真実の依頼
「もしや、サイモンの不審な動きについてか?」
私は領主からその言葉が出るとは思っていなくって、思わず目を見開いてしまいました。
表情の管理を徹底していたにも関わらず、このような機会に活かせられないのは未熟です。
ーーしまった。
これでは、肯定しているのも一緒です。
すぐに表情を戻しましたが、もう遅いでしょう。次の対応を考えなければなりませんね。もしかして、私も捕まる……と思った時、違和感に気づきました。
「え……不審……?」
サイモンの動きではなくて……”不審”な動き?
なぜ領主が”不審”などとつけたのでしょうか?
私がぽろっとつぶやくと、領主は意外な反応を見せました。
なんと、にっこりと微笑んだのです。
そして、「ああ、やはりそうか。そうなのか」とつぶやきだしました。
私は状況が理解できず、ぽかんとしてしまいます。
すると、領主は一気に私の両手を掴むと、大きく握手をしてきました。
「さすがだ。よくぞ気づいてくれた。もしや君ならと思っていたが。私の直感は正しかった」
私は訳もわからずただ喜ぶ領主に握手をされています。
「あ、あの?」
私が困惑していると、領主は少し咳ばらいをして、いつもの穏やかな話し口調にもどりました。
「すまない、私の勘が正しかったと証明されてつい、調子にのってしまった。今のことはクラートには秘密にしてくれ。常に冷静でいろと怒られてしまいそうだ。」
領主は目の前にあった紅茶を一口飲むと、話しだしました。
「最初にサイモンに話を聞かれたくないと言っただろう? 実はこの話をしたかったのだ。……正直に話そう。実は、サイモンが最近秘密裏に動いているようだ」
「秘密裏に?」
「ああ。不審な動きが目立っている。最近、隣領で不穏な噂が回っているのは知っているか?」
「……!! もしかして、竜の……」
「やはり、知っていたか。さすがだな。 そして、今回事件を起こしたレイバーという少年の一家の話も把握しているのだろう?」
「はい。」
「ああ、君たちはそこまで情報を掴んでいたか。では、それ以上の話は知っているか?」
「いいえ、これから調査する段階で、レイバーさんが領地に帰ってしまい……詳細を詰められないまま今に至ります」
「そういうことか……だから、今回の襲撃についても初聞きのように驚いていたのか。君はレイバーという青年が今回の事件を起こすとは把握していなかった訳だな?」
「はい、おっしゃる通りです」
実際、知りませんでしたし。そもそもこの領地に戻ってきていることも知らされていませんでした。
「では、ここからは私独自の調査結果を話す。まず、サイモンだが、最近不審な動きをするようになった。頻繁に他領に赴くようになったのだ。視察だということだったが、私の調査員の情報によると視察とは無関係の場所にも頻繁に訪れているようだった。……その頃だったか。記憶が混濁する者が現れ始めたのは」
「記憶が混濁……?!」
なんだか嫌な予感がします。
「ああ。一部の者の記憶が消えていることとがあったんだ。最初は物忘れだろう。病気だろう。などとしていたのだが、なぜか複数人に見られるようになった。それも、共通する内容を忘れているようだ。」
「そんな、共通して忘れるなんて」
「おかしな話だろう? 私は不審に思い、一部の者に試すようなことをしたが、確かに忘れているようだった。特に、隣の領地に行った者に顕著にその傾向が見られたんだ。」
「もしかして……」
私がそこまで言うと、「もしや、君も思い当たることがあるのか?」
私は頷きます。
ここで、私はドミニク隊長が露骨に「竜」という存在を忘れていたことをお話しました。
「竜……か。なるほど、隣領で竜の騒ぎがあったとの話は聞いていたが、そんなことになっていたのか」
「ご存じなのですか?」
「知っている。」
「宰相様や他の方はご存知ないようでしたが……」
「独自ルートで知ったんだ。しかし、サイモンが本当に把握していないかは疑いの余地があるな。それにやはり、知らない者……いや、記憶のない者が現れ始めたか」
「宰相様が嘘をついていると?」
「そのことだが、どうやら今回の件に繋がりそうだ。」
「繋がっているのですか?」
すると、領主は静かに頷きました。
「これは私の憶測ではあるが、サイモンは隣領で混乱を起こした上で、すべて我が領地パンタシアの陰謀だとするようだ」
「え?」
「その上で、隣領を救った英雄として、王族にでもなるつもりだろう。まあ、反逆というものだ」
「でも、この国ですでに宰相にまでなっておられるのに? 十分ではありませんか」
「人間の欲望、思想なんていうものはわからん。特にあいつの腹の底は分からないものだ。なんらかの方法で人の記憶を制御できる仕組みを手にいれて、きっと実現できると思い始めたのだろう」
「そんな……」
「私も気付くのが遅くなってしまった自分に非があるとはいえ、これ以上自体が悪化するのは望んでいない。現在、領地内外共に、比較的平和を築けていると自負している。願わくはこのまま何事もなく終わってほしい」
「それはもっともです」
「だから……だから、私は君に協力を命ずる。依頼を受けてほしい」
「依頼ですか?」
「君に、真実を知ってほしい。」
「真実を?」
「ああ。遅かれ早かれ、本当のところは君にサイモンの調査をお願いする予定だった。ぜひ、君の力で尽日を突き止めてくれ」
なるほど、二人きりの時点でいやな予感はしていましたが、そういうことですか。やはり依頼が来ましたね。
でも、私としても気になります。むしろ今までこっそりと活動してきた分、領主が背後にいるだけで活動できることが大きく増えそうです。
私としても、お師匠さまについての情報に迫れそうな気がして、悪い話ではありません。
「分かりました、私の力をもって、全力で協力させていただきます」
私が大きくうなずくと、領主は嬉しそうに微笑みました。




