奇襲の理由
「皆、頭痛がすると言って頭を抱えだしたんだ」
「……!?」
私はそれを聞いて、息が止まったかと思いました。
「それって……つまり……」
「ああ、思い当たる節があるだろう? 」
「そんなまさか……」
「僕も最初は目を疑ったよ。だって、皆頭を抱えだすんだから。何かの感染症を疑ったけど、問題はない。しばらく黙っていれば、皆元に戻るからね。……そう、まるでドミニク隊長のように。」
私は思わず、手で口元を押さえてしまいました。
「ね。これで誰が関わっているのか、絞り込めそうじゃないか」
「もしかして、レイバーさんのご家族も記憶を?」
「やっぱりそう思ってしまうよね。だから、僕は家族以外の者からさらに情報を集めたんだ」
「……どうなったのですか?」
「重要な話を得た。当時使用人として貴族外に出入りしている人から思い当たる話を聞いたと、僕に教えてくれた人がいてね。偶然口論になっている場面に出くわしたらしい。会話の登場人物から、僕の親父と誰かが出てきた。その相手がまさに……」
「サイモン宰相?」
「そう。サイモンだ。でも、そのことを親父に話したら、知らない覚えていないと言うじゃないか。……そして、他にも似た場面があった。別の人物から、領の複数貴族での打ち合わせに、なぜか隣領であるサイモンが呼ばれたことがあったらしい。内容は聞こえなかったので把握してないが、後日皆サイモンと話したこと、そもそもサイモンが現れたことをスッカリ忘れていたらしい」
「なんてこと……」
「つまり、サイモンがうちの領で行動しては……なんらかの方法で記憶を消しているのではないかと考えられるようになった。では、何をそんなに隠しているのかというと……内容は何だったと思う?」
「……?」
「領地の政治体制や地形に加え、竜の話をしていたらしい」
「……竜の?!」
私は話しながらもドキドキと鼓動が高鳴っているように感じました。これは緊張です。
「これからが大事だ」
私は黙って頷きました。
「どうやら、サイモンは僕の領地を乗っ取る計画を立てていたらしい。竜をおびき寄せて市民を混乱させ、サイモンが手助けをするふりをして英雄になるつもりだったようだ。それを悟られないように、事前に貴族や市民から計画のために情報を引き出したり、自分に有利な形に動くよう根回しをしていたと考えられる」
私はこれを聞いて、思わず「やはり……」と呟いてしまいました。
慌てて口を塞ぎましたが、これをレイバーが聞き逃すはずがありません。
「やはりって?……もしかして、君も気付いていたの?」
レイバーは驚いて目を見開きました。
ーーやってしまいました。
どうやら領主の言っていたことに信ぴょう性が出てきて、思わず声を零してしまいました。
ただ、話は途中です。それに、今の段階で迂闊に「領主様の意見です」なんて、まだ言えないので、私は「そ、そんなところです。でも分からないので、続きを教えてください」と返しました。
レイバーは感心したように頷くと、「わかった。では一応話を続けるね」と言いました。
「では、ここからはなぜ僕の家族と竜に繋がっていくのかを話していくよ。先ほど、口論になっていたと説明したんだけど、実は僕の親父達はサイモンが不審な動きをしていたのに、いち早く気づいていたらしい。
さすが商人の勘だ。そういった不審な話は回ってくるのが早いんだろうね。ここからは人伝に聞いたけど、どうやら親父はそれでサイモンに何か企んでいるのか、それとなく聞き出していたらしい。
だが、次第にサイモンの言動が過激になり、口論に発展したとのこと。それ以降に何があったのかはわからないけど、今の親父が覚えていないってことは、何らかの方法で記憶を消されたんだと察っせるね」
「そんな……」
「で、だ。サイモンが最近本格的に活動を開始した。そこで注目したのが、僕の一家だ。多分この感じだと何回か口論をしたんだろうね。親父は今でこそ丸くなったが、少し探求心があるというか好奇心旺盛というか、曲がったことが嫌いというか……サイモンからすると邪魔だったんだろうね。」
「邪魔だなんて」
「ああ、だから目をつけていた。あまりに煩わしかったんだろう。そして……奴はとても許されないことをした」
「もしかして……」
「僕の家を襲撃したのはサイモンだ」
「……!」
私は驚いたのと、急なショックて思わず胸がきゅっと張り裂けそうな感覚になりました。
「そんな……まさか……」
「でも、それがまさかなんだ。だって、当時について調査したところ、何人か記憶が残っている人がいてね。どの人も口をそろえて、犯人の一人の特徴がサイモンと一致すると言っていたよ。」
「じゃあやはり……」
「だから、僕は確信を得るために、君に内緒でこの領地、パンタシアだっけ?に帰ってきたんだ」
「そ、そうでした! レイバーさんが連絡もなく帰ってきたと思えばこんなことになっていて、驚きましたよ!」
「……まあ、驚くよね。僕も当初は調査だけするつもりだったんだけど、予定が狂ってしまってね」
「予定って……あ、そういえば、どうして奇襲なんてしたのですか? 確かに犯人がサイモンかもしれませんし、恨みはあるかと思いますが、時期早々では?」
「うん、そう思うよね。僕も証拠が足りないのに浅はかだったとは思っているんだ。でもそうせざるを得なかったんだ」
「理由が?」
「僕は奇襲をしに来たわけではないんだ」
「違うのですか?」
「ああ、正確には調査をしていたんだ。まあ、運が悪かったんだよ。サイモンの部屋に証拠を探すために忍び込んだだけなんだ」
「え?」
「僕は確固たる証拠を得るために、サイモンの部屋の書斎などに入った。おかげで、サイモンが誰と関わり、何を依頼したかなどの計画書や、サイモンの日記などを見つけられた。そこから、僕の推理が正しいと分かったんだ。」
「まあ。では暴れるつもりはなかったと?」
「うん。サイモンの部屋で証拠を探している途中で、運悪く使用人に見つかってしまってね。逃げる道もふさがれてしまってね。思わず奇襲というやり方に変えて、家の中を暴れ回ったんだ」
「そんな……」
「宰相の部屋……城に忍び込むだけでも、罪は重いだろう? ならばいっそかたき討ちをしてやろうと思ったんだ」
ーーそれで、レイバーは捕まってしまったのですね。
私はレイバーの残した紙を思いだしました。
「でも、それならなぜ私を呼んでくれなかったのですか? もしかしたら、協力してもっと安全に、効率的にできたではないですか!」
すると、レイバーは申し訳なさそうな顔をしつつ「君を巻き込みたくなかった」と言いました。
そう返ってくるだろうと想定はしていましたが、釈然としません。
「でも……」
私が呟くと、レイバーは「まあ、僕が暴れたことにもう一つ理由があるんだ」と言いました。
「理由?」
「うん、こうやって、君が気づいて僕の後を引き継いで調査してくれると……思っていたからかな?」
レイバーはいつもの茶目っ気のある笑い方で、手を私の手に重ねてきました。
「騒ぎになったら、きっと君にも話が届くと思ったんだ。ほら、だって、今まさに君が来てくれただろう?これで僕は君に無事話ができた。いち早く掴んだ情報を、僕が囚われても君にどうすれば伝えられるのか考えた上での行動だったんだ」
「無茶ですよ。もし私が来なかったらどうしたんですか」
「でも、今君は来てくれた。僕は君を信用し続けたんだ。君が僕を信じて会いに来てくれると、僕は信じた。だから、君が見えたときは飛び上がるくらい嬉しかった」
レイバーの目にほんの少し力が入ったような気がしました。
私はなんだか嬉しいような、心配なようなむず痒い感覚になりました。
人生においてレイバーと過ごしたのはほんの少ししかありませんが、それでもなんだがずっと一緒いて、信用が培われていったような安心感があります。今ここに私がいるもの、なんだかんだ疑っておきながら信用して真実を話してくれると分かっていて来ている自負があります。
私は少しだけ、口の端がニッと上がってしまいました。
「もう、ずるいんですから。確かに、私もあなたを信じてしまってここに来ていますから、何言えないですね」
すると、レイバーは私の顔を見てはにかみました。
「ね? 僕の思った通りだ。こうやって君に話ができてよかったよ」
「そういうことにいたしましょうか」
お互いに、少しだけいつもの穏やかな空気に戻ったように感じました。




