裏切り
アレン達はなんだか私とレイバーに何かがあったのが気になるようではありましたが、私が微笑んだことで少しホッとした表情を見せました。
「ああ、でもよかった。こうやって誰かに竜の状況をお伝えできて安心しました。」
「もしかして、その近況を報告するために、先ほどはドミニク隊長に竜の話をしていたのですか」
私が聞くと、アレンはうなずきました。
「はい。なのに、隊長は覚えていないし困惑しましたよ」
「それは……確かに困惑してしまいますね」
「謝罪のつもりでに来たのに、誰も話が通じないのではないかと焦りました。つきましては……あなただけにはせめて言わせてください」
アレン達は仰々しく、並ぶと一斉に頭を下げました。
「先日は騒いでどうもすみませんでした。それに、俺たちのことを助けくれてありがとうございました」
私は慌てて「とんでもありません!」と返しました。
「貴族については少々疑問は残りますが、私たちの領地のせいではないと分かったのですから、安心できました。こちらこそ、報告をしてくださってありがとうございます」
私は皆さんに頭をあげるように促します。
「せっかくの機会なのですから、今後もよかったら、そちらのお話を聞かせてくださいね。」
私がこう続けると、アレン達は嬉しそうに「ぜひお願いします!」と返してくれました。
すると、向こうで休んでいたドミニク隊長がフラフラとしながらも、こちらに近づいてきました。
「そろそろ解散の時間です。今回はあまり長居できそうにはないので、この辺で終わりにしてください」
お開きのようですね。
アレン達と握手をし、また会う約束をして私たちはその場を離れることにしました。
◇◇◇
少し皆さんと離れ二人きりになった後、私は歩く足を止めました。
「で、レイバーさん。先ほどから黙っていますが、どうなのですか?」
やはり、自分でも驚くくらい低く落ち着いた声がでました。
信用していた人が裏切っていて、お師匠さまを攫った竜に関わっているかもしれない状況に、動揺よりも怒りよりも、何か心に穴が開いたような感情になりました。
レイバーは何かを考えているのか、腕を組みながらたまに口元に手をあるそぶりをしながら、ただついてきているようで、私が声をかけると同じように足を止めました。そして、ぽつりと返事をしました。
「うん。ごめんね」
「それは、何についての謝罪で?」
「これは、僕が不甲斐ないことについてかな?」
「竜について何かしっているのを黙っていたからですか?」
「いや、それは違うね。僕は本当に何も知らなかった」
どうでしょうか?
「でも、ご家族のことであれば知っていても当然なのでは?」
「いや、それがおかしいんだ。確かに、家族のことであれば把握していそうなのに、僕は知らない。自分の家族が竜に加担しているかもしれないなんて、一切知らなかったんだ。それに、そんな情報は来ていない。」
「レイバーさんだけ知らないなどありますか」
「ああ。きっと僕がいない間に何かに巻き込まれたんだ」
「巻き込まれた?」
するとレイバーは、うんと頷きました。
「だって、自分で言うのもなんだけど、僕は情報通なはずだ。それに、あの家族たちの性格上そんなことができるなんて到底思えない」
「でも、それも分からないではありませんか」
「そう、分からない。分からないんだ」
少しだけ沈黙が流れました。どう話を続ければいいのでしょうか。
本当にレイバーは、知らなくて巻き込まれただけなのでしょうか。知ってて、知らないふりをしているだけなのでしょうか。
また、私はぐるぐると悩みはじめました。
それを察したのか、レイバーは「今の状況では、僕が無関係であることを証明する術がない。」と言いました。
「でも僕はやっぱり、君には信用してほしいと思っているんだ。だって……君は……」とまで言ってレイバーは、少し逡巡して黙りました。
こちらに近づくと、先ほどとは違って、そっと優しく私の手を取ります。
「だから……僕は決めたよ。」
「決めた?」
「僕は、元の領地に帰る。帰ってこの目で事実を確かめてくるよ」
「帰るって、となり領に……ですか?」
「ああ、そして、君に信じてもらえるように証拠を掴んでくるよ」
レイバーは真剣な眼差しで、私の手を握りました。
ああ、これは本当に巻き込まれただけなのかもしれないですね。
ここで、私は気づいてしまいました。
私は、レイバーが私を裏切っておらず、ただ巻き込まれたただけだと、そうであってほしいと心の中では思っていることに。
なんだかんだ言って、私はレイバーを信用しつつあるのですね。
レイバーが必死に私からの信頼を取り戻そうとしている光景を、ちょっと嬉しく感じてしまいました。
でも私の心はお師匠さまのものなので、そんなに簡単には絆されませんがね。
「分かりました。私はあなたのことを信じたい。だからこそ証拠をしっかりと持って帰って、事実を教えてください」
そう返事をすると、先ほどまで眉根が下がってしまっていたレイバーの暗い顔が少しだけ、明るくなったように見えました。
「ああ。君を落胆させないよう、きっと持ち帰るよ」
レイバーはその翌日、隣領へと姿を消しました。
後日、帰ったレイバーが私たちの領……パンタシアの城で捕まったなんて、この時は誰が思ったでしょうか。




