に変わった。奥へ奥へと足は止まらない。無人の広々とした公園の中央、錆びたサッカーゴールが見えた。


 いける。その思いのまま、体重を次の右足に乗せる。勢いそのままに体は前に進み、次は左足に乗せ換えた。そして最後、歩幅を僅かに縮めて、右足で踏み切る。一瞬、膝に強い力が入って、すぐにその感覚は解放され、体は跳躍する。ボールを持った左手を上げた。溜めをつくって、指に力を籠め、ゴールを睨む。指の腹に絡む、松脂の香り。体が一番高くなる刹那、腕を思いっきり振り切った。


パシュっと乾いた音がしてボールはサッカーゴールへと吸い込まれ、晴斗の膝にはまた強い衝撃が走って、それもすぐ消えた。そこでようやく足も止まる。


息が上がっていた。部活をやめて、体は鈍っている。時は確実に刻まれているのだ、今だって。やるしかない。他の選択肢なんて晴斗には無いのだから。

「しまっていこう」

小さな呟きは広大な公園のどこかに消えた。ふうっと一息を吐きながら、晴斗は転がって来たボールを左手で取った。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ