欲しかった情報は?
「それで? あなたが危険を冒してまで手に入れた情報は何だったのですか?」
「ああ、それはね。サイモンの家に鍵を見つけたんだよ」
「鍵?ですか?」
「ああ。星の装飾があるものを」
私は瞬間に息を吞みました。だって嫌な予感がしたのです。
「ほ、星の装飾って……もしかして」
「そのもしかしてだ。僕や君にとって、とても大切な……あの柄だ」
あの柄……それはすなわちお師匠さまを攫った竜の首輪の装飾と同じ柄です。
「本当にですか?」
「僕が見間違えるはずない」
「では、もしかしてお師匠さまを攫ったり、あなた達は襲ったりした犯人は……」
「サイモンの可能性が非常に高い」
「そんな……」
急に胸がドキドキとしてきました。これは動悸というものですね。とても息が浅くなっているように感じます。
「だから、僕はどうしても君にこのことを伝えなければならないと思っていたんだ」
「確かに、大変重要な情報ですね」
「だろ?」
もしかしてとは思っていましたが、やはりサイモンが黒幕のようですね。
ここで私は意を決して、領主様のことを話すことにしました。
「実は、先ほどは曖昧にしましたが……領主様もサイモン宰相を疑っていました。」
「なんだって! では、領主もそこまで気づいていたのか。君がさっき知っていそうな反応を見せたのはそういうことだったんだね」
「はい。迂闊に話せなくて……でもこの様子なら問題なさそうです」
「どう? 領主様の依頼には応えられそう?」
「はい。それはもう」
ここで私は大体の流れは同じであることを伝えました。
「話を聞いて、私は確信しました。やはり、サイモン宰相が今までのあらゆる事態に関わっていると」
「ああ。僕も君の話を聞いてすごく安心した。僕の推理は間違ってなかったということだ」
完全に辻褄が合いそうです。
レイバーは胸をなで下ろしました。ただ、少し困った顔をしました。完全には満足していないという顔です。
「ただ、懸念は残るよ。鍵とサイモンが関係している所までは突き止めたが、竜の持ち主がサイモンなのか、別に操っている協力者がいるのかまでは僕は突き止めれていない。だから、僕はそれを君に託したいんだ」
「確かに、鍵を持っているだけの可能性もあります」
「だろう?」
「では、私は……」
と、そこまで私が話したとき、レイバーが急いで私の口を手で覆いました。
「しっ! 誰か来る」
急に声のトーンをレイバーが落とします。
すると、暗闇の奥の方からコツコツと微かに靴音が聞こえてきました。ここは城の地下にあり、階段を下りてきているのだと思われます。
ただ、領主様の依頼であるので、衛兵も勝手に入らないよう通達してあるはずです。
誰も来ないはずなのに、なぜ足音が? と思った時。私は出てきた人の顔を見てサッと血の気が引くのを感じました。
「おや、フィリーさん。こんな所にいらっしゃったとは。……ここは罪人の空間ですよ。」
「サイモン閣下……」
明かりにゆらりと照らされた顔がこんなにも不気味だとは。
「誰か来ているなと思ったら、あなたでしたか。なに、ちょうどそこの青年の顔を見に来たのですよ。……ああ、そういえばあなたのお知り合いでしたね」
「え、ええ。 領主様が面会を許してくださったもので……」
「ああ、そうでしたか。 ご存知でしょうか、私はそこの青年に酷い目に遭いましたよ。だから、あなたがこの青年と仲良くお話しているのは、少し感心しませんねぇ」
サイモンはいつものように穏やかに微笑みました。
「そう……ですよね。私も配慮が足りず申し訳ありません。」
「まあ、仕方ありません。で、どんなお話をしていたのですか?」
サイモンの口元は微笑み、声色も普段通りのはずなのに、なぜか空気が凍り付くような寒さを感じました。
「いえ、その……」
「ああ、お二人の会話に水を差してしまったのですね。でも、兵士たちの発言を聞く限り、さすがに長話が過ぎるようです。さあ、フィリーさんそろそろ戻った方がよいのでは?」
これは、探りを入れ、これ以上無駄な話をするなと牽制しに来たのですね。
ーーここが潮時でしょう。
「そ、そうですね。私も居座りすぎました。」
私はくるりとレイバーに振り返りました。
レイバーは苦虫を嚙み潰したような顔をしています。
「ごめんね。もう時間がないみたいだ。」
ここで、私はとても嫌な予感がしました。だって、レイバーは大きな罪を犯したのです。次、会えるのかは確証がありません。
「レイバー……さん。私……」
なんだかレイバーにもう会えない気がしたのです。
すると、私と同じことを思ったのか、レイバーも顔に影が差しました。
「いきなよ。大丈夫」
「私、最初はあなたのこと、少し警戒していました。でも、今は違います。あなたに会えて、本当に幸せでした。」
そう言葉にする私の声は、なんだか震えていました。今更だけど、レイバーを失うのが恐ろしくなってきたのです。
お師匠さまと同じ見た目をしていて、複雑な気持ちではありましたが、お師匠とは別にレイバー自身にも私は好意的に思えるようになってきました。
すると、そっと策の隙間からレイバーが腕を伸ばしてきました。
手が私の頭の上に置かれました。
「大丈夫だよ。また必ず会える。」
「必ずって……」
「大丈夫。必ず会える。僕はそんな予感がしているんだ。」
そういいながら、レイバーは私の頭をなでました。暖かく、不安な気持ちが少しだけ落ち着きます。
「本当に会えますか?」
「ああ、会えるさ。だから、元気を出して」
レイバーは今度は少し強調して言いました。
レイバーの方が怖いはずなのに。
でも、はっきりと次がある話し方に私は少しだけ勇気を得ました。
……そうですね、私が弱気になってはいけません。また会えるように、私が動けばいいのですから。
私は頭に添えられた手を掴むと、ぎゅっと胸の前で包みました。
「そう……ですね。私は、私ができることをやっていきます。だから……絶対また会います」
「ああ。また会おう。」
「絶対に」
「うん、絶対に」
お互いに握手をして、私はその場を離れることにしました。
背後でサイモンが穏やかで不気味な笑みを浮かべているのを、私は見て見ぬふりをしながら。




