領主と二人で
「うむ、それで? 君が私を訪ねて来るということは……あの件か?」
「はい。一体どういうことなのでしょうか? レイバーが襲撃?拘束されたとは? そもそもなぜレイバーのことを……」
「気になる点があるのは分かるが、まあ待て。まずはよく私からの手紙だと気づいたな」
「それは……領主様の印があったので……」
「さすが、知っていたか。クラートへの依頼もあの刻印だったし、さすがにバレたか」
すると、横からサイモンが横から口を出しました。
「そうですよ。私を経由せずに手紙を直接出すなんて、驚きましたよ。別に私に隠す必要はないはずですよ?だって襲撃された本人なのですから」
「まあ、確かにそうだな。いや、あれだ。緘口令を強いた本人が漏洩させるのが後ろめたくなってだな」
「はぁ、そんなことだとは思いましたが……」
サイモンが大きくため息をつきました。領主は「いやあ、すまない。ああ、そういえばだな」と少し、ばつの悪そうな顔をしました。しかし、領主はそう言いつつもサイモンに傍に来るように目くばせをします。サイモンが寄ると、何か耳打ちをしました。
サイモンは傍らで少し眉のところがぴくりと動きましたが、すぐに頷きます。
そして、少し時計を確認すると、「少し、所用ができました」と言い、急ぎ足で部屋を颯爽と出ていきました。
瞬く間に部屋には私と領主の2人になりました。
なんだか、嫌な予感がします。
私が、サイモンが去ったドアの方を見つめていると、横から声がしました。
「やっと2人になれたか」
領主は、誰もいないことを確かめると、おもむろに領主はふーっとため息をつきました。
先ほどまでは少し領主として少しだけ威圧感をだしていましたが、今は打って変わって、少し気を抜いたように背もたれにどっかりと背中を預けました。
「サイモンは別件対応のため、離席させた。これでもう大丈夫だ。」
「もう大丈夫とは……一体どういうことですか?」
すると、領主は少し手招きしました。何か、近く且つ小声で話したい素振りをしていたので、私は「失礼します」と一言添えて領主の横に座りなおしました。
領主の少し前のめりの姿勢になって話そうとするので、私も少し近づきます。
「実は、サイモンには秘密で手紙を送ったつもりだったのだ」
「秘密で?」
「少し複雑でね、直接君にだけ話そうと思っていた。失敗したがね。」
「そうだったのですか。でも私に依頼されるなら、サイモン様に秘密にする必要はないように思いますが……」
「そういう訳にはいかないんだ。君は昨日のサイモン達が襲撃された事件は、聞いたか?」
「襲撃があった……とまでしか聞いていません。しかもそれの犯人が知人だということも、領主様の手紙で初めて知りました。その知人ともしばらく会っていなかったので驚いてしまい」
「やはり、そうか。君に直接話そうと思っていたのは……その紛れもなくサイモンに話を聞かれたくなかったからだ」
「それは……なぜですか?」
「逆に聞こう。君は分かっているのではないか?」
「分かっている?」
「ああ。どうやら、君は、君たちは私よりも真相に近い可能性があるからね」
「真相ですか?」
「サイモンと、青年……レイバーだったか? と聞いて何か思いつくことはないか?」
ふと、私は腹部にひやりとした感覚を覚えました。そういえば、以前レイバーとサイモンについて調べていたことがありました。
バレたのでしょうか? いえ、でも誰にも言っていないのでそんなはずは……
すると、急に私が黙ったことで何かを察したのでしょう。
「やはり、何かあるのだな。」と領主が続けました。
ーーどう返したらいいのでしょう
思わず警戒してしまいます。
すると領主はクスリと笑いました。
「……そのように警戒しなくてもよい。試すような聞き方をして申し訳なかった。でも、今の反応を聞いて、私は少し自分の推理が正しかったのではないかと思って、安心した。」
「推理ですか?」
「ああ。今のままでは警戒され続けそうなので、こちらから手の内を話すことにしよう。その方が君も納得がいくだろう」
そういうと、領主は胸元から一通の手紙を取り出しました。
手紙を開くと、そこには見覚えのある文字がありました。
『僕だけのせいです。周りは関係ありません』
「……これは、何ですか?」
「これは、レイバーだったか。あの青年が捕まった際に、現場に残していた紙だ。押収時に私が預かった。どうやら、事前に描いていたらしい」
「レイバーが……?」
「少し調べさせてもらった。彼は貴族相手の商人で、一部の貴族とは面識があるようだった。彼が過去に関わった貴族からの情報だと、君とは平民街を拠点に度々会っていたようだな。なぜだ?」
この短時間でここまでの情報がつかめているとは。さすがですが、情報屋としては悔しいですね。私は少し黙ってしまいました。
しかし、領主は私の反応など気にせず話を続けます。
「偶然仲が良くなったとはいえ、一商人とこれほど親密なのはなぜだ? 恋情などなら話は別だが、君はクラート一筋だと聞いている。そういった関係ではなさそうではないか。」
「ええ、まぁ……そうですね」
「私は、彼に会ったことがない。だから、彼がどういう思考をして今に至ったのかは性格には知らない。ただ、君ならばこの青年について何か知っていると思ったのだ。そう考えているうちに、一つの仮説ができた」
「仮説ですか?」
「君と青年だけは何かに気づいていたということだ。共通の事情がなければ君たちが共に行動することはないだろう。そして、今回青年だけが行動に移した。」
「……」
「宰相、レイバーという青年。この二人に共通することが思い浮かばないとは言わせないぞ」
今まで少し穏やかに話していましたが、ここにきて声のトーンが少し低くなりました。
なんだか、部屋の空気が少しだけ冷たくなったように感じました。
私が少し強張ったからでしょうか。それを察して、「ああ、すまない。脅すつもりはない」と領主が言いました。ただ、その目は真剣に私を逃がすまいと捉えていました。
この場合、どう答えたらいいのでしょうか。
正直に言うべきでしょうか?でも、その場合私も共犯扱いになる可能性があります。
それに、宰相サイモンとのことに関しては、今は懸念があるだけで、私の元には証拠が少ない状況です。こんな状況下でレイバーが単独で行動したせいで私にも何がおこっているのか、すべてを把握はできていません。
どうしましょう。
私がずっと黙っているのを急かすことなく、領主は待っています。
ただ、しばらく沈黙が続いた後、私ではなくて、なんと領主が口を開いたのでした。




